栗岡志百

アクション要素のあるシスターフッド物語を読みたい、なかなか見つからない——から、自分で…

栗岡志百

アクション要素のあるシスターフッド物語を読みたい、なかなか見つからない——から、自分で書いてみように。障害で中断している合気道への思いが、養父母にすくわれ、血縁家庭でのヤングケアラー、毒親、精神的ネグレクトが、書くことで昇華されているところがあります。

マガジン

  • [小説]パンは銃弾

    <あらすじ>  遺体から〝死体〟まで扱う葬儀社の一員、宇江田トニーは、気持ちの拠り所にしている妹を射殺体で発見した。これが原因となり、不安定の兆しをみせるトニーに、幹部の胡バイロン婉月は、対立組織の未成年構成員だったソニ・ベリシャの教育係を強要する。  バイロンの思惑は、ソニを利用した対立組織への対抗策であるとともに、トニーの亡き妹の代役をさせること。そしてソニもまた、ある依頼を負ってトニーに近づいていた。  最初こそソニの存在に反発していたトニーだが、元来の気質もあって徐々に受け入れ始める。しかしソニが迷いながら「依頼」を果たしたとき、トニーは自失し、窮状をまねくことになる。

  • [小説]青と黒のチーズイーター

    <あらすじ> 市内最大の繁華街「ミナミ」を管区にもつ、南方面分署警ら課のクドーとリウは、<モレリア・カルテル>の内部情報を持ち出した、元構成員ダニエラ折場の近親者、高城ルシアの警護と証拠品の回収にあたることになる。  警察側に内通者がいたことで疑心暗鬼になっているふたりに苦心しながら協力を得るものの、内通者によって追手が迫り、動きを封じられていく。援護が得られず孤立するなか、挽回するキーは、違法建築を含めた建物が密集し、立体迷路となっている地の利。そして、この街の〝幽霊〟だった。

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[連載小説]アイス・スチール;チョコミント 一章 2話 その仕事、業務範囲外

2話 その仕事、業務範囲外  ほとんど自宅と化した安いゲストハウスで、アイスは朝を迎えた。  朝食の定番は、買い置きしておいたパンと豆乳。時間に余裕がある日は、階下のフードコートまで下りる。オフのこの日は、グリーンカレーヌードルをテイクアウトしてきた。  食後は新聞を斜め読みしながらインスタントコーヒを飲むのも習慣になっている。ベッドだけでスペースがほぼ埋まる狭い宿泊部屋で、ドリップコーヒーなど望めないし、なくてもいい。お手軽第一のコーヒーで充分なのがアイスの味覚で、ゆった

    • [連載小説]アイス・スチール;チョコミント 一章 1話 逃走は女の子をつれて

      1話 逃走は女の子をつれて  佐藤アインスレーの容姿で目立つところといえば、平均より少し高い身長ぐらいしかない。略名の「アイス」からアイスクリームを連想する者もいたが、ふくよかな体型というわけでもなかった。  アイスがまだ十代の頃、北欧系の血が混じっていると、遠い親戚筋から聞いたことがある。あやふやなのは、両親そろって不明のうえに、ご先祖などアイスにとって、どうでもいいことであるからだ。その親戚とは元から疎遠だったこともあり、真偽を確かめないままになった。  北欧系といって

      • [連載小説]アイス・スチール;チョコミント 序章 見ぬもの清しーー知らなければ平気

        <あらすじ> 親友の娘、ミオの後見人になった怜佳は、非合法な仕事をしている夫ディオゴの横領から守るため、夫のビジネスパートナーである佐藤アインスレー、通称アイスを味方に雇い込もうとする。  故障を抱え引退を考えていたアイスだが、感じるところがあって受け、白杖を〝操る〟整体師グウィンとともに、ディオゴの内縁の息子でもある一太たちからミオを護ろうとする。理系の知識を悪用してディオゴへの報復をはかる怜佳、グウィンは故国で叶わなかったことをミオに重ね、一太はアイスへの複雑な思いを持

        • [小説]パンと銃弾 8章 4話 苦くて甘い、苦しくも楽しくも

          4話 苦くて甘い、苦しくも楽しくも  トニーは車のドアを開ける前に、ソニに念を押した。 「部屋に帰ったら、明日の出勤にそなえて。今日このまま退所するわけじゃないんだから」 「律儀なんですね」 「アパートに送るぐらいはしてあげる。乗る?」 「いきます」  食い気味に速答された。 「そんなに信用ない? ここで別れて、そのまま施設に放置とかしないのに」  疑われている視線を感じながら運転席に乗り込んだ。 「アントニアさんはこれからどうするんですか?」 「日帰りで帰るつもりだったけ

