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3分でわかる月協定

ファースト・マン

人類初の月面着陸を成し遂げた宇宙飛行士、ニール・アームストロングの半生を描いた映画「ファースト・マン」が公開されました(筆者も早速観てきました)。

約60年も前から、人類は月を目指してきました。ある時は観測の対象であり、ある時は童話のステージであり、ある時は祈りを向ける対象であり、ある時は競争目標であり、ある時は旅行先とされる月の直径は3,474km(地球は12,742km)、地球と月の距離は384,400kmです。重力は地球の約6分の1です。

また月といえば、新年早々、中国の無人探査機「嫦娥4号」が月の裏側に着陸していますね。

ところで、そんな月をめぐる法律(条約)にはどのようなものがあるのでしょうか?
今回は、「月その他の天体における国家活動を律する協定(月協定)」を取り上げてみます。
実はこの月協定、宇宙に関する条約として紹介されるときでも、あまり陽の光が当たりません(月の裏側だけに)。というのも、アメリカ、ロシア、中国、日本含む宇宙活動を行なっているほとんどの国が月協定を批准していないのです。

月協定

月協定は、主に

①平和的利用②環境保護③領有の禁止

を内容とし、1979年に作られました。
同じく宇宙空間平和利用委員会(COPUOS)が作成し国連総会で採択された「宇宙条約」、「宇宙救助返還協定」、「宇宙損害責任条約」、「宇宙物体登録条約」と併せて、宇宙5条約と呼ばれています。
しかし、上記のように宇宙活動を行なっている国のほとんどが批准しておらず、宇宙条約の加盟国が105か国であるのに対し、月協定の加盟国は17か国にとどまります。この人気のなさはどこから来ているのでしょうか?

平和的利用

月の平和的利用に関しては、以下のようなルールがあります。

①月での脅迫、武力行使その他の敵対活動・敵対活動の脅迫は禁止②①のような活動を行うために月を利用することや、地球、月、宇宙船、宇宙船の要員・人工宇宙物体に関する脅迫に従事するために月を利用することは禁止③核兵器・他の種類の大量破壊兵器を運ぶ物体を、月を周回する軌道、月、月の周回軌道に到達する飛行経路に乗せてはいけない、兵器を月面上・月内部に配置してはいけない④月面上の軍事基地、軍事施設・防備施設の設置、あらゆる型の兵器の実験・軍事演習は禁止

③④は日本も批准している宇宙条約にも規定がありますが、ここでのポイントは月協定の適用範囲です。
月協定の適用対象には、「地球以外の太陽系の他の天体」だけでなく、「月を周回する軌道、月又は月の周回軌道に到達する飛行経路」が含まれています。
つまり、月の周回軌道、飛行経路で通常兵器を使って衛星破壊実験(Anti-Satellite : ASAT)を行うこともできないことになります。

環境保護

月の環境保護に関しては厳格なルールがあります。

①月及びその天然資源は人類の共同財産②月はいかなる手段によっても、国家の専有の対象にはならない③月の天然資源は誰の所有にも帰属しない④月協定の締約国は、月の天然資源の開発が実行可能となったときには適当な手続を含め、月の天然資源の開発を律する国際レジームを設立することを約束する⑤④の国際レジームの設立を容易にするために、締約国は、国連事務総長、公衆、国際科学界に対し、実行可能な最大限度まで、月で発見する全ての天然資源について通知する

月は、その調査によって地球や生命の起源の手がかりが掴めるのではないかと考えられていること、月の環境が脆弱であることから特に保護する必要があると考えられ、月の環境保護について厳格な規定が設けられました。
しかし、それは同時に月の資源の自由な開発ができないことを意味しており、宇宙活動を行っている国が月条約を批准する理由がないのです。これが月協定が不人気の理由です。

領有の禁止

月協定では、月は天然資源も含めて誰の所有権も認めていません。宇宙条約では「月その他の天体を含む宇宙空間」の国家による取得を禁止し、私人の取得は明記していませんが、月協定では明確に私人の所有を否定しています。
この点については解釈問題となってしまうことや、月の土地を商品にする企業が存在する一方で国際宇宙法学会(International Institute of Space Law)が私人の所有を否定する声明文を出しているなどの状況からすれば、将来的に人類の月進出が進み、「ちょっと月行っちゃう?」的な感覚で月に行けるようになった場合(あるいはそれより前に)、トラブルが顕在化してしまうことが考えられます。

おわりに

上記のとおり、月協定が月での活動に制約を課しているのは、月の環境保護を重視したためでした。今後、民間による宇宙旅行や資源探査が進み、より多くの人が月にアクセスするようになることが想定されます。月協定に批准していないとはいえ、無用な月の環境汚染や資源をめぐる争いなどが起こらないこと(さらには、それによる「余計な規制」によって宇宙活動の自由が損なわれないこと)を期待するばかりです。

参考:
・宇宙ビジネスのための宇宙法入門第2版 小塚荘一郎ほか
・宇宙法ハンドブック 慶應義塾大学宇宙法センター
・JAXAホームページ もっと知りたい! 「月」ってナンだ!?
http://www.jaxa.jp/countdown/f13/special/moon_j.html

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