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3分でわかるサブオービタル

サブオービタルとは?ー周回軌道に乗るかどうか

サブオービタルとは、周回軌道に乗るのではなく、打上げ後弾道軌道を描いて高度約100km付近を飛行するものをいいます。
例えば、インターステラテクノロジズ社のMOMOや、Blue OriginのNew Shepard、Virgin GaracticのSpace Ship2が行う飛行形態がこれにあたります。他方、三菱重工のH-ⅡBやSpaceXのFalcon9、ロシアのソユーズといった、周回軌道に人工衛星や人を輸送することはこれに該当しません。
なお、国交省は、内閣府宇宙開発戦略推進事務局と合同で「サブオービタル飛行に関する官民協議会」を設立しました(6月21日報道発表)。そこでは、サブオービタルを「地上から出発し、高度100km程度まで上昇後、地上に帰還する飛行」と定義しています。

飛行機と何が違う?ーエンジンが違う

海外に行く時をイメージしてください。成田から飛行機に乗って、雲を突き抜け、約10,000m付近を飛行しています。サブオービタルでは高度約100km前後を飛行するので、飛行機の10倍の高度を飛行します。
飛行機のエンジンは空気を取り入れて燃焼させていますが、この高度に至ると空気が薄くなり、飛行機のエンジンは機能しません。そこで、燃料の燃焼によって推進力を生み出すロケットエンジンを搭載した機体が必要となります。

手続が違うー宇宙活動法?航空法?

周回軌道に載せる人工衛星を搭載するロケットの打上げ手続については、宇宙活動法がカバーしています。

他方、そうでないサブオービタルロケットについては、宇宙活動法の適用はありません。というのも、宇宙活動法の制定当時、地球を周回する人工衛星等の打上げと比べれば、影響が及ぶ範囲が限定されているからとされます(出典:逐条解説宇宙二法 宇賀克也p23)。

ここで問題になるのが、サブオービタルロケットに航空法を適用できるかどうかです。
航空法は、航空機の航行の安全や障害を防止する方法を定めたり、輸送の安全確保と利用者の利便性を高めたりすることで、航空を発達させるために作られた法律ですが、航空法99条の2は、以下のように定め、原則としてロケットの打上げを禁止しつつ、限定された場合にのみ得られる国土交通大臣の許可に基づき打上げを認めています。

何人も、航空交通管制圏、航空交通情報圏、高度変更禁止空域又は航空交通管制区内の特別管制空域における航空機の飛行に影響を及ぼすおそれのあるロケットの打上げその他の行為(物件の設置及び植栽を除く。)で国土交通省令で定めるものをしてはならない。ただし、国土交通大臣が、当該行為について、航空機の飛行に影響を及ぼすおそれがないものであると認め、又は公益上必要やむを得ず、かつ、一時的なものであると認めて許可をした場合は、この限りでない。

なお、周回軌道に衛星を乗せるロケットを打ち上げる場合には宇宙活動法による内閣総理大臣の許可と航空法による国土交通大臣の許可の両方が必要となります。

サブオービタルロケットは「航空機」か?ー不明確

航空法上、「航空機」とは、「人が乗って航空の用に供することができる飛行機、回転翼航空機、滑空機、飛行船その他政令で定める機器」と定義されています(2条1項)。
ここでは有人が前提にされているため、無人サブオービタルロケットは該当せず、「航空機」なのか「宇宙機」なのかを判断する基準としては機能しません。
結局のところ、「航空機」と「宇宙機」をどう区別するかは明確に決まっていないのです。

「航空機」を飛ばすには耐空証明が必要ー今の技術では取れない?

New Shepardのような有人サブオービタルロケットが日本で開発されたとして、これが「航空機」に分類されるとなると面倒な点があります。
航空法上、航空機を飛行させるには「耐空証明」が必要となります(11条)。耐空証明の要件は航空法11条4項に記載されています。

4 国土交通大臣は、第一項の申請があつたときは、当該航空機が次に掲げる基準に適合するかどうかを設計、製造過程及び現状について検査し、これらの基準に適合すると認めるときは、耐空証明をしなければならない。
一 国土交通省令で定める安全性を確保するための強度、構造及び性能についての基準
二 航空機の種類、装備する発動機の種類、最大離陸重量の範囲その他の事項が国土交通省令で定めるものである航空機にあつては、国土交通省令で定める騒音の基準
三 装備する発動機の種類及び出力の範囲その他の事項が国土交通省令で定めるものである航空機にあつては、国土交通省令で定める発動機の排出物の基準

この耐空証明は、私たちがイメージする飛行機を想定していますが、ロケットは飛行機とは用いられている技術も違いますし、安全性のレベルからしても飛行機とは単純に比較できません。飛行機と同じレベルの審査基準を持ち出された場合、せっかくサブオービタルロケットを開発できたのに耐空証明が取れず打ち上げられない、といった事態が生じてしまいます。

おわりに

冒頭でも触れたとおり、国土交通省は、内閣府宇宙開発戦略推進事務局と「サブオービタル飛行に関する官民協議会」を設立しました。
「航空機」の定義や耐空証明の問題のほか、日本に宇宙港を作った場合のルール整備も必要です(空港を使用するにはサブオービタルロケットが「航空機」でなければならない)。今後の動きに期待しましょう。

参考:
・宇宙ビジネスのための宇宙法入門第2版 小塚荘一郎・佐藤雅彦
・これだけは知っておきたい!弁護士による宇宙ビジネスガイド 第一東京弁護士会

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