マガジンのカバー画像

目が光る

16
連載小説です。(あらすじ)ある日、眩しくて目覚めた男。鏡を見ると、なんと目が電球になっていた。ある病気だと診断された男は専門家の女医を訪ね、同じ病気を持つものたちとともにその謎の…
運営しているクリエイター

2020年6月の記事一覧

目が光る(11)

(1)はこちら

前の話はこちら

どうやら火はすぐ鎮火したようだった。

尻に火がついた人は何とか話すことはできるようで、その話ぶりから判断するに軽傷のようである。

むしろズボンが破けて、あらぬところが丸出しになっている方が問題だった。

一方、顔から火が出た少年はというと、それは重傷だった。まともに話すこともできない様子である。

しかし、周りは妙に安心しているように見えた。まだ火が消えただ

もっとみる

目が光る(10)

(1)はこちら

前の話はこちら

「まあいいわ、話してあげる。でもね、私にも段取りがあるのよ。実際に見てもらいながら説明するつもりだったんだから。だから、ここまで連れてきたのに。」

天宮は手持ち無沙汰の右手を揺らし、人差し指で机をトントンと叩いている。どうやら、自分の思うようにいかないことはとことん気に入らないようである。

そうして、天宮はたもとから扇子を取り出し、顔をあおぎながら、不満足そ

もっとみる

目が光る⑼

(1)はこちら

前の話はこちら

「さて、どこから話そうかしら。」

天宮は頬杖をついていた左手でコップを取ると、水を一口飲み、二回うなずいてから話しはじめた。

「そうね、とりあえず、ここのことから話そうか。まあ、薄々感じてるかもしれないけど、ここはね、治療院なの。慣用句病専門のね。立派でしょ?全国まわっても一つしかないのよー。だから、みんなここに来るわ。」

そういうことか。彼は納得した。ど

もっとみる

目が光る⑻

(1)はこちら

前の話はこちら

「ちょっと、遅いわよ。ほんと、この私を待たせるなんていい度胸してるじゃない。」

席に着くやいなや、小言が飛んでくる。天宮は腕を組んで、漫画のように頬を膨らませていた。

「すみません、お金を払わないとと思ったんですが、レジが見つからなくて。」

「まったく、真面目すぎるわよ。で?あの子何も言ってないでしょうね?」

天宮は拗ねた様子でそう尋ねた。その口振りには

もっとみる

目が光る⑺

(1)はこちら

前の話はこちら

食堂は思いの外賑わっていた。ざっと見ても、軽く50人はいそうだ。中は寺といった感はあまりなく、まるで高校の学食のようである。違うのは席が座敷であるということくらいだった。

「盛況ですね。こんなにいるとは思いませんでした。」

「あらそう?ここしかご飯食べるとこないしこんなもんじゃない。」

「あ、いえ、食堂にというより、この寺にというつもりでした。こちらの方々

もっとみる

目が光る⑹

(1)はこちら

前の話はこちら

それは寺院と言っても、街中で見るようなものとはまるで違っていた。

トンネルを出ると、すぐ目の前に15m幅の大路が広がっており、その大路を境にして左右にそれぞれ3つの伽藍が建っている。

大路の奥に見えるのが本尊である。本尊は真っ赤に塗装されており、どこか大陸の風を感じるつくりになっている。

幅は50mはあるだろうか。本尊は横に長く、高さも10mはあるようであ

もっとみる
目が光る⑸

目が光る⑸

(1)はこちら

前の話はこちら

医者が指示した場所は東北の山奥だった。

彼は速やかに病休の手続きをすませ、翌日には目的地に向けて車を走らせた。

高速を走りながら、彼は一抹の不安を抱えていた。果たして、本当に専門医などいるのだろうか。仮にそれが本当だとして、自分はたどり着けるのだろうか。

彼が不安に思うのも無理はなかった。

頼りは手元にある下手な手書きの地図と、紹介された専門医の名前だけ

もっとみる
目が光る⑷

目が光る⑷

(1)はこちら

前の話はこちら

「慣用句症候群?」

初めて聞く病名だった。彼が不思議そうな顔をしていると、医者はさっきとは人が変わったように落ち着いて話し始めた。

「ええ。慣用句症候群です。岡田さん、最近"目を光らせた"経験は?」

"目を光らせる"?どういう意味だっただろうか。確か、欠陥や不正がないかを注意深く監視するといったような意味だった気がする。それが何の関係があるというのだろう。

もっとみる
目が光る⑶

目が光る⑶

(1)はこちら

前の話はこちら

目が覚めると、白い天井が広がっていた。

「あ、岡田さん。気がつきましたか。」

看護婦の格好をした女性が話しかけてきた。看護婦?

寝かされた身体を起こし、首をぐるっと回す。見る限り、そこは病室だった。

「どうしてここに......俺はプレゼンをしていたはず......」

彼がぶつぶつ呟いていると、ベッドに取り付けられた簡易的なテーブルの上に食事のトレーを

もっとみる
目が光る⑵

目が光る⑵

前の話はこちら

ジリリリと目覚ましが鳴り、時計を見るともう8:30だった。彼は飛び起きて支度を始めた。

昨日の酒が身体に残っていて、頭が重い。いつもは欠かさず朝食をとるのだが、今日は食べ物を見るだけて吐き気がするほどだった。

彼はスーツに着替えながら、昨日のことをぼんやりと思い出した。どうして酒を飲んだったんだか。記憶があいまいだった。

残った酔いを覚まそうと顔を洗う。すっきりした顔つきに

もっとみる

目が光る⑴

マガジンはこちら

何だ。やけに眩しい。

彼は違和感を感じて目を覚ました。

辺りを見回すが、部屋の電気はついていなかった。カーテンの隙間から光が漏れていないのを見ると、窓の外はまだ夜のようである。

あの眩しさは一体。首をかしげながら、彼は思いの外尿意を催していることに気がつき、トイレへと向かった。

部屋は電気がついていないため暗いはずだったが、妙に視界が冴える。なんだか、懐中電灯でも付けて

もっとみる