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ノクターン第20番 楽曲分析

今回はショパン(1810~1849)のノクターン第20番を紹介します。この曲はもともとノクターンという題名はついておらず、あくまで曲想がノクターン風であることからノクターン第20番と記されるようになりました。速度標語のLentoレント conコン granグラン espressioneエスプレッシオーネの名でも知られています。では、詳しく見ていきましょう。

フレデリック・フランソワ・ショパン(Frédéric François Chopin)

1 概要

作曲されたのは1830年とされており、この年はショパンが祖国ポーランドを離れウィーンに向かった年であり、その翌年には彼の死まで活動の拠点となっていたフランス、パリへと向かうことになります。この年にはホ短調の協奏曲(第1番)が作曲され、1830年10月11日にショパンがポーランドで最後に開いた演奏会において初演されました。その後ショパンはウィーンへと旅経ちます。今回紹介するノクターン第20番はこのウィーン滞在中に作曲されたとされ、姉であるルドヴィカに捧げられました。しかし、生前には出版されず1875年にようやく出版されました。ショパンの死から26年後のことです。最初に述べた通り、この曲はもともとノクターンとしては作曲されておらず、あくまで曲の雰囲気がノクターン風であることからノクターンと名付けられています。

3部形式で書かれており、中間部では彼のヘ短調の協奏曲(第2番)の旋律が引用されているのが特徴です。

では楽譜を見ながら構造を見ていきましょう。

2 構造

4/4拍子 Lentoレント conコン granグラン espressioneエスプレッシオーネ(ゆっくりと、表情豊かに) 嬰ハ短調

A(0:00~)

4小節の序奏の後、メインテーマ(オレンジのハイライト)が演奏されます。この曲ではソフト(シフト)ペダルの指示が随所に散りばめられています。ソフトペダルはピアノの一番左側のペダルのことで、このペダルを踏みこむとハンマーが横にずれ、音量が小さくなる効果があります。ピアノの弦というのは最低音では1本、音が高くなるにつれて最高で3本の弦が張られています。ソフトペダルを使うことで、もともと3本の弦を叩いていたのが2本に、2本の弦を叩いていたのが1本となり、音量、そして響きを抑える効果があります。

3小節目unaウナ corde《コルデ》はソフトペダルを踏みこむ指示で、5小節目treトレ cordeコルデはソフトペダルを離す、という指示です。ピアノを演奏する方ならよく見かける指示だと思います。ちなみにunaウナは数字の1のことなので本来なら❝una corda❞となると思いますが・・・

それはさておき、構造を見てきましょう。メロディラインは比較的音価の長い音符を採用しており、装飾もショパンの他の作品に比べたら控えめになっています。和声に関してもシンプルに作られており、特筆すべき点は特にありません。

B(1:29~)

中間部はイ長調で開始し、肌色のハイライトヘ短調の協奏曲の第3楽章の主題を使っています。

協奏曲ヘ短調第3楽章より

黄色のハイライト部分ヘ短調協奏曲の第1楽章からとっています。

協奏曲ヘ短調第1楽章より。後にピアノ独奏でもこの旋律が演奏されている。

Bの5小節目からは嬰ヘ短調でBの出だしのメロディが再現され、嬰ハ短調に戻ります。この部分はsottoソット voceヴォ―チェ(囁くように。直訳では声量を落として。)となっており、音量のコントロールが重要です。7小節目にtutteテュッテ cordeコルデと書かれていますが、これは先ほどのtreトレ cordeコルデと同じ意味です。直訳すればすべての弦でとなります。9小節目からは嬰ト長調(変イ長調)となり、緑色のハイライトの部分は同じくヘ短調協奏曲の第3楽章から引用されています。

協奏曲ヘ短調第3楽章より

またこの楽譜ではテンポの変化が記されていますが、版によってはテンポ変化が書かれていない場合があります。この曲は出版譜によって指示が異なっている部分が多いので、自身の持っている楽譜と照らし合わせて参考にしてください。

Bの21小節目にはdueドゥエ cordeコルデとあり、これはソフトペダルを半分踏み込むという意味です。直訳すれば2本の弦でという意味になります。徐々にテンポを落としていって最後にはAdagioアダージョ(ゆっくりと、優美に)となり、嬰ト長調(変イ長調)の主和音のアルペジオでBを締めくくります。

このアルペジオはm.d.(右手で演奏する)という指示があります。このm.d.はmainマェン droiteドロォワトの略です。ちなみに左手で演奏するというのはm.g.と表記し、これはmainマェン gaucheゴーシュの略です。

A'(2:53~)

再びAに戻ります。音階を演奏するところ(A’の12小節目から)は音が細かいので、指がもつれないように演奏できるようにしましょう。最後は同主調(嬰ハ長調)となり、消え行くように曲を締めくくります。

3 終わりに

いかがでしたか?
初期の作品ということもあり、そこまで複雑な作曲技法は用いられておらず、わかりやすい旋律と構成が特徴でした。また自身の協奏曲の引用など注目すべき点もある作品です。またショパンの作品の中では比較的容易で、ショパンにチャレンジしてみたいという方にもおすすめではないでしょうか。

それでは、ご覧いただきありがとうございました。

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