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第3回:SRの目的とは? 【新版】経営企画担当者のためのIR/SR実践講座

こんにちは。
T&Aフィナンシャルマネジメントのさいとうです。

企業経営者や企業の経営企画部門に所属する人たちが知っておくべきIR/SRの知識・スキルについて説明している本連載。
前回はIRの基本的な内容についてご説明しました。

今回は、IR/SRのIRに対するもう一方のSRについてご説明したいと思います。
なかなか一般の方が耳にすることの少ないSRについての具体的な内容と、企業におけるその実践方法についてお話します。

≪T&Aフィナンシャルマネジメント≫
T&Aフィナンシャルマネジメントはベンチャー企業に特化した経営財務支援、クライアント目線に立った中小規模M&Aのご支援をしております。
また、上場企業をはじめとする大企業~中堅企業の経営企画をはじめとする経営管理部門のサポートなど、幅広なご支援をご提供しております。

SR(Shareholder Relations)とは?

SRはShareholder Relationsの略で、一般には「株主対応」と呼ばれます。
IRが、潜在、既存の投資家・株主に対して自社の内容を適時適切に説明し、情報の非対称性を解消することで株価の適正化を図る活動であったのに対し、SRは自社の内容を説明することは同じでも、自社への信任を集める、具体的には株主総会での議決権行使を促したり、賛成を促したりすることに特徴があります。

株主対応と聞くと、ある世代より前の方々にとっては「総会屋対策」を想起させるかもしれません。
総会屋とは暴力団の派生形で、企業に株主総会で騒ぎ立てたりしない代わりに金銭を要求していた人々で、この総会屋対策は、主に株主総会を取り仕切る総務部にとっては水面下ながら確実に遂行することが求められていた業務でした。

ただ、最近のコンプライアンス意識の高まりや、警察・公安による暴力団排除の動きもあって、このような総会屋対策は鳴りを潜めているのが現状です。

総会屋が激減した一方で、「特殊株主」と呼ばれる、株主総会において個人ベースで不必要に騒ぎ立てる人は依然存在しますので、株主総会運営においては特殊株主対応は現在でもチェック項目の1つとなっています。

また、昨今東芝を巡る動きなどでも明らかなように、「モノ言う株主」と呼ばれるアクティビストへの対応も最近は脚光を浴びています。
上場会社の株式はお金さえ払えば誰でも買えますので、アクティビストに株式を持たれた場合は、彼らの要求事項に対して、会社としての対応をしてゆかなくてはなりません。

いずれにせよSRは、既存株主に対して、自社への信任を得るべく株主とコミュニケーションを取り、そして、株主との信頼関係を構築してゆくという仕事になります。

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SRの手法

SRの仕事は結構地道なものです。
株主からの信任を得るというプロセスは一朝一夕にできるものではなく、普段からの地道な努力が必要とされます。
ここでは主に、機関投資家向けSRと、個人投資家向けSRについてご説明したいと思います。

機関投資家については本連載の別の回に詳しくご説明しますが、大きなお金を運用する投資主体になります。
生命保険会社や損害保険会社、信託銀行の投資部門などの金融機関、投資運用会社などがあげられます。

彼らは運用するお金の規模も大きいことから、積極的な企業への関与が昨今要請されており、日本版スチュワードシップコードなどに基づき、特に株主総会における議決権行使については、しっかりとした対応が求められています。

大手の機関投資家となれば、議決権行使担当者という、投資先の株主総会における議決権行使の賛否を判断する担当者が置かれていることが多く、「儲け」を求める投資担当者と、議決権行使担当者は峻別されていることが多いです。

したがって、SRの活動においてはこの議決権行使担当者にアプローチすることが必要です。
自社の株式を保有している機関投資家の議決権行使担当者にアプローチし、自社の内容を説明することでコミュニケーションを取り、自社への信任を獲得することで、株主総会における会社提案事項に賛意を受けることが目的となります。

また、大手の機関投資家になればなるほど投資先は多くなり、3月決算(6月株主総会)ともなれば、短期間に多くの投資先の株主総会議案を精査しなくてはならなくなり、物理的に全てを精査することが難しくなっています。

そこで存在するのが議決権行使助言会社と呼ばれる機関で、国際的にはISS(国際宇宙ステーションではありません!)やグラスルイスが有名です。

これらの議決権行使助言会社は毎年、議決権行使ガイドラインを設定し、それに基づき、各社の株主総会議案に対し賛否の助言を行います。
国内・海外の機関投資家は、議決権行使助言会社の賛否推奨を大いに参考にしていることから、議決権行使助言会社とのコミュニケーションも必須となります。

