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3分でわかる宇宙天気と宇宙法①

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宇宙天気とは?

日々活動する太陽はX線や紫外線といった有害な物質を放出していますが、太陽フレアに伴う太陽風が発生した場合、地球付近までその影響が及ぶことがあります。 
これにより、人工衛星に搭載されている電子機器の誤作動や回路の破壊といったトラブルが起きてしまう可能性があり、私たちの生活にも支障が出てしまう可能性があります。

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出典:NICT宇宙天気予報センターウェブサイト
「宇宙天気擾乱の発生と社会への影響の概念図」

このような、「社会インフラに影響を与えるような宇宙環境変動」を宇宙天気といいます。

実際に、1859年に起きた太陽風は「キャリントン・イベント」と呼ばれ、地上の通信線に火災を引き起こしました。また、2003年10月に発生した太陽フレアは、数十基以上の人工衛星の機能を停止・喪失させました。

このように、太陽の状態によっては多数の人工衛星に影響が生じてしまいかねず、近時の人工衛星が増加している傾向からも、太陽の状態を観察し、宇宙天気情報を把握することが重要な関心事となっています。

このような背景のもと、情報通信研究機構(National Institute of Information and Communications Technology:NICT)の宇宙天気予報センターは、ユーザーニーズに合わせた宇宙天気情報の配信を目指して活動しています。

ところで、宇宙天気は宇宙法的な観点からみたらどのような位置付けになるのでしょうか?

スペースデブリ低減ガイドライン

スペースデブリをめぐっては、国連スペースデブリ低減ガイドラインにデブリに関する基本的なルールが、IADCスペースデブリ低減ガイドラインに技術的なルールが記載されています。法的拘束力はありませんが、デブリをめぐる権威的なルールとして位置付けられています。

これらのガイドラインに「宇宙天気による故障の可能性を低減させること」といった規定はありません。
太陽風によって衛星にどのような影響が生じるかは予測し難く、結果的に太陽風によって衛星が破壊されデブリ化したとしても、必ずしもガイドラインに違反することにはならないと考えられます。

SSA

SSAとは、Space Situational Awareness Systemの略で、宇宙状況把握ともいわれます。

宇宙空間のどこに誰が管理する何があるのかを把握することは、自分たちの衛星を他の衛星やデブリから守るために重要です。
JAXAは、SSAの取組みとしてスペースデブリの観測、軌道情報のデータベース化、人工衛星との接近解析、大気圏再突入予測などを行っています。

そして、宇宙天気の情報を把握することもSSAの重要な機能です。人工衛星の存在する環境がわからなければ、人工衛星の状態もわからないというわけです。SSAについて独自のルールがあるわけではありませんが、後述するLTSガイドラインの内容ともなっています。

STM

STMは、Space Traffic Managementの略で、宇宙交通管理ともいいます。
これは、「物理的、電波的障害を受けることなく、安全に宇宙空間へアクセスし、運用し、及び地上へ帰還するための技術的及び規制的取決め」をいい(出典:米国の宇宙交通管理(STM)を巡る動向 竹内悠)、軌道上に多くの宇宙船やデブリが滞留している状態では衝突や電波的障害によるリスクがあるため、交通整理をしましょうというものです。
統一的なルールはまだなく、その整備が今後の課題となっています。


衛星がおかれている環境の情報を把握しなければ、衛星の状態も把握できません。地球上の交通情報も天気情報と密接に関連しているように、宇宙天気情報を把握することはSTMの前提となると考えられます。特に、太陽風による故障がひとたび発生すれば多数の衛星が制御困難となるおそれがあり、交通事情は一気に崩れてしまうでしょう。
その場合にどうすべきかについても、今後の検討課題となっていくと考えられます。

LTSガイドライン

2019年6月21日に開かれた国連宇宙空間平和利用委員会(COPUOS)で、新たなガイドラインとなる宇宙活動の長期持続可能性(LTS)ガイドラインが採択されました。小型衛星をはじめ、多くの宇宙物体が宇宙空間に放出されるようになったことを背景に、宇宙活動の長期持続を実現するため採択されたものです。

このLTSガイドラインは全部で21の項目から構成されますが、宇宙天気に関する以下の2つの記載があります。

・有効な宇宙天気に関するデータ及び予報の共有
・宇宙天気モデル及びツールの開発並びに宇宙天気による影響の低減のための確立した実行の収集

宇宙空間に「モノ」が増えればそれだけ太陽風による影響が発生した場合に地球上に及ぶ影響も大きくなるでしょう。

LTSガイドラインでは、政府や公的機関が宇宙天気データの収集や共有に協力し、官民問わず宇宙天気データを無料かつリアルタイムで利用できるようにすることや、宇宙天気サービス提供者と衛星運用者の協力宇宙天気データを衛星の設計や打上げに反映させる基準を作成すること等が推奨されています。

参考:
・第63回宇宙科学技術連合講演会講演集「宇宙天気インタプリタの実践報告と育成計画」 玉置晋(茨城大学)、石田彩貴(立正大学)、野澤恵(茨城大学)
・NICT NEWS 2020 No.1「社会基盤を支える宇宙天気予報技術」
https://www.nict.go.jp/publication/shuppan/news/NICT_NEWS479/HTML5/pc.html#/page/1
・宇宙状況把握(SSA)システム JAXA

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