栗岡志百

アクション要素のあるシスターフッド物語を読みたい、なかなか見つからない——から、自分で…

栗岡志百

アクション要素のあるシスターフッド物語を読みたい、なかなか見つからない——から、自分で書いてみように。障害で中断している合気道への思いが、養父母にすくわれ、血縁家庭でのヤングケアラー、毒親、精神的ネグレクトが、書くことで昇華されているところがあります。

マガジン

  • アイス・スチール:チョコミント

    親友の娘、ミオの後見人になった怜佳は、非合法な仕事をしている夫ディオゴの横領から守るため、夫のビジネスパートナーである佐藤アインスレー、通称アイスを味方に雇い込もうとする。  故障を抱え引退を考えていたアイスだが、感じるところがあって受け、白杖を〝操る〟整体師グウィンとともに、ディオゴの内縁の息子でもある一太たちからミオを護ろうとする。理系の知識を悪用してディオゴへの報復をはかる怜佳、グウィンは故国で叶わなかったことをミオに重ね、一太はアイスへの複雑な思いを持ち、それぞれが遺産をめぐる狂宴に加わっていた。  そしてアイスは、本心を押し殺した故に行き違いを大きくしたディオゴを相手に、一身を投げうった決着にでる。アイス自身の再生でもあった。

  • [小説]青と黒のチーズイーター

    <あらすじ> 市内最大の繁華街「ミナミ」を管区にもつ、南方面分署警ら課のクドーとリウは、<モレリア・カルテル>の内部情報を持ち出した、元構成員ダニエラ折場の近親者、高城ルシアの警護と証拠品の回収にあたることになる。  警察側に内通者がいたことで疑心暗鬼になっているふたりに苦心しながら協力を得るものの、内通者によって追手が迫り、動きを封じられていく。援護が得られず孤立するなか、挽回するキーは、違法建築を含めた建物が密集し、立体迷路となっている地の利。そして、この街の〝幽霊〟だった。

最近の記事

[連載小説]アイス・スチール;チョコミント エピローグ 合縁奇縁、縁に連るればチョコミント・アイスクリーム

エピローグ 合縁奇縁、縁に連るればチョコミント・アイスクリーム  ミオの新しい生活は、後見人の家でスタートを切った。  怜佳の家は、社長宅とは思えないほど慎ましい。古い2LDKマンションに父娘ふたり暮らしだった。  遠慮してミオはアパートを借りるつもりでいたが、 「後見人には養育の職務もあるの。ミオが一升飯を食べたって食費を気にしなくていいってことよ。彩乃が残したお金は学費優先で使いなさい」  そう言われても、甘えるばかりでは居心地が悪い。ミオは忙しい運送屋父娘にかわって、

    • [連載小説]アイス・スチール;チョコミント 終章(後) 甘い計画

      (後) 甘い計画  おごると言ったのに、グウィンは欲がなかった。 「ルンピア(フィリピン風野菜春巻き)とシオパオ(ゆで卵餡の蒸饅頭)が食べたい」  お手軽価格な大衆メニューのリクエストに、アイスはいちおう訊いてみる。 「言ってくれたらフレンチでも懐石でも案内するよ?」 「十六時の予約は地階診療所なの。美園から移動しないほうが楽でいい。それに慣れない高級品より気楽に食べられることが、あたしにとってのご馳走」 「たまには気分を変えるのもありかと思ったんだけど、やっぱりそっちがい

      • [連載小説]アイス・スチール;チョコミント 終章(前) 身体は正直

        (前) 身体は正直 <美園マンション>とその周辺では、怪しい話に事欠かない。  かつては刑場や焼場を併置した墓所であり、記録には残っていないが、毎年数百人以上が処刑されていたといわれている。獄門台には罪人の首が並べられ、幕末に活動した浪士隊局長の首もこの地で晒された。  そういった諸々の怨念がこの地に残り、生者を引っ張り込もうとしているのだとか。  ただ<美園マンション>に関していえば、真実が怪談というフィクションにされたところもあった。  たしかに転落事故はある。建物の高

        • [連載小説]アイス・スチール;チョコミント 六章 4話 ただのシックス・センス

          4話 ただのシックス・センス  左足の故障は動かさなくても痛みが脈打ち、右肩は脱臼が再発。左肩も炎症をおこしている。  診療所に着いて気が緩んだせいか、脳内麻薬も働かなくなり、アイスの身体でまともに動くところはないといってよかった。 「すぐ終わらせたりしたら、つまらないですよね」  末武が持っていたハンドガンのマガジンを抜き、スライドを引いてチェンバーの弾も排莢した。完全に使えなくした銃を捨て、外科器具を収納したワゴンを物色する。  外科剪刀(ハサミ)をつかみ出した。一つを

