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【経営企画担当者のためのIR/SR実践講座】第3回:個人投資家向けIRとは?

前回の投稿(第2回:IRの対象とは?)で、狭義のIRのターゲットは個人投資家と、機関投資家の中でアクティブ運用を行っている投資家だと書いた。
今回は、個人投資家と機関投資家というターゲット属性のうち、まずは個人投資家を対象にしたIRの手法について書いてみたいと思う。

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個人投資家とは?

個人投資家とは、読んで字のごとく事業会社や機関投資家ではない、「個人」で株式投資をしている人々を指す。

個人なので機関投資家のように1株主あたりの投資金額は小さいが、国内の貯蓄主体の大きなウェイトを占めていることと同じ文脈で、東証が公表する資料によると、個人投資家の全銘柄における個人株主比率は17.2%と、比率としては決して小さくない。

そして株主数の視点においては個人株主は全体の97%を占めており、1ショットの規模が小さいからといって無視できる存在ではない。

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個人投資家の特徴

個人投資家を総じていうのであれば、以下の特徴が見られる。

議決権行使において会社側提案に好意的な一方で、世論に左右される傾向が強い。また、行使率が機関投資家に比して低い

小ロットの投資のため、株式の流動性確保に寄与してくれる存在

比較的長期保有の投資家が多く、一部のデイトレーダーのようなセミプロ投資家を除いて、空売り等のテクニカルな投資行動はあまり見られない

個人投資家の議決権行使動向

昨今の機関投資家の議決権行使動向は、スチュワードシップコードなどと相まって、会社側提案に厳しい傾向が見られる。

また、ISSやグラス・ルイスといった議決権行使助言会社の賛否推奨についても、スチュワードシップコード等の進展とともに社外取締役や女性取締役の登用状況、ROE基準等が厳格化されるなど、会社側にとって厳しい状況となってきている。

そんな中、個人投資家の議決権行使状況は会社側にとって好意的なことが多い。そもそもキャピタルゲイン狙いお個人投資家もいるわけではあるが、個人投資家がその銘柄を買う理由は、単純にその会社が「好き」であり、銘柄保有した段階から会社に対して好意的な姿勢を示すことが多いものと思われる。

ただ、特に国内の機関投資家と違って議決権行使が「マスト」となっていないことから行使率は機関投資家対比低めの傾向もある。国や地方公共団体の選挙と同じで、ウェイトの小さい自分の議決権を行使することにインセンティブがあまり働かないものと思われる。

したがって、個人投資家の議決権行使を促すことができれば、概ね会社にとって好意的な行使が期待でき、総会議案の可決がギリギリの状況等においては最後の頼みの綱になることも往々にしてある。

一方で気をつけなくてはならないのが、個人投資家は世論に左右されやすい存在ということ。マスコミなどのメディアでバッシングを受けるような事態となると、すぐに社長を含む取締役選任議案に反対票を投ずる主体であるということに注意が必要だ。<br>好きになって保有した銘柄であっても、変な風評が立つことが多かったりすると、すぐに感情的な議決権行使をする主体であるともいうことができる。

株式の流動性に寄与する投資主体

個人投資家はその売買頻度が小ロットで高いことから銘柄の流動性の確保に寄与してくれる主体とも言える。

機関投資家の中には、少なくとも1日の出来高が金額ベースで1億円はないと投資対象としないところも多く、個人投資家が小ロットで売買を活発に行うことで流動性が高まるという効果もある。

しかし、こちらも議決権行使と同様、メディア等でのバッシングが報じられたり、諸々の機関投資家にとってはあまり気にもしない事件でも、個人投資家は情緒的に売買をする主体ともいえ、個人投資家の存在が株式市場における裁定取引を可能にしているとも考えられる。

長期保有

機関投資家については次回の連載で書いてみようと思っているが、ヘッジファンドなどの短期売買をメインの投資方針としている投資家も多く、長期保有を期待できない可能性も高い。

一方で、個人投資家の中にはデイトレーダーのような人々も一定数存在するものの、総じて個人投資家は長期保有を前提とすることが多い。配当金狙いや株主優待狙いの個人投資家も多く、概して長期保有の個人投資家が多い。

個人投資家向けIRの手法

機関投資家向けIRの手法は次回以降に譲るが、個人投資家向けのIRは極めて非効率かつ効果測定が難しいというのが現実だ。

というのも、不特定多数の「投資家」に自社をPRし、自社の魅力を理解してもらい、そして自社の株式を購入してもらうというフローは極めて労力のかかる作業となる。

一般的な個人投資家向けIRの手法を紹介し、そのメリデメについて検討してみたい。

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一般的な個人投資家向けIRの手法

一般的な手法は以下の通りかと思われる

個人投資家向け決算説明会/会社説明会の開催

個人投資家向けIRフェスタ等への参加

決算説明会のオンデマンド配信

株主/投資家アンケート等の実施

株主通信の発行

決算説明会/会社説明会の開催

証券会社主催のものやIR支援会社主催のもの、また、自社単独開催のものや、他社との共催のものなど様々あるが、一般的には株式市場での有名人の講演と、発行体の会社説明がセットになったものが多い(優待生活の桐谷さんの講演で集客し、後段で自社の会社説明を行うようなパターンが一般的)。

