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3分でわかる宇宙活動の長期持続可能性(LTS)ガイドライン

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宇宙にモノが増えてきたー宇宙活動の長期持続のためには?

2019年6月21日に開かれた国連宇宙空間平和利用委員会(COPUOS)で、新たなガイドラインとなる宇宙活動の長期持続可能性(LTS)ガイドラインが採択されました。

その背景には、近時の宇宙活動プレイヤー増加と、それに伴う小型衛星やスペースデブリなど、多くの宇宙物体が宇宙空間に放出されるようになったことが挙げられます。

ESAの集計によれば、2019年1月時点で機能している人工衛星などの宇宙物体は1950個、追跡できているデブリは22300個、10cm以上のデブリは34000個あるとされています。


地球上で歩行者や車が行き交う場所であれば、交通整理やより高い安全性が求められるのと同じように、軌道上に「モノ」が増えればそれだけ安全性も求められるようになります。

ガイドラインを作ろうという議論は2010年からなされてきましたが、実際に制定されるには至ってきませんでした。
しかし、上記背景や日本主導の働きかけの結果、宇宙活動の長期持続が可能な環境を構築するため、ようやく採択に至ったのがLTSガイドラインです。

何がすごい?ー92か国全員一致・日本主導

LTSガイドラインは法的拘束力こそありませんが、スペースデブリの低減や宇宙物体の安全など、加盟国が自主的に実施すべき21項目を定めたものとして注目されます。

ところで、法的拘束力のないLTSガイドラインが定められた意義はどこにあるのでしょうか?

LTSガイドラインは、スペースデブリの低減や宇宙物体の安全などを取り扱う幅広いルールですが、このようなルールが国連という場で、しかも参加国全員一致で合意されたことに画期的意義があります。過去9年にもわたって議論が継続されてきたことも考えると、その意味の大きさがわかるでしょう。
また、日本はこれまでIADCスペースデブリ低減ガイドラインの作成からアストロスケール社をはじめとする民間企業による基調講演、政策関与によって、スペースデブリ問題について議論を牽引してきました。 スペースデブリについても取り扱うLTSガイドラインの採択は、日本が主導して実現したといっても過言ではありません。

LTSガイドラインの内容ー宇宙活動の長期持続のためには?

LTSガイドラインは、大きく分けて4つの項目からなり、それぞれに含まれる小項目を合わせると、合計21の内容によって構成されます。

(大項目)
A. 宇宙活動に関する方針及び規制体系
B. 宇宙運用の安全性
C. 国際協力,能力構築及び認知
D. 科学的・技術的な研究開発

以下、それぞれの項目を順を追ってみていきます。

A. 宇宙活動に関する方針及び規制体系

(小項目)
A.1 宇宙活動に関する国内規制体系の必要に応じた採択、改正及び修正
A.2 宇宙活動に関する国内規制体系に関し、必要に応じた策定、改正または修正を行う際の複数要素の考慮
A.3 国内宇宙活動の監督
A.4 無線周波数スペクトルの衡平、合理的かつ効率的な使用及び衛星によって利用される様々な軌道領域の確保
A.5 宇宙物体登録の実行強化

宇宙条約上、国には国民の宇宙活動を監督する義務があります(宇宙条約6条)。LTSガイドラインでは、宇宙活動の長期持続のために各国がそれぞれの必要性に応じたルールを構築することについて定められています。
ルールは、それが定められた当時の問題点を規律、整理することはできますが、技術の進化が著しい現在では、新たな課題が続々と発生してきます。
宇宙活動の長期持続のためには、技術の進化に応じて必要なルールを適切に定め、運用していくことが重要となります。

B. 宇宙運用の安全性

(小項目)
B.1 更新された連絡先の提供及び宇宙物体と軌道上事象に関する情報の共有
B.2 宇宙物体の軌道データの精度向上並びに軌道情報の共有の実行及び実用性の強化
B.3 スペース・デブリ監視情報の収集、共有及び普及の促進
B.4 制御飛行中の全軌道フェーズにおける接近解析の実行
B.5 打ち上げ前接近解析に向けた実用的な取組みの確立
B.6 有効な宇宙天気に関するデータ及び予報の共有
B.7 宇宙天気モデル及びツールの開発並びに宇宙天気による影響の低減のための確立した実行の収集
B.8 物理的及び運用面の特徴に関わらない宇宙物体の設計及び運用
B.9 宇宙物体の非制御再突入に伴うリスクを取り扱う対策
B.10 宇宙空間を通過するレーザービーム源を使用する際の予防策の遵守

宇宙空間に「モノ」が増えればそれだけ衝突などの事故の可能性は増加します。例えば衛星コンステレーションが展開されれば、現在宇宙空間に存在し、かつ機能している「モノ」以上の数の衛星が1社単位で管理されることになります。
現に、アメリカの企業SpaceXは、12000基の衛星から構築される通信網Starlinkについて発表し、実際に120基の打上げに成功しています(うち60基はテスト)。また、国際電気通信連合(ITU)には合計42000基の申請を行っています。

それだけの数の衛星を管理するとなれば、軌道上で何が起きているかといった情報は不可欠ですし、太陽フレアに代表される宇宙天気による影響も無視できません。
LTSガイドラインは、安全性確保のための前提となる正確な情報、特に「モノ」の数や位置、宇宙天気とその予報に関するデータ等を共有することについて定め、リスクに備えようとしています。

C. 国際協力、能力構築及び認知

(小項目)
C.1 宇宙活動の長期的持続可能性を支える国際協力の促進
C.2 宇宙活動の長期的持続可能性に関する経験の共有及び情報交換のための適切な新たな手続きの作成
C.3 能力構築の促進及び支援
C.4 宇宙活動の認知向上

宇宙活動の長期持続には、各国の情報や経験則の共有による国際協力が不可欠です。今は技術後進国であっても、将来的に宇宙大国となる可能性を秘めている国もあります。

D. 科学的・技術的な研究開発

(小項目)
D.1 宇宙空間の持続可能な探査及び利用を支える方法の研究および開発の促進及び支援
D.2 長期的なスペース・デブリの数を管理するための新たな手法の探査及び検討

宇宙開発は人類が切り拓いてきた数多の研究成果の結晶であり、宇宙活動の長期持続のためには継続的な研究開発が不可欠です。
特にスペースデブリの管理をめぐっては、今後の宇宙物体増加を見込めば重要課題となっていくでしょうし(現に課題となっている)、既に民間企業や研究機関が行動を開始しています。

まとめ

技術の進展は人類の発展を促進しますが、全くルールがなければその成長は止まってしまうでしょう。LTSガイドラインは、宇宙活動の長期持続を通じて人類を発展させるための基本ルールとして機能することが期待されます。

参考:
・外務省ウェブサイト「国連宇宙空間平和利用委員会(COPUOS)本委員会
宇宙活動の長期持続可能性ガイドラインの採択」
・Guidelines for the Long-term Sustainability of Outer Space Activities https://www.unoosa.org/res/oosadoc/data/documents/2018/aac_1052018crp/aac_1052018crp_20_0_html/AC105_2018_CRP20E.pdf

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