        [連載小説]アイス・スチール;チョコミント エピローグ 合縁奇縁、縁に連るればチョコミント・アイスクリーム

        • [連載小説]アイス・スチール;チョコミント 終章(後) 甘い計画

        • [連載小説]アイス・スチール;チョコミント 終章(前) 身体は正直

        • [連載小説]アイス・スチール;チョコミント 六章 4話 ただのシックス・センス

        マガジン

        • アイス・スチール:チョコミント
          28本
        • [小説]青と黒のチーズイーター
          42本

        記事

          [連載小説]アイス・スチール;チョコミント 六章 3話 痺れるようなこの瞬間

          3話 痺れるようなこの瞬間  地階にある診療所は、一階フロアからも簡単に入れる設計にはなっていない。  利便性より訳あり患者の安全確保を優先させた結果であるが、スンは看護師として、この構造をいつももどかしく思っていた。  一階でエレベーターを降り、アイスを支えながら地階につながる階段室へとむかう。人目のあるところでは、どうにか歩いていたアイスだが、一階フロアを抜けると気力も費えてきたようだ。足元がさらにあやしくなっていた。  これまで刺創でも銃創でも、ひとりで歩いて来所して

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          [連載小説]アイス・スチール;チョコミント 六章 2話 いつかの次のアイスクリーム

          2話 いつかの次のアイスクリーム  耳元が騒々しかった。おまけに頬のあたりがパチパチと鬱陶しい。  これほど深く眠れたのは、ずいぶん久しいことだ。もうひと眠りしたいのに、アイスは目を覚まさざるをえなかった。  蛍光灯の白いあかりが目に沁みる。まぶしくて細めた目に、こちらを覗き込む顔がうつった。一人、二人ではない。うかんだ疑問を口にした。 「なに、このカオスな面子は」   怜佳とミオ、そのすぐ後ろにグウィンがいるのはわかる。 「どうして一太……十二村? なんでここにいるの?」

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          [連載小説]アイス・スチール;チョコミント 六章 1話 命をつなぎとめる一声

          1話 命をつなぎとめる一声  失った視力には、あきらめがついていた。  グウィンにとってあきらめきれないのは、「そのときの気分でたすけただけ」と言いとおす人の顔が見えないこと。  何度でも思ってしまう。  アイスの顔を見てみたい——。  故国から逃れ、異国の街での暮らしに慣れるのと反比例するように、グウィンは視力を失っていった。  見えなくなることは大きな喪失だ。人は知覚する情報の八割、コミュニケーションにおける情報の五割を、視覚情報から得るとされている。その大半をなくし

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          [連載小説]アイス・スチール;チョコミント 五章 3話 愚者の答え

          3話 愚者の答え  アイスは、視界のすみで一太をとらえた。  胸中で歯がみする。背後にいたのに気づかないとは間抜けがすぎる。集中を散らす左足の痛みは言い訳にならなかった。  ずぶ濡れになっている一太の足は、アイスが湯をぶちまけた後の応急処置だ。  魔法瓶の湯は入れてから時間が経っていたから温くなっていたはず。それでもダメージはまぬがれない、乱れがちになる呼吸で、ダブルハンドで構えている銃口までもがつられて動いた。  どうにか照準をキープしている状態に、余裕を取り戻したディオ

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          [連載小説]アイス・スチール;チョコミント 五章 2話 ここで実践、ついに実戦

          2話 ここで実践、ついに実戦  ダークブラウンのマウンテンパーカーに黒のカジュアルパンツ。ナチュラルカラーや淡い色合いを好んでいた怜佳にしては、めずらしい組み合わせだった。  そしてアイスにとって、怜佳が銃を持つ姿も見るのも始めてだった。  怜佳はここを決着の場にするつもりだ。両手で保持したハンドガンをディオゴにむけた。 「末武、ミオたちから離れて! 形だけの夫を撃つことに躊躇はないよ」  末武は従わない。盾にしているミオは、人質としていちばん効果がある。片腕で抱き込む体勢

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          [連載小説]アイス・スチール;チョコミント 五章 1話 金ではなく、感傷よりも

          1話 金ではなく、感傷よりも  ミオは、物理的な暴力とは無縁な生活をしてきた。  何かと自制がきかない幼児期、ケンカをしたとしても口喧嘩だけ。手を上げることはもちろん、物を投げつけたりすることもなかった。行動範囲が広くなる一〇代になってからも、ケンカに巻き込まれたことはない。  それがいまや、裏組織の構成員から逃れようと必死になっていた。  ジョギング経験すらろくにないまま、走行距離一〇〇キロメートルのウルトラマラソンに挑戦している気分。ゴールできる気がしない。  現に逃げ

