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時計の契約:第5章22時

22時:共鳴する記憶

これで全ての文字がそろった
「ア・マ・ル・ヴォ・ラ・ヴィ・ナ・レ」
意味は全く分からない。白い悪魔が口を開けた
「この呪文は一度のみだ。正しき言葉を導き出した時、本の力を解き放ち、この世界が解放される」続けて黒悪魔が口を開く。
「間違えてしまえば、全員消えてなくなるだろう、お前たちもそして、俺たちも」
その言葉の重さに息をのんだ。たった一度きり。俺たちは文字のパズルを一回で当てなければならない。全く意味が分からないパズルを見てくじけそうになる。俺たちは考え、いろんな言葉の並び替えをしてそれらしい言葉を探した。だが全く分からない。その時、俺はさっきの白い髪の毛の少女の言葉を思い出した。

「あなたたちの共通のことを思い出して、きっと大丈夫だから」共通のことと言っていた。何のことを言っているんだろうか。
はるはいわば俺だ、世界線が違う俺だ。共通のことだらけのようでそうでない。まず俺たちだけ名前が違った。遙の家族はじいちゃんだけで、俺(颯空そら)の世界は、じいちゃんだけいない。まるで反対だ。悪魔の色も反対だった。俺たちの共通点は何なんだ。俺は、真っ白い毛の可愛い猫アバターの遙と白い悪魔を見比べた。
猫、悪魔、猫、悪魔。白い猫、白い悪魔・・・。俺はハッとした。

俺のアバターは黒魔法で黒い猫。小さい時に虐待されていた黒猫を助けたことがあって、その猫をイメージした。遙もまさかの同じ理由で、白い猫を助けたことがあるらしい。それで白い猫のアバターだった。これだ!!
「みんな、よく聞いてくれ。多分だけど、悪魔は俺たちが小さいころ助けた猫じゃないかな。」
遙と悪魔たちは首をかしげる。遙は落ち着いて答えた
「だったとしてさ、今この呪文とどんな関係があるの?」
実は一つ気になることがあった。あの時の猫のことを思い出すことはできても、猫につけた名前だけがどうしても思い出せない。家で初めてゲームのアバター作成をする時に、なぜかあの時の猫が頭に浮かびあの猫を再現した。だけど名前が思い出せなかった。そして遙も同じだった。これが唯一の共通点ではないかと考えた。遙も猫につけた名前を思い出せないでいた。
 
あれはとても小さいころだった、記憶があいまいなほど2歳か3歳かそれくらいだったと思う。公園のブランコに乗っていた時、小さな本当に小さな声が聞こえた。その声のほうへ行くと、花壇の隙間に瀕死の猫を見つけた。明らかに虐待をされたであろうその猫は、ひどい姿だった。目は腫れ、よだれと鼻水が垂れガリガリで何日も食べてないのがわかるほどに。体中に切り傷があり幼いながらにも辛い気持ちになったことを覚えている。どうにか助けてあげたくて、俺は母さんと一緒に近くの病院へ行ったんだ。退院するまで毎日通って、俺の名前と猫の名前をずっと教えていたことがあった。

遙は泣きながら話してくれた。あの猫の姿を思い出すと胸が痛くなる。俺たちは白と黒の悪魔が涙を流していることにやっと気が付いた。黒い悪魔が言う
「思い出した。」
白い悪魔も続けて言う
「全部思い出したよ」
ひどい環境で彼らは生きるのに必死だった。なんとか抜け出したのはいいけど生きていけるほどの生命力がなかった。その時に俺たちに拾われたようだ。だけどまた小さな箱に入れられ、抵抗する力さえ残っていなかった。知らない奴らと一緒に過ごす空間が怖くてしかたなかった。また何かされるんじゃないか、そう思うと人間に対しの憎悪しかなかったんだ。だから、逃げ出すことしか考えてなかった。悪魔たちの辛い思い出に共鳴した。


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