        [連載小説]アイス・スチール;チョコミント 一章 2話 その仕事、業務範囲外

        • [連載小説]アイス・スチール;チョコミント 一章 1話 逃走は女の子をつれて

        • [連載小説]アイス・スチール;チョコミント 序章 見ぬもの清しーー知らなければ平気

        • [小説]パンと銃弾 8章 4話 苦くて甘い、苦しくも楽しくも

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        • [小説]パンは銃弾
          32本
        • [小説]青と黒のチーズイーター
          42本

        記事

          [小説] パンは銃弾 8章 3話 シスコンなんて気にしない

          3話 シスコンなんて気にしない  ハンドガンの間合いをつくるトニーの足取りは、なめらかだった。石や木の根の凹凸を落ち葉が隠した地面でも、つまずくことがない。  ソニも提案された手段に呼応する。  膝をゆるめ、瞬時で反応できる姿勢をつくる。  とはいえ、ルジェタに対したときに使っていたシグP 224は、言われるままトニーに渡してしまっていた。  こういった場面になることをトニーが想定していたのかはわからないが、自分だけ銃がなくてもアンフェアだとは思わなかった。スポーツではない

          [小説] パンは銃弾 8章 3話 シスコンなんて気にしない

          [小説] パンは銃弾 8章 2話 世間の正解は、わたしの不正解

          2話 世間の正解は、わたしの不正解  ソニをうながすでもなく、トニーがさっさと歩き出した。ついてこないなど疑ってもいない様子。  ソニは素直に従おうとした。 <テオス・サービス>に連れ戻されるのか、また別の場所に行くのか。なんにせよ、トニーとの話はまだ終わっていない。  ポケットには、ついさっきルブリから預かったものがあった。 「これ、ウィダに渡しといてくれるか」 「はい……?」  包んでいた濃紺のハンカチがとかれる。  受け取ろうとした手がとまった。トニーを追いかけること

          [小説] パンは銃弾 8章 2話 世間の正解は、わたしの不正解

          [小説] パンは銃弾 8章 1話 Home bittersweet home. 泥中で咲く

          1話 泥中で咲く  ルジェタの死角——木立を利用して上から襲ってきたソニに、回避が間に合わない。  治りかけている右肩に激烈な痛みがはしった。  よりによって右肩とは忌々しい。宇江田アントニアにやられたときのことを思い出した。  左手で傷口を探る。突き刺さっているモノを引き抜いた。  ボールペンだった。  凶器として誤使用された筆記具を投げ捨てる。ナイフを左手に持ち替え、周囲を探る。ベリシャの姿はとっくに消えていた。  斜め後方から、小さな乾いた音。ナイフで振り払いながら振

          [小説] パンは銃弾 8章 1話 Home bittersweet home. 泥中で咲く

          [小説] パンは銃弾 7章 3話 枷がはずれる

          3話 枷がはずれる  テーブルを拭きおわったアオイは、客が入ってきた気配に小さな溜め息をついた。  閉店時刻のカウントダウンがはじまったというのに、めんどうくさい。せめてテイクアウトであってくれますようにと願いつつ、注文カウンターのほうに目をやった。 「あ……さっきの?」  小声でつぶやいたはずなのに、その客はアオイに振り向いた。 「いま初めてきたとこだけど?」 「あっ……」  ちょっとがっかり。  ナイフ男を放り出してくれた人が戻ってきたのかと思ったのだ。こちらにむけた顔

          [小説] パンは銃弾 7章 3話 枷がはずれる

          [小説] パンは銃弾 7章 2話 脇役も策する

          2話 脇役も策する  若年犯罪者更生施設<フェロウ・インダストリーズ>の駐車場は、隣接する総合運動施設との共用になっていて、三百台は駐められそうな広さがあった。  大会でもあれば一杯になるのだろうが、いまは出入り口近くに、まばらに駐まっているだけで閑散としている。  テイクアウトしてきたブレンドティーとクロワッサンを手に、施設寄りに駐められた車のドアをあける。  運転席で待っていた期間限定の相棒に差し入れを手渡した。 「紅茶?」 「コーヒーのほうがよかった? 喫茶店で飲んで

          [小説] パンは銃弾 7章 2話 脇役も策する

          [小説] パンは銃弾 7章 1話 血となる糧は

          1話 血となる糧は  生活の場を若年犯罪者更生施設<フェロウ・インダストリーズ>に移してからも、ソニは体力の維持に余念がなかった。  器具や特別な場所を必要とせずにやるトレーニングは、トニーとの生活の中でおぼえた。部屋にある椅子や机を補助にして、身体への負荷を変えたり、本を重ねてプッシュアップバーの代用にしたり。  施設で就いたのはブレッド製造部門。いつも定時に終わるので、夜の勉強までのあいだに時間がとれる。そのタイミングでランニングに出かけた。  ワークスタイルからランニ

