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茅ヶ崎の竜さん
2018年10月15日 15:36
九月も終わったというのに日中の気温は三十度を超え、夏の余韻がしつこく残っていた。僕は四十三歳で、浜松の温泉にいた。香りのいい宿だった。和風でモダンなロビーには茶香炉が炊かれ、建物に入った瞬間にじんわりと心がほぐされた気がした。客室はもちろん、廊下にもエレベーターにも大浴場の脱衣所にも、ふだん人間の生々しい匂いが満ちているはずの空間のすべてが、穏やかでひかえめな茶葉の香りに包まれていた。浜名
2018年8月10日 13:46
富士山麓に広がるキャンプ場は、想像していたよりずっと広大な土地で、見わたす限りの山と芝の緑にはため息がもれるほどだった。ハンモックに揺られ、うまいメシを食らい、やがてうるさく飛びまわっていた虫たちも夜露の重みに羽根を落ちつける頃になると、聞こえるのはテントから漏れる子どもたちの寝息だけになっていた。僕と家内はルミエール・ランタンの小さな炎に揺られながら、ワインをちびちび啜って、とりとめのな
2018年7月12日 10:38
つきあいが長くなると、なかなか夫婦喧嘩もしなくなってくる。お互いの欠けているところ、苦手なところ、ヘタなところといったマイナスを理解しているし、理解した上で好きで一緒にいるのだし、自分にもそれ以上に欠けているところがあると痛感しているから、ちょっと腹を立てたからといっていちいちそれを相手にぶつけるのが無駄に思えるからだ。相手を責めず、かといって自分も責めず、まあ、しょうがないよな、育ってき