見出し画像

ばちこいトライアルアンドエラー1206

有言実行ができない子だった。
「有言」が苦手だった。

実行力は人並み以上にあると思うんだ。
ある思い立った日に、自動車学校の窓口へ行き手続きを済ませ、通学を誰にも告げないまま自動車免許取得まで至ったことがある。
初めて働いていただいたアルバイトのお給料を、昨日の思いつきで楽器屋さんへ行き、エレキギターに交換したことだってある。
思い立てるパワーがこんなにあるのに、思いつくパワーが少ない。だから行動に起こすことは少なかった。

しかし私は気づかなかった。
春風のようにのらりくらり暮らす、それが当たり前だと思っていた。

ある時、のらりくらりと南風が吹く中で、自分なりに北風を起こそうとしたことがある。
北風…"トライ"だ。

しかし風の起こし方に問題があった。北風を起こすにはもっと効率的で有効な吹かせ方があったのだ。
私はずっと利き手をバタバタ振っていた。つまり無駄が多かった。

週7日朝から晩まで、時給の低いアルバイトに精を出す毎日。自分のこれから等は何も考えていなかった。今を「こなす」のに精一杯。
アルバイトしかできない自分は何もない・何も生み出すことができない人間なんだ…と飲み込んで飲み込んで飲み込んでいた。

——トライしてみることはおろか、チャレンジできる立場であることすら忘れていた。

そんな日々を過ごす中、私の一部を成す"音楽"に関する素敵なお話をいただいた。
友達が作曲をした白紙の曲を持ってきた。友達は「歌詞を書いてみる?」と投げかけてくれた。とても嬉しかった。

作詞なんて一般人、ましてや私がするものではない、なんて固定概念で埋めていた。
そんな固定概念のない創造者に尊敬と羨望が生まれた瞬間だった。

いざ作詞をしてみると、なかなか思うように表現できず、かなり悶々とした。
したが、悶々とした中の揺るぎないワクワクに快感を覚えた。

「自分を、自分の言葉を表現することって、なんて楽しいことなんだろう。こんなざわつきがあるんだ。」

思い焦がれた発見に涙が出そうになった。

好きな音楽と好きな言葉。出会えてよかった「作詞」の経験。
私の創造欲を掻き立てたのはこの瞬間だった。

それからというもの、作詞の機会は訪れなかった。
それはそうだろう。
——だから自分の曲を一から作ってみようと試みた。

こんな素人の一般人の私の意気込みは、かなりちっぽけで石ころの如く蹴飛ばされるに違いない。
蝋燭の如く溶かされるに違いない。
ひまわりの種の如く埋められるかもしれない。

だけどやってみようと決めたからには。やってみる。

やってみるぞ、私。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?