          [小説] パンは銃弾 7章 1話 血となる糧は

          [小説]パンは銃弾 6章 3話 ハンドラーの計略

          3話 ハンドラーの計略 <ジュエムゥレェン>の若手だった頃の胡バイロン婉月は死体ビジネスを組織の新事業として開拓し、頭角を現した。  本能的な嫌悪感をうったえる古参幹部もいたが、そこはやわらかな恫喝をまじえた説得と、具体的な計画書で納得させ、結果を出すまでにいたっている。  確固たる目的のためには、あらゆる手段を講じる人であることをトニーは忘れたつもりはなかったが……。  ソニに描いた展望は、しょせん絵空事でしかなかったのか。  トニーの目論見など軽くバイロンが塗りかえよう

          [小説]パンは銃弾 6章 3話 ハンドラーの計略

          [小説]パンは銃弾 6章 2話 ニンジンと鞭

          2話 ニンジンと鞭  トニーにとっての怪我は、食後のデザートよりも、なじみ深いものだった。  子どもの頃から、病気といえばせいぜい風邪をひく程度だったが、生傷はたえない。父親から受ける暴力にはじまって、学校では年上相手でもケンカをするようになり、打撲やちょっとした切り傷は日常茶飯になる。  やがてストリートで命がけのやりとりまでするようになると、切創や挫創(鈍的外傷)、ときに刺創まで負うようになった。  傷が傷だけに、医療保険は当てにできなかった。  もっとも、父親が保険料

          [小説]パンは銃弾 6章 2話 ニンジンと鞭

          [小説] パンは銃弾 6章 1話 まだ終わっていない

          1話 まだ終わっていない  商業とエンターテイメントの街から、観光名所をそなえた緑豊かなベッドタウンへ。  住む場所がかわってから、ソニの生活習慣もかわった。夜型が朝型になり、二ヶ月を過ぎようとしている。  もうひとつ大きく変わったのは、銃にさわらなくなったこと。  ここにいきた当初は、武器をなにも持っていないという状態が落ち着かなかった。いきなり襲ってくる人間などいない世界にきたのだから、そんな心配は無用なはずなのに。 「一般市民」の当たり前の生活に違和感をもつなんて妙な

          [小説] パンは銃弾 6章 1話 まだ終わっていない

          [小説] パンは銃弾 5章 5話 Ass-kisser ルブリの戦術

           5話 Ass-kisser ルブリの戦術  鎖骨を打たれたダメージで右手が動かせない。右脚も刺されている。  腕の反動が使えない状態で走る試練は、二ブロックを移動しただけで限界がきた。  ルジェタ・ホッジャは、壁面がスクラッチタイルでおおわれた古いビルまでくると、半地下になっている出入り口におりて倒れ込んだ。  とりあえず風をしのげる。人通りはほとんどないが、人目につかないスペースが必要だった。多少とも安心感をえられる。 「な、な、なんだ、おまっおまえは!」  誰もいない

          [小説] パンは銃弾 5章 5話 Ass-kisser ルブリの戦術

          [小説]パンは銃弾 5章 4話 No Home 帰る家はなく

          4話 No Home 帰る家はなく  銃声は一発だけだった。  トニーは複数の乱れた足音とともに顔をあげる。  リザヴェータがステンレス製ゴミ箱で、敵の頭をフルスイングしたところだった。  足の片方が裸足になっているルブリが駆け寄ってきた。 「ギリ間に合った⁉︎」 「遅い!」  ルブリが走る先に、ハイカットタイプのビジネスシューズが転がっている。ルブリが靴を投げつけて銃口をそらし、リザヴェータをサポートしたようだった。  ルブリはもちろん、リザヴェータとも仕事で組むことが多

          [小説]パンは銃弾 5章 4話 No Home 帰る家はなく

          [小説]パンは銃弾 5章 3話 クレイジーのための家

          3話 クレイジーのための家  灰色の公園の冷たい空気を乾いた破裂音が裂いた。  撃ったのはソニだった。  ルジェタは頬に銃弾がとおった風圧を感じ、ほくそ笑む。  この距離でソニが弾を外すはずがない。いまの仲間は伏臥させているから、十分狙えたはずだった。  ヒットさせることを躊躇ったのなら、かわいいものだ。 「やっぱり、わたしは撃てないみたいね」  母国語は使わなかった。お仲間にも聞かせてやるためだ。 「先生……ルジェタを相手する、正直いいます。動揺して外しました。次、ミスし

          [小説]パンは銃弾 5章 3話 クレイジーのための家