見出し画像

損失を弁償しますという申し出を断り続ける理由

自分のミスによる損失を弁償します、あるいは、損失分を給料から引いておいてくださいという申し出は意外なほどによくあるもので、体感値ですが、ほぼ必ず年に一回以上は遭遇します。

無駄な発注をしてしまった、値引き対象ではない商品を値引いて売ってしまった、見積り書の項目が一つ抜けていて金額が足りなかった、などなど、理由は千差万別なのですが、学生時代のアルバイト先の職場から現在の職場に至るまであらゆる職場で遭遇します。

私自身、アルバイト時代から現在に至るまで多少なりとキャリアを積み上げているので、そうした報告を傍観していた立場から実際にその報告に対応しなければならない立場に変化しているのですが、それに遭遇するたび、またかと思わされるもので、損失補填の申し出は理由を問わず断固却下することに決めています。

今週も1件、その対応がありました。

「会社で定められた未満の金額で顧客と契約をしてしまったのでそれを給与から天引きして埋め合わせさせてください」という申し出であり、具体的にはネットで販売する商品の値段を間違えて入力してしまい、10分ほどで気付いて修正したものの、その10分の間に一人に買われてしまっていたというものです。

ミスによる損失金額は1万円程度で、正直弁償だなんだと騒ぐほどのレベルではありません。すみませんでしたという報告であれば、次からは気をつけてねで終わる話です。

ところが今回は、1万円を給料から弁償させてほしいという申し出がありました。ということで、例にもれず却下することになったわけです。

そして、対応方針としてはやや厳しい話とは理解しつつも、当該顧客と連絡を取り、価格記載にミスがあったことを伝え、正規の価格を払ってもらうように依頼すること、そしてその顧客にそれが断られたら改めて相談に来るよう指示をしました。

-------------------------------------

損失補填の申し出を断らなければいけない理由としては、業務中の過失による損失を従業員個人に埋め合わせさせると雇用主の方がマズい立場になってしまうから、という法律的な話ももちろんあるのですが、それ以上に重要な問題があると考えています。

自腹で弁償させてほしいという発言は、一見、正直で、責任感があり、潔い態度に見えてしまうものですが、実際は危険で卑怯な発想だといえます。

まず、自腹で損失を埋め合わせするというのはとどのつまり、自腹で誠意を見せているので、今回のミスについては追及せず、目をつぶってほしいと言っていることと同じで、根本的に卑怯な発想だと言わざるを得ません。

ミスをした自分が損をすれば丸く収まる、というのは事実その通りなのかもしれませんが、それは裏返せば自分で抱えきれない問題は丸く収めることはできないということも意味します。

1万円なら給与天引きで何とかなるかもしれませんが、10万円、100万円のトラブルでも同じく給与天引きを申し出るのでしょうか。それができないのなら、1万円であっても自分が埋め合わせをするなどと安易に言うべきではありません。

次に、自腹で弁償という発想は、担当者が自分で勝手にイレギュラー対応の方針を決めてしまうという意味で、コンプライアンスの観点から非常に危険な発想だということも重要です。

例えば先の例で1万円を自腹で処理してしまうと、安く買えてしまった顧客は自分が安く買えたという事実も、そのいきさつも何も分からない状態のままになります。

そこに顧客同士の横のつながりがあり、ある人だけがなぜか1万円安く買えたという噂だけが広まってしまった場合、どうなるでしょうか。

あの人は1万円安く買えたのに、自分は安く買えなかった、あそこの会社は不公平な会社だなどと噂になってしまうと、トラブルは尾ひれがついてエスカレートし、どんどん波及していきます

トラブル対応というものは初動が重要で、担当者が一人で勝手な判断を下すことは一番よくないことです。会社組織を守るうえでも、従業員を守るうえでも、組織を巻き込んで全社的に判断することが大切になります。

最後に、自腹で処理するというのが基本的に逃げ腰の発想という点も、当該従業員の将来を考えるうえで問題です。

卑怯という話とも重なりますが、自腹という発想は、顧客に対しても、自社の上司に対しても、「自分の設定ミスで1万円安く誤記載してしまっていました」と正直に言って怒られるのが怖いという気持ちの表れにほかならず、自腹で何とかしてしまった方が気が楽だという話です。

先に書いた通り、1万円程度ならいざ知らず、年次が上がって取り扱う取引の金額も大きくなった段階で10万円、100万円という金額のトラブルが発生した場合、自腹でどうにもできないのであれば、顧客と交渉して着地点を探し、解決を模索するという仕事が必要になります。

1万円のトラブルも解決できないような人間が、10万円・100万円といったレベルの問題を解決できるでしょうか。

だからこそ今回は、やや厳しい話とは理解しつつも、当該顧客とコンタクトを取り、価格記載にミスがあったことを伝え、正規の価格を払ってもらうように依頼すること、そしてその顧客にそれが断られたら改めて相談に来るようにと指示を出したわけです。

--------------------------------------

結果論としては、安く買えてしまったその顧客は優しい人だったようで、むしろ最初から金額がおかしいと思っていたと言いながら正規の料金を支払ってくれたという決着でした。

私としても要らぬ仕事を抱えることになり、当人としても気乗りのしないトラブル対応をすることになってしまったわけですが、組織としても担当者としても、小さいことですが確実な成長を手にしたと思っています。

自腹という発想が出てきたことを多少残念に思う部分はありましたが、とはいえ率直に担当者自身の考えを相談してもらえたことは、風通しの良い組織だったという意味で不幸中の幸いだったと考えています。


本日は以上です。
コメントやSNSシェア、フォロー、「スキ」機能で応援いただけますと励みになりますので、是非お願いします。

Twitterも是非フォローお願いします!→@sai_to_3

それではまた次回。

2022.3.13 さいとうさん


よろしければサポートお願いします!より良い記事を執筆するために有効活用させていただきます。