押印をしない契約締結

 日経電子版(2020/6/19 11:50)に、「政府は19日、民間企業や官民の取引の契約書で押印は必ずしも必要ないとの見解を初めて示した。押印でなくてもメールの履歴などで契約を証明できると周知する。押印のための出社や対面で作業を減らし、テレワークを推進する狙いがある。」という記事が上がりました。

 記事中にあるQ&A形式の文書とは、内閣府、法務省、経済産業省「押印についてのQ&A」というものです。押印をすることについての法的意味については、問4では、二段の推定に関する判例の紹介がなされています。

 さて、このQ%Aでは、問6において「では押印無しでどうしたら契約の締結を証明できるのか」という問いに対しても回答が試みられています。これによると、

① 継続的な取引関係がある場合
・取引先とのメールのメールアドレス・本文及び日時等、送受信記録の保存(請求書、納品書、検収書、領収書、確認書等は、このような方法の保存のみでも、文書の成立の真正が認められる重要な一事情になり得ると考えられる。)
② 新規に取引関係に入る場合
・契約締結前段階での本人確認情報(氏名・住所等及びその根拠資料としての運転免許証など)の記録・保存
・ 本人確認情報の入手過程(郵送受付やメールでの PDF 送付〕
・文書や契約の成立過程(メールや SNS 上のやり取り)の保存
③ 電子署名や電子認証サービスの活用(利用時のログイン ID・日時や認証結果などを記録・保存できるサービスを含む。)

といった、3つの手法が挙げられていました。

 実際の取引で利用される機会が多いのは①②であると思われます。上記のうち「文書や契約の成立過程(メールや SNS 上のやり取り)の保存」は、継続的関係であろうと新規の取引関係であろうと、とても重要です。

 さらに、更に契約成立の立証を容易にする方法として、問6は、

(a) メールにより契約を締結することを事前に合意した場合の当該合意の保存
(b) PDF にパスワードを設定
(c) (b)の PDF をメールで送付する際、パスワードを携帯電話等の別経路で伝達
(d) 複数者宛のメール送信(担当者に加え、法務担当部長や取締役等の決裁権者を宛先に含める等)
(e) PDF を含む送信メール及びその送受信記録の長期保存

を挙げています。

 この中で、実際の裁判で契約締結の成否を争う上で特に重要だと私が考えるのは(a)のメールによる契約締結についての事前合意です。大きな括りではこれも契約の成立過程に含まれるものですが、明確な意思が確認できることは大きな意味があります。

 もうひとつ重要だと思われるのは、契約締結過程において、(d) 法務担当部長や取締役等の決裁権者を宛先に含めるメールを送信することです。いくら契約の内容について交渉して内容をまとめていたのだとしても、決裁権者が関与していなければ裁判所はあまり信用してくれません。この際、タイトルやメール本文にもはっきりと契約締結の意思が読み取れるようにしておきましょう。はっきりと書かないと、決裁権者が見落とすなどした場合、後日の紛争の種になりかねません。

 このほかにも、契約を履行するためにこちらが具体的に準備をしている状況を相手方と共有しておきその記録も保存しておくであるといったようなことも重要でしょう。



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