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徒然なる相想草【詩・小エッセイ】

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ルリニコクみみみの詩・小エッセイをまとめました♪
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#小説

幸福な世界

幸福な世界

わたしを取り巻く土壁の
中で開かれた大宴会

ああ貴方はここで大きく腰を振って
過去をなかったことにする

本当は、わたしが受精するはずだった
ドス黒い貴方の松脂を
生肉の目立つ赤子同士が奪い合う

イニシアティブを取り合いながら
尊大な母性を見せ合って
尊大な惰性を身につけていく

赤子たちは黒い子羊を産んで
その肉をわたしと貴方は
美味そうに骨まで喰らう

きっと貴方のスキーム通り
美しくて幸

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愛に関する小さな考察

愛に関する小さな考察

 ふたりの愛が裁判にかけられました。

 まずは、ひとりめの番です。裁判長をつとめてらっしゃる、えらいえらいスマートフォン様が大きな声でおっしゃいました。

「お前はひとりじめを願ったな。ひとりじめは、いけないんだぞ。人を、苦しめるんだぞ。お前に殺された人たちが、どれほどいると思うんだ。」

 五十個ほどにも及ぶドングリをお支払いしてこの裁判を聴きにきた人々は、おぉいと叫んで喜びます。そりゃあ、そ

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屑を綴る

屑を綴る

綺麗な言葉など紡げません。

私という人間は校庭の隅に転がっている
汚い植木鉢の破片のような存在ですから。
それはそれは刃のような鋭利さで
触るものを傷つけますから。

それでも私の書くものを詩や詞として
目を少しだけ輝かせて読んでくれる人がいます。
刺さると言ってくださる方々がいます。

詩とはなんでしょう。
言葉とはなんでしょう。
自転車であり薬であり。
空気でもあり屑でもあり。

ええ、屑か

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私の秋のお話など

私の秋のお話など

私の秋のお話など
誰が聞きたいとお思いでしょう。
それでも
ほんの少しだけ話しておきたいのです。

強き女性がおりました。
私は彼女を傷つけたいと、そう思いました。

どうしてそう思ったか。
いまでもはっきりとはわかりません。
きっと大切だったのでしょう。
それでいて
普通への憧れだったのかも知れません。

小学二年で首吊りの遊びを
していたような男ですから
私の考えることは今ひとつ
よくわかりま

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新津の匂い

新津の匂い

たまに頭蓋の奥から匂いが染み出てまいります。
これはこれは。懐かしゅうございます。
言葉にすれば、灯油の燃える香り。
映像にすれば…誰にも伝わりますまい。

あれは新潟。新津。いまは秋葉区。
毎年毎年お正月にあつまったもので、
子供の頃の雪は、あの家でございました。
きんと冷えた黒い廊下を進むと、
奥から祖母がとんとんと料理をする音が聞こえます。
右にある重めの茶色い扉を開ければ、
祖父があぐらを

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古民家にて

古民家にて

あなたは机の埃をなぞりながら
少しお話をはじめました。

わたしはその内容にあまり
興味がございませんでした。
そんなことよりも
冬の水面のようなあなたの瞳を
マリアのようにアルカイックなスマイルで
眺めることに精を尽くしました。

主人を失ったこの古い家には
人間が動いた記憶だけが渦をまいて
とどまっているようにも思えます。
その中心であなたは
銀河のようにその渦を吸収して立っている。
そんな風

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初詣

初詣

ああ。あの日。
あの日のことでございます。

私は一心不乱に初詣を並んでおりました。
三十分くらいでしょうか。やっとのことで順番は巡り、二礼二拍手。
ありきたりなお願い事をしようと思いました。
家内安全とか、交通安全。世界は安全が一番なのでございます。

拍手のまま手を合わせ、目を瞑り、
そのありきたりな文言を心で唱えようと脳内を動かしました。
すると。なんということでしょう。
周囲の雑音。それは

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