ラザニアとレモンの葛藤3

🍋2話目はここだよ🍋

ラザニア
それは私にとって、この世で1番好きと言っても過言ではない食べ物。
重ねられたミルフィーユ生地と、その間に挟まるミートソース。ファミリアのラザニアにはホワイトソースも混ざっていて、美味しいって言葉じゃ足りないくらい美味しい。

でも、ここのラザニアは、なんだかちょっとピンとこない。
もちろん、美味しいんだけれども、ファミリアのラザニアには敵わない。それに、彼の綺麗な顔に見惚れちゃう。それどころじゃない。
デートしてる、私。私、デートしてる!

「それで、どうしたの?」
「え??」
「え…?笑」
どうしよう、緊張しちゃって会話どころじゃないよ…。こんな時、リリがいたら…。

私たちはイタリアンを後にし、夜景が綺麗な高台へ向かった。
それからの数時間があっという間で、夢のような、おとぎばなしのような時間だったのはわかるよね!

綺麗な夜景を見ながら、他に誰もいないこの高台で、私たちは二人だけの時間を楽しんだ。
家族の話から、過去の恋愛の話、犬が好きか、猫が好きなのか。いろんな、いろんな話をした。
気づけば、私は彼の腕の中にいた。

周りに建物もないわけで、夜もふけ、冷たい風が肌に突き刺さる。そんな風から私を守るように彼は私を抱きしめてくれた。
暖かくて、心地よくて、ずっとずっとこうしていたいと感じた。

「ずーっとこうしていたいね。」
あぁ、よかった。彼も同じ気持ちだ。
私の髪に顔を埋めて彼はつぶやいた。
「うん。」そう言って振り返った瞬間だった。

彼とキスをした。

ドキドキして、心臓が飛び出しそうなのは当然だけど、彼の優しいキスは私を安心させた。

だんだんと近づく終電の時刻を眺めながら、時間よとまれ、とまれと祈ってみた。もちろん無駄な祈りだけど。

「今日はありがとう!すっごく楽しかった!」
「よかった、また連絡するね。」
「うん。…あのさ、私、あなたのこと好き。」
「…俺も好き。」
「またね。」
「うん、また今度。」

そう言って、別れた。
そう言って、別れたはずだった。
でも、「また」は2度とやってこなかった。

思い返せば、「好き」と伝えたその時の彼は驚いていて、どこか困ったような表情をしていた。
その時の違和感を信じて、期待なんてしなければ良かった。そう、思う。
彼は、私の送った「いつ会える?」の文字に既読をつけることはなかった。

しばらく経って、久しぶりにファミリアを訪れた。
連絡も取ってないし、ちょっと気まずい。
だけど、ファミリアは好きだし、ラザニアを諦めることはできない!それに、少し、ほんの少しだけ、彼に会いたかった。ほんの、少しだけね。

彼と私は終始、目を合わせることもなく、お互いがお互いを見ることもなかった。
楽しげに話しかけてくれる彼はもうそこにいなくて、可愛い笑顔を見ることもできなかった。
お気に入りのウエイター姿を目に入れるのは、なんだか申し訳なくって、ラザニアに集中した。

「私、何したんだろう…」
考えれば考えるほど、大好きなラザニアの味がわからなくなった。
ラザニアよりも、好きなのかもしれない。
レモンをくれるあなたが、冗談を言うあなたが、恋しい。

結局その日、彼が私たちのテーブルを訪れることはなく、アイスティーにレモンが添えられることもなかった。
レモンは、一つも、もらえなかった。

何か、良い夢でも見ていたのかもしれない。
ほんのひとときの、束の間の、楽しみだったのかもしれない。
せめて、何事も無かったかのように話ができたらな。なんても思った。

ネットで調べまくった占いは全部ハズレだ。
「彼はあなたのことが大好きです!」
「3週間以内に恋の奇跡が起こります!」
「恥ずかしくって、避けているんです!」
ウキウキして、そうかそうかと信じていた自分を悔いた。

人生で、1番ロマンチックな出会い。
人生で、1番ロマンチックなデート。
リキッドレモンから生まれた、1つの思い出。

人生って、何があるかわかんないなぁ。
あの日見たお月さまは、今日も綺麗だけどね。

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