3分でわかる惑星の環境保護

歴史的快挙

昨日、はやぶさ2のリュウグウへのタッチダウンが成功しました。筆者もLIVE中継を見ていましたが、鳥肌が立ちましたね。
このミッションの難しさや凄さの解説は専門の方にお願いするとして、今回ははやぶさ2がリュウグウで採取したサンプルを地球に持ち帰った時に、法律上どのような課題があるのか、惑星保護(Planetary Protection)の観点からみていこうと思います。

Planetary Protection

惑星保護とは、他の天体を地球の生命による汚染から保護し、また、他の天体の生命体から地球を保護することをいいます。要するに、惑星を他の惑星の生命体による影響から守ることです。ここでは、地球の生命体による他の天体の汚染、他の天体の生命体による地球の汚染の双方から保護することが含まれます。
ルールについては、国際宇宙空間研究委員会(Committee on Space Research:COSPAR)が、惑星保護方針(Planetary Protection Policy:PPP)を定めています。

根拠

宇宙条約9条は、「条約の当事国は、月その他の天体を含む宇宙空間の有害な汚染、及び地球外物質の導入から生ずる地球環境の悪化を避けるように月その他の天体を含む宇宙空間の研究及び探査を実施、かつ、必要な場合には、このための適当な措置を執るものとする」と規定し、宇宙空間の環境保護について定めます。PPPは法律ではありませんが、この宇宙条約9条を根拠としており、国際条約に準じるものとして取り扱われています。COSPARの評価としては、地球への帰還の際の対処は概ね遵守されているということのようです。
日本では、宇宙条約の内容を国内で実現するため宇宙活動法が制定されましたが、PPPに合致しない人工衛星やロケットは打ち上げることができません。宇宙活動法については過去の記事でアウトラインをまとめていますので併せてご覧ください。

方法

PPPは、対象天体の科学的な重要性と汚染が将来の調査に悪影響を及ぼす重大性を考慮して5つのカテゴリに分類し、それぞれのカテゴリに応じて方策を定めています。

今回のミッション

リュウグウはC型惑星なので、今回のミッションはカテゴリ2に分類されます。
惑星保護のための対応については、2012年にリュウグウの表面物質に生物が含まれる可能性がないことがCOSPARで確認されており(それはそれで残念ですが)、探査機について特別な処置は必要ないとされました。
ただし、はやぶさ2の軌道は火星軌道の外側まで到達するので、探査機が制御不能となった時に火星に衝突しないことを証明する必要がありました。この点については、2014年のCOSPARで火星衝突確率の解析結果が報告され、了承されています。
また、同様の理由でリュウグウのサンプルを地球に持ち込む際にも特別な処置は必要ないとされています(出典:はやぶさ2情報源 Fact Sheet Ver.1.5 はやぶさ2プロジェクトチーム)。
ちなみに、はやぶさが2010年6月13日にオーストラリアに帰還した時は、オーストラリアが検疫法に基づいて調査し、危険性は最小限で無視し得ると判断されています。

まとめ

惑星保護の話題はロケットの打上げや宇宙旅行の影に隠れてしまい、あまり表に出てきませんが、今後、天体のサンプル採取をはじめ宇宙旅行や宇宙資源利活用が進むことを考えると、地球の環境問題と同様あるいはそれ以上に議論されるべき分野なのだろうと思います。
ちなみに、2017年7月25日、NASAはPlanetary Protection Officerというポジションを募集していました。3年の任期付きですが、フルタイムで年収$124,406から$187,000とのことです。興味のある方は次の機会にでも応募してみてはいかがでしょうか?

参考:
・Planetary Protection - Office of Safety and Mission Assurance - NASA
https://sma.nasa.gov/sma-disciplines/planetary-protection
・NASA Planetary Protection Office
https://www.planetaryprotection.nasa.gov/home
・第3回月火星着陸探査シンポジウム JAXAでの惑星保護への取組み 
宇宙航空研究開発機構研究開発部門 藤田和央・小澤宇志
東京薬科大学生命科学部 山岸明彦
・はやぶさ2情報源 はやぶさ2プロジェクトチーム
・環境と法 国際法と諸外国法制の論点 永野秀雄・岡松暁子

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