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          [連載小説]アイス・スチール;チョコミント 四章 3話 お返しはスパイダー

          3話 お返しはスパイダー 「伏せてっ、ミオ‼︎」  グウィンの声とともに、ミオの足元から重力が消えた。  いきなり引き倒された次の瞬間、目の前に床がある。驚きすぎて痛さも感じなかった。  床に這いつくばった背中に、グウィンが覆い被さっている。どうしたのかと訊く間もなく、頭上で飛行機が離陸したのかと思うぐらいの大きな音に鼓膜を打たれた。  わずかにツンとした刺激臭が漂う。床から顔だけ上げたミオが見たのは、自分よりも大きな男を壁にぬいつけているアイスの背中だった。  その男の目

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          [連載小説]アイス・スチール;チョコミント 四章 2話 愛おしい足手まとい

          2話 愛おしい足手まとい  すんでのところでたすけられ、安堵の表情をみせていたミオだが、心の内はまったく反対だった。  争っているときの苦悶の唸り声や苦しげな息遣い。  スチール製の白杖が特殊警棒をはじいたときの空気を裂く金属音。  それらが公園を出てからも、ずっと耳の奥で再生され続けていた。  アイスに押さえつけられたスーツの男がなお抵抗していたら、アイスはあのまま……  グウィンやアイスが護ろうとしてくれてのことだ。なのに、恐れや不快を感じてしまう。  そんな厭な気分を

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          [連載小説]アイス・スチール;チョコミント 四章 1話 代償には足りない

          1話 代償には足りない  津坂彩乃が高須賀彩乃になったのは、夫となる男に押し切られた弱さからからでもある。  姓は変えたくなかった。独立を視野に入れ、インテリアデザイナーとして経験を積んでいた。名前が変わることは、これまでの実績や、やっとつかんだ顧客にも影響し、最悪失うことになりかねなかった。 「男のほうが変わると婿養子の偏見でみられて大変なんだ。それに生まれた子どもだって、お母さんの名前じゃ混乱するよ?」  姓が変わって大変なのは女だって変わりない。実用的なことに加え、ア

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          [連載小説]アイス・スチール;チョコミント 三章 4話 追いかける背中

          4話 追いかける背中  アイスとの対決を避けた十二村は、<ABP倉庫>に戻るなり浅野の出迎えをうけた。  顔を見れば何を言いたいのかわかる。それでも皮肉と嫌味をたっぷりまぶした苦言を黙って浴び続けた。  言いたいことは全部言わせてやったほうが、あとあとマシだ。最後まで付き合うつもりでいたが、暖簾に腕押しな反応に飽きたか。舌打ちを残して、浅野のほうから離れていった。  十二村に近づいてくる者はいない。  ボソボソとした話し方に喜怒哀楽が乏しい表情は、陰気そのものだ。言葉数も少

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          [連載小説]アイス・スチール;チョコミント 三章 3話 本は表紙で判断できない

          3話  本は表紙で判断できない  ミオはグウィンをベンチに誘導した。 「気休め程度だけど、杖の汚れ拭いとくね」  雨上がりの公園に転がった白杖に土汚れがついていた。 「いいよ。どうせ、あたしの手も汚れてる。帰ってからきれいにするよ」 「ううん、わたしがしたい……ごめん。ポケットティッシュ落としたみたい」  こういうときのために<ゲストハウス・ファースト>の広告が大きく入ったティッシュでもとっておいたのに。浅い飾りポケットでは役割を果たしてくれなかった。 「ミオ」  グウィン

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          [連載小説]アイス・スチール;チョコミント 三章 2話 ルビコン川を渡れ

          2話 ルビコン川を渡れ  白杖持ちのくせに大口を叩くだけはある。  浅野は、自分が手を出すまでもなく終わると思っていた。が、白杖がふたつに分かれたところで厭な予感に襲われた。こういった場面への用意があるということは、ケンカ慣れしているか、暴力で稼いでいたことがあるか。  予測は正解だというように、素人でも新人でもない部下が一〇秒もたずに倒された。人質に使える高須賀未央までもが、俊敏にこちらとの距離を変え、捕まる愚を繰り返すまいとしている。  浅野はさっさとすませるために本気

          [連載小説]アイス・スチール;チョコミント 三章 2話 ルビコン川を渡れ