3分でわかる宇宙法
これまで、「3分でわかる宇宙法」として文字・インフォグラフィック・マンガによる記事を書いてきました。
今回で100個目の記事ということで、主だったものや重要と思われるものの総まとめをしたいと思います。
全体の枠組みから、ロケット、衛星、そして探査そのものに関わるルールに触れていきます。キーワードに関連記事をリンクさせていますので、詳細についてはリンク先記事をご覧ください。
(目次)
1 宇宙活動に関するルールの分類
2 ロケットの打上げに関するルール
3 衛星に関するルール
4 探査をめぐる課題
宇宙活動に関するルールの分類
国際法・国内法、ソフトロー・ハードロー
宇宙法という名の法律はありません。条約や国連決議、声明文、法律、ガイドラインなどをいろいろまとめて「宇宙法」と呼んでいます。
その性質は様々ですが、当事者と拘束力という2つの視点から分類できます。
国と国の関係は国際法、国と国民の関係は国内法によって整理されます。
拘束力を持つルールを「ハードロー」といい、持たないものを「ソフトロー」といいます。
ハードローを作るには、国連宇宙空間平和利用委員会(COPUOS)の全員一致が必要です。
しかし、加入国が90カ国を超えている現状では現実的ではなく、技術の発展に柔軟に対応できることも必要ということで、重要になってくるのがソフトローです。
宇宙5条約
拘束力を持つ宇宙関係の条約として、宇宙条約、宇宙救助返還協定、宇宙損害責任条約、宇宙物体登録条約、月協定の5つがあります。いずれも各種の国内法やソフトローに影響を与えている基本的なルールです。
ここまでの内容は、「3分でわかる宇宙法体系」にまとめています。
ロケットの打上げに関するルール
各国の宇宙活動法
ロケットの打上げは各国で制定された手続によります。
例えば、日本では宇宙活動法、アメリカでは商業宇宙打上げ法で定められた手続によることになります。
宇宙条約6条は、国に対して民間の宇宙活動の許可制と監督を求めていることから、各国でこの要請に応えるため、また打上げをめぐるルールを明確にして新規参入を促すため宇宙活動法が制定されています。
宇宙活動法の中で打上げ許可を得るために必要な要件が決められます。例えば、日本をはじめ、打上げにあたっては保険をかけていることが必要とされています。
また、日本では射場の安全確保が審査基準に盛り込まれています。
打上げ事業者と衛星メーカー、運用者は、打上げのために契約を締結します。宇宙事業のリスクの高さから、打上げ契約ではお互いに責任追及しないようにするなどの特殊性があります。
宇宙旅行をめぐる課題
宇宙旅行が現実のものとなりつつある今、宇宙旅行に関するルールがサブオービタルロケットの打上げ環境整備と併せ急務です。
多くの人が宇宙に行くようになれば、宇宙空間で発明がされることもあるでしょう。犯罪が起きてしまうこともあるかもしれません。
ISSでの出来事についてはモジュールと国籍に着目したルールがありますが、例えば月面基地やその他の空間でどのようなルールが適用されるかは問題が残っています。
衛星に関するルール
宇宙環境を利用したビジネスの中心は測位、通信、衛星データなどの衛星事業です。特に、リモセンデータを解析して提供するサービスは一次産業の効率化や投資に活用され、日本ではリモセンデータプラットフォーム「Tellus」がリリースされています。
なお、日本の宇宙活動法では、衛星の管理に関するルールも定められています。
通信衛星
衛星通信に関しては、多数の衛星による通信網(衛星コンステレーション)の実装が進んでいます。
混線の問題や、多数の衛星が宇宙空間にいることに伴う交通整理や事故が起きた場合の処理が課題です。
測位衛星
GPS、準天頂衛星、ガリレオなど、各国で測位衛星が運用されています。
私たちの生活インフラとなっている測位衛星ですが、障害が発生して事故が起きた場合の扱いやサイバーセキュリティ、宇宙天気の影響を受けた場合についても課題です。
衛星データ利活用
衛星を活用すれば、領空を問題とせずに地表の情報を取得できますが、悪用を防ぐ仕組みが必要です。
リモセン法は、リモートセンシング装置の使用許可、データのやり取りに関するルール、リモセンデータを取扱うための認定制度を定め、悪用防止と事業の発展のバランスをとっています。
このようなリモセンデータをいかに保護するか、他方で個人情報やプライバシーの問題も課題です。
資金調達
これらのビジネスを行うにも、資金調達が必要です。衛星そのものやプロジェクトに着目したファイナンス手法がありますが、宇宙ファイナンスの特徴に着目したケープタウン条約、宇宙資産議定書も挙げられます。
ASAT(衛星破壊実験)
私たちの生活に欠かせない衛星技術ですが、各国で衛星破壊実験が行われています。宇宙空間の平和利用やデブリの発生、反撃ができるかなどをめぐって問題となっています。
探査をめぐる課題
宇宙空間の探査は、技術の進展と共に着々と進められてきました。2020年は複数の火星探査ミッションが始まる年でもあります。探査をめぐっては、人類の宇宙活動という観点からいくつかのルールが整備されています。
宇宙資源
月には水があるといわれており、宇宙の資源をめぐる競争が想定されます。そもそも天体は誰のものか、宇宙資源は誰のものかといった点が問題となります。
スペースデブリ
近時の衛星をはじめとする宇宙物体の増加に伴って問題視されているのがスペースデブリをめぐる問題です。ESAの集計によれば、2019年1月時点で機能している人工衛星などの宇宙物体は1950個、追跡できているデブリは22300個、10cm以上のデブリは34000個あるとされています。
拘束力はないものの、国連スペースデブリ低減ガイドラインが権威的ルールとなっています。
こうした宇宙物体の増加を背景に、2019年6月、宇宙活動の長期持続が可能な環境整備のため、宇宙活動の長期持続可能性(LTS)ガイドラインが作成されました。
惑星保護
惑星探査を行う場合、地球の有機物が誤って観測されたり、地球に持ち帰ったサンプルに付着した物質が地球環境に悪影響を及ぼしてしまう危険を排除しなければなりません。
国際宇宙空間研究委員会(COSPAR)が定める惑星保護方針は、天体とミッションをカテゴリー別に分け、必要な措置について定めています。
これからの宇宙法
宇宙法分野は未だ整備されていない部分が多くありますし、時代と合致していない部分もあります。公益や安全性に関する部分は新規参入のためにも明確に、競争に委ねるべき部分は市場に任せ、過度な規制をしないことが必要でしょう。本当にルールを定めることが必要なのかという視点もあり得るでしょう。これからの国際協調と人類の宇宙開発を見据えたルールメイキングが必要といえます。
参考:
・各記事末尾記載の参考文献
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