ラザニアとレモンの葛藤2

🍋1話目はここだよ🍋

突然のデートのお誘いから数日。忙しくしていたため、ファミリアに足を運べずにいた。というのは本当だけど、彼に会うと思うとドキドキで手の震えが止まらないからっていうのが本当の本当の理由。

カードに残された一方的なメッセージを眺める。私が直接彼に返答するしかないってことだこれ。無論、そんなキュートなお誘いを断ることはないけど、なんて返そうか?カードに英語でお返事を書いて渡す?直接どこ行きます?なんて言えないしなぁ。いっそのこと知らないフリをしてみようか…。

どうして気になる人のことを考えているとこんなにも時間が早く過ぎるんだろう。結局返答が思いつかないまま、気づいたらファミリアの目の前にいた。
ランチに滑り込みで訪れたためか、お客さんは私達の他に小洒落たおじさんと奥様二人だけだった。

「そのカードくれた人ってあの彼でしょ」
レモンの彼を指差すリリに、そんな大きい声出さないで!と目一杯の沈黙で応える。
「彼が仮にこっちを今見ているとしたら、その大袈裟なジェスチャーのせいだと思うけど」
リリの鼻と口に向けた人差し指を引っ込めて彼を見ると、確かにこちらを見ていた。

リリは私の同期。クールで見た目は怖いけど、根はすごく優しくって、恋愛マスターって感じ。
そんな彼女を連れてきたのはもちろん、一人で返事をする勇気なんて無いチキンにもなれないひよっこの私にアドバイスをして貰うためだ。
3人のウェイターの中から一発で当てられるなんて、さすが恋愛マスター、いや仙人だ…。

「お決まりですか?」
「え!あっ、あの…お願いします!」

沈黙が流れる。雨が強さを増したのか店が静かすぎるのか。車が水しぶきを上げていく。

「Aセットのラザニア、どちらもサラダで。アイスティーとアイスコーヒーをお願いします。」
「お持ちいたします。」

??
何が起きたんだ??
頑張って頭の中を一つずつ整理していく。
「返事する準備、できてたんだね。」
リリの言葉で、「無意識のお返事」をしてしまっていたことに気づく。オーマイガー。この言葉を使うタイミングはきっと世界一間違ってない。

どうしようと半泣きの私に、「可愛いから大丈夫、彼も笑ってたし。」とリリは慰めてくれた。
「チャンスだよ、料理が来たら、素直にいいな。『デート、どこに行きます?』って。」

ラザニアを待つ間は手の震えが止まらなかった。
だって①恥ずかしい振る舞いをしてしまったのに②彼の顔を見ないとだし③彼に直接返事もしないといけないなんて…まさに「ぴえん」の絵文字そのものだった。
いつもなら最愛のラザニアを待っているはずの最愛の時間が羞恥に浸された興奮のマリネを作る時間となった。

サラダ、ラザニア、アイスティー(とリキッドレモン5つ)が順に運ばれては来たものの、私は彼と目を一切合わせられず、声を失った人魚姫になった気分だった。

真っ黒な中に照明が入り、少し茶色く透き通った飲み物片手にリリが尋ねる。
「どうするの?次回に続くなんて安くさいラブコメみたいな展開にしないでよね。」
わかってるよ。返事をしなくちゃいけないって。行動が大事って。でも私のハートは今にも彼に抱きつきそうなくらいに胸を叩いていた。

「最後のチャンスだよ」とリリが私にお金を渡す。2600円のお金の上に、ひっくり返したお店のカードを添えて、バージンロードを歩くみたいに一歩ずつ踏み出した。

カウンターの前で震えをめいっぱいに抑えてお金を差し出す。

名前も知らないあなた。
リキッドレモンをめちゃ持ってくるあなた。
抜けているけど、そこがお茶目な貴方のことが、ラザニアより気になっています。

レシートを渡される前にカードを差し出した。
「あの、ラザニア食べに行きたいです。」

オーマイガー。オーマイガー。大事なことは3回言わなきゃダメだよね、オーマイガー。
風変わりなラザニア大好き人間に浴びせられる、好奇の目を覚悟して顔を上げた。

「イイデスネ、ラザニア。ココヨリモオイシイトコロハシラナイケド、イキマショウ。」
あ。よかった。私、今、返事できた。
カタコトの返事は置いといて、彼は何処かで見た仏のような笑みを浮かべて応えてくれた。

その会話の後、彼は私に連絡先を書いたカードを渡してくれたらしいけど、全く覚えてなかった。代わりに、リリが受け取って別れ際に渡してくれた。
リリ仙人。ウルトラセンキュー。本当に、彼女は仙人だと思う。

帰りの電車、一駅目。
とりあえず幸せに浸るために「crush playlist」と動画検索で1番初めに出てきた歌を聴きながらカードに並んだ英数字を何度も眺めた。

最寄駅。
頑張って「友達になる」のボタンを押した。(友達以上になれますように…なんて些細な願いを込めながら)

フカフカのベットの上。
お風呂に浸かりながら熟考した2行を送ろうとしたら、メッセージが送られてきた。

「今日はお返事をありがとう。急だけど、2日連続ラザニア食べに行ける?」

ラザニアと、彼と。大好きなものを一度になんて。
今日の夢は美味しい美味しいラザニアが出てきそうだなあ。

この記事が参加している募集

スキしてみて

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?