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だから僕は新しいものを求め、旅に出る。

京都で生まれ育った僕はいつしか、
東京という街に漠然とした憧れを持つようになった。

いつからだったか、たしか小学生5年生くらいだった気がする。
僕はテレビに映る東京という街を見て、いったいどんなところなのだろう、一度行ってみたいなと思った。
それ以来、僕は時間があると小学校の校舎の屋上へ行き、
東京がある東側を眺め、
「この山の向こうに東京があるんだなぁ」
なんてことをぼーっと考えながら過ごしていた。

僕は高校生になってからも、東京へ行きたいという気持ちがあった。
それは憧れであり、見たことないものを見たいと思う欲求であり、
人生を切り拓く、僕自身の生きる希望だった。

僕は東京へやって来た。
初めて感じた東京の街の空気、それがどんな空気だったのか、
今ではもう全く思い出せない。
でもそこには、僕の身体の中にある何かを奮い立たせるものがたしかに存在していた。その何かに影響されながら、僕は自分が何も分からないことや知らないことなんて無視し、ただ思うがままに突き進んだ。

生活費を稼ぐためにアルバイトに明け暮れ、ある人にはいじめられ、ある人にはとても仲良くしてもらい、暇があると意味もなく渋谷や原宿へ行き、
街にいる綺麗な女性や、高級車に乗っているお金持ちそうな人を眺める。
この人たちはいったいどんな生活をしているのだろうかと
自分なりの想像して、その幻想にまた憧れを抱いた。
そんな幻想に自分を少しでも近づけるために、僕はあらゆる世界に足を踏み入れ、騙され、失敗し、自分の無力さに絶望したこともあった。



でもやっぱり、小学生から高校生になるまで長い間、
僕の中で温め続けられた東京への憧れを、僕はなんとしてでも現実のものとして見てみたかった。


ある日僕は、そんなものはどこにも存在しないことに気づいた。
なぜならそれは僕の中にある世界であり、僕が創りあげた東京だったからだ。
ここへやって来たあの頃、僕の中にある何かを奮い立たせていた東京の街の空気に、何も特別なものはなかった。
そんなことを気づいた僕は、東京を離れたくなり、そして去った。

海を越え、外国に住み、色々な場所へ旅をし、僕はまた東京へ帰ってきた。
僕の目に映る帰ってきた東京は、もう以前とは全く違うものになっていた。
初めて東京に来たあのときに感じた高揚感のようなものを感じることは、
もうなかった。

ここ数年で時代が急速に進んだ影響もあるけれど、僕が東京に感じることが以前とは全く違うものになったのは、僕の中で何かが変わってしまったからだ。それを「成長」と呼ぶのか、「自分自身を知る」と呼ぶのかは、
今の僕には分からない。でも生きていく過程で、何か新しいものに触れたとき、古いものに対する考えが変わってゆくことは、よくあることだ。
その古いものが、自分の「夢」であったり「憧れ」であったりするときに人間は、それが変わってしまうことに恐怖や寂しさを感じるのだと思う。
そしてもう自分の中で変わってしまったものを、何も変わっていないと信じ込むことで、安心感を得ようとする。

でも変わってしまったことはもう仕方がないんじゃないかって思う。
何も変わらないことを求めることは、何の変化もない人生を求めることと同じであって、退屈で面白くない人生を求めていることと同じなんじゃないかって思う。
少なくとも僕は、変化がない人生なんて嫌だ。
昨日よりも何か一つでもいいから変化していたいし、ずっと同じことを繰り返しているとひどく落ち込んでしまう生き物なのだ。


だから僕は新しいものを求め、旅に出る。
変化しない人生が辛いから、旅に出る。





自分の中で変わってしまった古いものは潔く捨ててしまう。
捨てたら何か新しいものがそこに入ってくるんだと信じて。





そんな昔の思い出と呼べるようなものがたくさんある東京の街を、
僕は今、カメラを片手に歩く。それはなかなか楽しいものだ。
そこには、もう感じることのできない空気が存在していて、
感じることのできない感情が存在している。僕はその、
もう二度と感じることのできない一つ一つに丁寧に触れ、
この瞬間にだけ蘇ってくれてもいいかな。なんてことを思いながらシャッターを切る。


自分の心にある、
もう二度と戻ってくることのない、もう二度と感じることのできないもの。
そんな儚いものが、僕は本当に美しいなって思う。

僕の中にもっとたくさん、儚く美しいものを積み重ねる為に、
僕は広い地球を冒険したい。
自分の中にある古いものを捨て、新しい種を植えたい。
地球は僕よりも速いスピードで変化している。
そんな地球に生きる僕たち人間も、地球に負けないように変化し続けなければならないのかもしれない。
これからも変化を恐れず、新しい自分の可能性に希望を持って、
前に進み続けよう。

「最も強いものが生き残るのではなく、最も賢いものが生き延びるのではない。 唯一生き残ることが出来るのは変化できる者である」

イギリスの自然科学者 チャールズダーウィン









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