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「欲望」と「恐怖」が人を動かす

「沈没船ジョーク」という有名なジョークをご存知でしょうか。

Wikipediaにも載っている下記のようなものです。内容を見ればピンとくる方も多いでしょう。

沈没しかけた船に乗り合わせる様々な国の人たちに、海に飛び込むよう船長が説得を行う。
・アメリカ人に「飛び込めばあなたはヒーローになれます。」
・イギリス人に「飛び込めばあなたはジェントルマンになれます。」
・ドイツ人に「飛び込むのはルールです。」
・イタリア人に「飛び込めばあなたは女性に愛されます。」または「先程物凄い美人が飛び込みました。」
・フランス人に「飛び込まないでください。」
・ロシア人に「海にウォッカのビンが流れています。」
・日本人に「皆さん飛び込んでます。」
・韓国人に「日本人は飛び込んでます。」

引用元:エスニックジョーク - Wikipedia

世界各国の民族の、ある種ステレオタイプな国民性を風刺する、いわゆるブラックジョークの一種なわけですが、あらゆる国の人をターゲットとしうる性質上、これは比較的マイルドなブラックジョークと言えそうです。

そして誰しも多かれ少なかれ心当たりがあることだからこそ、大きく広まっているのでしょう。

内容は人を飛び込ませるために、すなわち人を動かすために、手を変え品を変え説得を行うというものですが、各国の人の心をくすぐる手法は大きく「欲望」をくすぐるものと「恐怖」をくすぐるものであることに気づかされます。

アメリカ人に「飛び込めばあなたはヒーローになれます」というのは、ヒーローになりたい欲望。

イギリス人に「飛び込めばあなたはジェントルマンになれます」というのは、紳士という存在に対する憧れ、これもすなわち欲望です。

イタリア人に「飛び込めばあなたは女性に愛されます」または「先程物凄い美人が飛び込みました」、というのは色欲です。わかりやすいですね。

一方で恐怖をあおるものは、日本人に「皆さん飛び込んでます」というのが一番わかりやすいでしょう。仲間はずれになりたくない、という恐怖心をくすぐっています。

韓国人に「日本人は飛び込んでます」というのは、日本人に先を越されたくないという不安感、これも恐怖の一種と言えそうです。

フランス人に「飛び込まないでください」というのは、少し婉曲的な表現なのですが、「英語が理解出来ても知らないふりをする、自尊心の高い者が多い」という意味だそうです。自尊心とは、「他人と同じではありたくない」というものですから、これも恐怖の一種と言えるでしょう。

このように、「欲望」と「恐怖」をくすぐるというのは人を動かす、すなわち人に自分の言う通りの意思決定をさせる手法として、広く通用する方法です。もちろん、ビジネスの場面でもいたるところで使われています。

本日は、ビジネスにおける「欲望」と「恐怖」をくすぐる手法と、それらを少し演繹した発展形について解説していきたいと思います。

1.ビジネスの場面における具体例

よくある広告・セールスは基本的に人の欲望を刺激することが出発点です。

物欲、食欲、といった欲は小売業や飲食業と直結していますし、ほとんどのサービス業は、「自分でやるのは面倒くさいからやりたくない」という欲望の解決手段です。

美味しい食べ物がある。
暖かいコートがある。
遠くまで見渡せる望遠鏡がある。
速く快適に移動できる自動車がある。

どれも全て欲望の例です。

一方、恐怖はどうでしょうか。

欲望には根源的な欲望が存在するのに対し、恐怖とはいずれも想像力を伴うものです。病気になる恐怖、貧しくなる恐怖、損をする恐怖、嫌われる恐怖などなど、未来に対するマイナスのイマジネーションが恐怖です。

今日までデパートで洋服のバーゲンセール。明日買った自分は今買った自分より損をしている
ここで薄毛治療をしなければ、明日の自分は今日より禿げている
新型のスマートフォンに買い替えないと、周りの人間から取り残される。

こうした例からわかるように、恐怖とは、未来の自分を、今の自分または他者と比較することによって生じるものです。

欲望をくすぐることと恐怖心をくすぐることは、どちらも相手に自分の都合の良い意思決定をさせる方便ではありますが、アプローチの方向性としては明確にベクトルの異なるものといえるでしょう。

2.抽象度を上げて考える

前項で「欲望」と「恐怖」をくすぐる具体例について書いてきましたが、ここで少し抽象度を上げて考えてみたいと思います。

広く一般に人に「刺さる」、欲望や恐怖とは何でしょうか。
いきなり聞かれても難しいですよね。しかし答えは無数にあります。

一つの考え方として、冒頭の「沈没船ジョーク」が参考になります。

ヒーローとしてほめたたえられたい。
周囲から尊敬を集める紳士になりたい。
仲間外れになりたくない。
他人と同じではありたくない。

何になりたいか、と聞かれてはっきりと答えられる人は少ないですが、こうなりたいか、こうなりたくないか、というイエスノーの二択は、案外ほぼ万人に通じる共通解があるものです。

こういった、少し抽象的な、万人に通じそうな「なりたいorなりたくない」の共通意識をたくさん持っておくことが、広告・セールスの強い武器になります。

かっこいい人間だと思われたいから、高級車を買う。
不健康で早死にしたくないから、健康食品を買う。
朝遅くまで寝ていたいから、会社の近くに住む。
不安定な雇用になりたくないから公務員を目指す。

あらゆる行動には欲望と恐怖が伴います。

自分の目の前にいる相手にはどんな欲望や恐怖があるか、抽象化して整理し、目の前の事象に当てはめる訓練が有用です。

3.欲望と恐怖は表裏一体

欲望と恐怖について抽象化を重ねていくと、最終的には、

「あなたは変わりたいのか、変わりたくないのか」
「あなたは周囲から抜きん出たいのか、抜きん出たくないのか」
「あなたは周囲の環境を変えたいのか、変えたくないのか」

こうした問いかけにまとまっていきます。

そう、ここまで読んでいただいた方にはもうお分かりのことだろうと思いますが、「こうなりたい」という欲望と、「こうなりたくない」という恐怖は表裏一体の存在です。

かっこよくなりたいという欲望は、ダサくなりたくないという恐怖の裏返しです。のんびり生きたいという欲望は、時間に追われたくないという恐怖の裏返しです。

こうした欲望と恐怖を客観的に考えてみることは、目の前の人を思い通りに動かすこと、すなわちビジネスの近道であることは間違いありません。

上手くいかなくて思い悩んだときは是非、自分の欲望と恐怖は何か、自分の顧客の欲望と恐怖は何か、立ち戻って考えてみるのがオススメです。


本日は以上です。
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それではまた明日。

2022.1.21 さいとうさん


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