発行体として30〜60分程度自社のことについて話ができるので、自社に対する理解促進には繋がる。

特にBtoB企業の場合、自社の名前すら知られていないケースが多く、そのような場合は自社の理解を促進することに大きな意義がある。

ただ、この説明会。相手となるのが集客の手法や会場のキャパシティにもよるが一般的には50〜200名程度であり、その聴衆が自社のことを理解し、そして株式購入に繋がる可能性等を考えると、極めて非効率であることが多い。

そして、平日昼間開催などの場合は、総じて有閑老人がお土産目当てに来場することも少なくなく、効果測定はなかなか難しいものの、普通に考えて非効率極まりないことも往々にしてある(平日夜開催の現役ビジネスマン向け説明会も存在するが、日本でお金を持っているのは残念ながら有閑老人たちだ…)。

IRフェスタへの参加

日経や東証が主催しているものが有名だ。コロナの影響で延期や不開催の影響も懸念されるが、影響が収まることには通常通り開催されるようになるものと思われる。

これは来場者数が数千人のケースも多く、多くの来場者に自社のことを知ってもらう好機であることは間違いない。

しかし、説明会ほどの時間拘束もない中で自社理解を促す難易度が高いことと、こちらも有閑老人の集まりとなることが多いことから、費用対効果に見合った成果をあげられるかどうか微妙だ…。

決算説明のオンデマンド配信

これは最近証券会社等が主体となって流行っている方法。個人取引に強いSBI証券などのオンデマンド配信が有名だ。

個人向けの説明会が限定的な相手にしか訴求しえないのに対し、こちらの場合は不特定多数の人々に配信することができ、リーチ数が格段にアップする。

また、SBI証券主幹事の発行体であれば、配信は無料で対応してくれることから、手法としては一考に値すると思われる。

唯一の欠点としては、動画をじっくり最初から最後まで見てくれるかどうか?という点。私のようなセッカチな人間にとっては、動画視聴は苦痛なので、ちゃんと見てくれるかどうかが欠点だ。

アンケートの実施

これは証券会社やIR支援会社が提供するプラットフォームを活用し、自社の認知度をあげるアンケート等を実施する方法だ。

アンケートのインセンティブとして金券等の配布をしたり、プラットフォーム上でのポイントが加算されることでアンケート実施を促す仕組みだ。

アンケート実施のために自社HPやIRサイトを閲覧される可能性も高く、自社認知の手法としては一定の効果が得られるもの。

ただ、自社認知してもらっても、自社株式を購入するまで至るかどうかが不明であり、費用対効果のバランス上、割とこれも難しい。

株主通信の発行

これは潜在株主というよりも既存株主のファン化施策の一環だが、招集通知や議決権行使結果を送付する際に株主通信と呼ばれる小冊子を作成し、自社の1年間の奇跡等を印刷し配布するというもの。

自社のファンにとっては嬉しい施策であって、長期保有株主の創造に寄与するものと思われる。

これの欠点は株主総会前という多忙な時期に株主通信を作成しなくてはいけないという手間隙の問題と、コストの問題。そして、既存株主向けということもあり、新たな株主創造のツールにはならないことに注意が必要だ。

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まとめ

上記に書いてきたように、諸々の事由から個人株主は無視できない存在であることは間違いなく、その活発な創造はIRにとって大きなテーマだ。

しかし、ではどのように個人向けIRを実践するか?という点については問題も多く、なかなか難しい。

自社の置かれている状況もマチマチなので正解はないかもしれないが、費用対効果を常に見据えて、効率的なIRを検討する必要がある。

一方で、特に個人向けIRはBtoCの会社にとっては自社商品等を訴求できる副次的な効果もあるし、BtoBの会社にとっては自社の名前等を知ってもらう、いわばPR効果も期待できるということだ。発行体によっては、IRをPRの一環としてとらえて、PR予算も含めてIRに対峙しているところも多い。IRは究極的なPRとしての要素も内包していることが垣間見られる瞬間である。

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経営企画担当者のためのIR/SR実践講座
第1回:IRの目的とは?
第2回:IRの対象とは?
第4回:機関投資家向けIRとは?
第5回:SRの目的と手法とは?
第6回:IR支援会社が提供するIR/SRコンサルティングとは?
第7回:実質株主判明調査とは?
第8回:実質株主判明調査を活用したIR/SR戦略
【(新版)経営企画担当者のためのIR/SR実践講座】
第1回:IR/SRってなんだろう?
第2回:IRの目的とは?
第3回:SRの目的とは?
第4回:(コラム)「東証市場区分変更」
第5回:IRの対象とは?
第6回:機関投資家の種類とは?
第7回:個人投資家向けIRとは?
第8回:SRの手法とは?
第9回:(コラム)経営企画担当者が知っておくべき「コーポレートガバナンスコード」とは?
第10回:IR支援会社が提供するIR/SRコンサルティングサービスとは?
第11回:実質株主判明調査とは?

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