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楽曲解説集

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クラシック音楽の作品を解説していきます。 主に曲構成、和声などを分析しています。
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記事一覧

パヴァーヌ 嬰ヘ短調 楽曲分析

今回はガブリエル・フォーレ(1845~1924)のパヴァーヌ嬰ヘ短調の楽曲分析をしていこうと思います。フォーレの作品の中ではよく演奏されるもののひとつで、創作活動中期における代表作です。ノスタルジックな旋律と印象的な和声、そしてわかりやすい楽曲構成が特徴です。では詳しく見ていきましょう。 1 概要作曲されたのは1887年で、この年にはレクイエムOp48(三大レクイエムのひとつ)も作曲されており、フォーレの創作活動中期における代表作の一つとなっています。元々はピアノ作品として

スケルツォ第2番 楽曲分析

今回はショパン(1810~1849)のスケルツォ第2番Op31の解説をしていきます。 スケルツォは「おどけた」「冗談」という意味を持ち、ハイドン(1732~1809)が弦楽四重奏曲に取り入れたりしました。その後ベートーヴェン(1770~1827)によって交響曲のメヌエット楽章の代わりにスケルツォを導入し、以後の交響曲の基盤を形成しました。そんな中で、ショパンはこのスケルツォを独立した作品として4作品を作曲しました。スケルツォ第2番はショパンのスケルツォの中では一番演奏機会があ

ノクターン第1番 楽曲分析

今回はショパン(1810~1849)のノクターン第1番を解説していきます。第2番、第3番と共に作品9として出版された初期のノクターンです。第1番はそれほど複雑な構成をとっておらず、演奏も比較的容易です。その中でもミクソリディア旋法を使用するなど、創意工夫がこなされています。では早速見ていきましょう。 1 概要ノクターン第3番は1831~1832年頃に作曲された作品です。1831年というと、ショパンが故郷ポーランドを発ち、フランス、パリに活動拠点を移した頃です。第2番、第3番

ノクターン第20番 楽曲分析

今回はショパン(1810~1849)のノクターン第20番を紹介します。この曲はもともとノクターンという題名はついておらず、あくまで曲想がノクターン風であることからノクターン第20番と記されるようになりました。速度標語の❝Lento con gran espressione❞の名でも知られています。では、詳しく見ていきましょう。 1 概要作曲されたのは1830年とされており、この年はショパンが祖国ポーランドを離れウィーンに向かった年であり、その翌年には彼の死まで活動の拠点とな

ショパン ワルツ第7番嬰ハ短調 楽曲分析

今回はショパンのワルツ第7番Op64‐2の楽曲分析をしていこうと思います。有名な子犬のワルツと共に出版されたこの作品は、このワルツはそこまで技巧的でなく、またメロディの出来栄えもよいので彼の作曲したワルツの中では人気の高いものの一つです。ではどのような構成をしているのか、早速見ていきましょう。 1 概要作曲されたのは1846年~1847年にかけてとされており、ショパン晩年の作品です。第6番、第8番と共に一つにまとめられOp64として1847年に出版されました。この1847年

エルガー 愛の挨拶 楽曲分析

今回はエドワード・エルガー(1857~1934)の『愛の挨拶』を紹介します。エルガーの作品の中でも威風堂々第1番と並ぶ知名度を誇っており、また演奏時間も3~4分程度の短い作品であり、親しみやすさも持っています。どのような作品なのか、早速見ていきましょう。 1 概要1888年に作曲されたこの作品は、当時キャロライン・アリス(1848~1920)との交際中に書かれたもので、彼女と正式に婚約した際にこの作品を彼女に献呈しました。題名は当初はドイツ語で❝Liebesgruss❞と名

ノクターン第3番 楽曲分析

今回はショパン(1810~1849)のノクターン第3番を解説していきます。ノクターン第3番は第1番、第2番と共に作品9として出版された初期の作品です。しかし、第1番と第2番とでは作曲技法の発展がみられます。では早速見ていきましょう。 1 概要ノクターン第3番は1831~1832年頃に作曲された作品です。1831年というと、ショパンが故郷ポーランドを発ち、フランス、パリに活動拠点を移した頃です。第1番、第2番と共に作品9としてまとめられ1832年に出版されました。ピアノメーカ