議決権行使助言会社とコミュニケーションを取り、自社の状況や、株主総会議案の内容を説明し理解してもらうことで、議案への賛成推奨を獲得するといった活動もSRに含まれます。

最後に個人投資家向けSRですが、重要でありながら、手法としては極めて困難な状況です。
なぜ重要かというと、個人投資家は自らが保有する株数が相対的に小さいため、株主総会の議決権行使率は一般的に低いといわれています。
一方で、議決権行使をしっかりとしてくれた場合、会社提案に対する賛成率が高いともいわれています。

そんな個人投資家に対しては、議決権行使を促す活動を積極的に行い、そして自社の提案への賛成を誘導することが必要となります。

機関投資家のように、1社1社コミュニケーションをとることが難しいものの、例えば株主通信を定期的に発行することや、株主向けのイベントを開催するなどして自社への理解を促進し、信任を得てゆくことが個人向けSRの手法となるかと思います。

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モノ言う株主(アクティビスト)対応

最近の東芝の事例をはじめ、かつては村上ファンドなど、モノ言う株主の台頭が目覚ましいといえます。

私自身もIR/SRコンサルタント時代、某企業の株式を保有し、会社に対して経営改善を要求してきたアクティビストの対応をしたことがありますが、アクティビストの主張は極めて「まっとう」な主張であることが多いです。

例えば、遊休資産の有効活用や、配当増額要求など、企業経営を熟知した投資家が企業に対して「痛いところ」をついて主張してくるのですから、企業側にとってもかなり怖い存在です(また、アクティビストの作成するレポートなどの資料は、大手コンサルティング会社などを起用して作成されているため論理的で、非の打ちどころがないような内容であることが多いです)。

ただ、アクティビストを総会屋の延長線上のように語り、会社にムリな要求をしてくる「悪者」のような文脈で語られることも少なからずありますが、企業経営にとって「痛いところ」をついてくることが怖いのであれば、「痛いところ」を限りなく少なくする効率的な経営をすればよいので、アクティビストからの要求を受けてしまう経営者には少なからず責任があることを自覚する必要があると思います。

とはいえ、アクティビストの自社株式の保有が明らかとなり、アクティビストからの質問状や要望を手にしたような「有事」となった場合、株主総会での会社側提案が否決されるリスクもありますので、そのような場合は経験の豊かなIR/SRコンサルティング会社とともにその方策を考えることになります。

究極的には委任状争奪戦(プロキシーファイト)にもつながることもありますので、そういったリスクに対して平時からコンティンジェンシープラン(有事対応プラン)を策定するなどの準備をしておくことが必要とされています。

まとめ

ここでご説明した通り、従来の株主対応は総会屋対策をはじめとする、非常に地味な仕事でした。
一方で昨今のガバナンス強化の動きや、投資家の企業への関与要請(スチュワードシップコードなど)により、企業側にとってのSRの重要性は増してきています。

アクティビストの要求に備えるような有事はそう多くはありませんが、一方で、株主としっかりとしたコミュニケーションをとることを継続することと、有事のためのリスク対応について平時から考えておくことが必要とされています。

【(新版)経営企画担当者のためのIR/SR実践講座】
第1回:IR/SRってなんだろう?
第2回:IRの目的とは?
第3回:SRの目的とは?
第4回:(コラム)「東証市場区分変更」
第5回:IRの対象とは?
第6回:機関投資家の種類とは?
第7回:個人投資家向けIRとは?
第8回:SRの手法とは?
第9回:(コラム)経営企画担当者が知っておくべき「コーポレートガバナンス・コード」とは?
第10回:IR支援会社が提供するIR/SRコンサルティングサービスとは?
第11回:実質株主判明調査とは?
第12回:実質株主判明調査を活用したIR/SR戦略とは?
【(旧版)経営企画担当者のためのIR/SR実践講座】
第1回:IRの目的とは?
第2回:IRの対象とは?
第3回:個人投資家向けIRとは?
第4回:機関投資家向けIRとは?
第5回:SRの目的と手法とは?
第6回:IR支援会社が提供するIR/SRコンサルティングとは?
第7回:実質株主判明調査とは?
第8回:実質株主判明調査を活用したIR/SR戦略

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