同じ旋律を840回⁉ サティ ヴェクサシオン

今回紹介する作品はエリック・サティ(1866~1925)のヴェクサシオン(Vexations)という作品です。ジムノペディ(Gymnopedie)やジュ・トゥ・ヴ(Je tu veux)など素晴らしい旋律を持った作品も遺したサティですが、彼の特徴として奇抜なタイトルや不思議な楽曲構成をもった作品も多いです。今回紹介するヴェクサシオンもかなり変わった作品ですが、とても興味深いので紹介していこうと思います。 1 概要と曲の中身この作品は明確な作曲年が特定されていませんが、189

実は1人4役⁉ シューベルト 魔王

今回はシューベルト(1797~1828)の歌曲、『魔王』を紹介します。シューベルトの歌曲の中でも特に有名なもののひとつで、日本においては音楽の授業で鑑賞した方も多いと思います。ここではこの曲の音楽的要素を中心に紹介していこうと思います。 1 概要この曲は1815年に作曲されました。詩はあの文豪ゲーテ(1749~1832)が書いたものです。1821年に出版されるまで3度の改訂が施されたと伝えらえており、シューベルトの記念すべき作品1として出版されました。作品1とはなっています

戦火に散った友たちへ ラヴェル クープランの墓

今回はラヴェル(1875~1937)のピアノ組曲、『クープランの墓(Le tombeau de Couperin)』を紹介します。 1 概要この作品は1914年から1917年にかけて作曲されたピアノ独奏の6曲から成る組曲です。6曲に3年もかかっている理由として考えられるのは、この時は第1次世界大戦が開戦し、ラヴェルは祖国フランスに対して強い愛国心を持っていたようで、自ら志願して従軍しました。1917年に除隊されましたが、その期間にこの大戦により多くの友人を失いました。そんな

さよならを告げるワルツ ショパン ワルツ第9番

今回はショパンのワルツ第9番の楽曲分析をしたいと思います。この曲は『別れのワルツ』の通称を持ちますが、どのような経緯でこの名がついたのでしょうか。また音楽的にはどのような構成をしているのか、早速見ていきましょう。 1 曲が出来上がるまでこの曲は失われた自筆譜では1835年の9月、ドレスデンと書かれています。 これはヴィンツェンティ・ヴォジンスキ(Wincenty Wodziński)伯爵とテレサ・ヴォジンスカ(Teresa Wodzińska)伯爵夫人との娘である、マリア・

フーガト短調BWV578 楽曲分析

今回はJ・S・バッハ(1685~1750)のフーガト短調BWV578の楽曲分析を行います。フーガというのは対位法という作曲技法が使われている楽曲で、対位法というのは「複数の声部(パート)が調和を取りながら重ねていく」技法です。対位法ではどのパートがメロディでどのパートが伴奏というのがありません。全ての旋律がそれぞれ独自性を保ちながら曲が構成されていくのが対位法の大きい特徴です。はたしてその技法を使ったフーガというのはどのような構造をしているのか、さっそく見ていきましょう。

春の歌 楽曲分析

今回はメンデルスゾーン(1809~1847)の無言歌集より『春の歌』の楽曲分析を行います。メンデルスゾーンのピアノ曲の中ではとくに有名なものです。魅力的な旋律が有名ですが、いったいどのような構造をしているのかさっそく見ていきましょう。 1 拍子、調、構造2/4拍子、調はイ長調 AーBーCーAーCの構造です。 大まかにすれば3部形式の楽曲です。 2 解説① A 0:00~ "Allegretto grazioso(アレグレット・グラツィオーソ。やや早く、優雅に)"との指示

ピアノソナタ第1番へ短調Op2-1 楽曲分析

今回はベートーヴェン(1770~1827)のピアノソナタ第1番へ短調Op2-1の楽曲分析を行います。ベートーヴェンのピアノソナタ全32曲は「ピアノの新約聖書」と呼ばれるほど、クラシック音楽では重要な作品群です。この第1番は第2番、第3番とともにOp2としてまとめられ、この作品群の中では唯一の短調作品です。記念すべき第1番となったこのピアノソナタはいったいどのような構造をしているのか、さっそく見ていきましょう。 1 拍子、調、構造第1楽章 2/2拍子 ソナタ形式 へ短調 第2