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【小小説】ナノノベル

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2020年3月の記事一覧

独りの待合室(失われた時)

「ニッポンから……」
 ニッポンと聞くと数歩離れて二人で何やらひそひそと話し始めた。
「こちらへどうぞ」
 薄暗い待合室に通され待つことになった。普段使いされている部屋とは違うどこか独特の匂いを感じる。お茶も新聞もなく退屈だ。人がやってくる気配もまるでない。もう30分、あるいはそれ以上だろうか。私は立ち上がって入り口まで歩いた。ドアが開かない。向こうから鍵がかかっているのだ。

「おい! どうなっ

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ひとっ走り

25メートルの怪獣が
目の前に立った時

「背高いですね」
なんて言えなかった

背だけではない
一言で表すならば
彼はビッグ

かけ離れていて
ジェラシーさえも抱けない

「何か買ってきましょうか」
(コンビニにも入りづらいだろう)

「生茶を」

へー、意外と普通やん
#詩 #小説 #怪獣 #コンプレックス
#普通 #エッセイ #姿勢 #多様性

就職逃亡者

「ずっと研究室にいたからね。もういいかなって」
「やり尽くしたって感じっすか」
「後はもう後輩たちに任せて。何か違うことがしたくてさ。この会社もそれで始めちゃったわけさ。ずっと学問ばかりだったからね、人間相手に動いてみるのも悪くないと思ったんだ。不思議だよ。人間臭いこと大嫌いだったんだけどね。人間急にひっくり返ることがあるみたいだ。遊びほうけてた人間が、急に真面目になったりさ。その時は本当に馬鹿み

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海外志願

 後のない試合を落としてしまった。すべては指揮官である私の責任だろう。もうこれですっきりした。ようやく重い荷物をおろして楽になれそうだ。マイクを向けられれば前向きな言葉が出てしまう。自分にうそをつくのにもいい加減嫌気がさしてきた。胸の中はため息であふれているというのに。わかる人にはわかるだろう。私の目をちゃんと見れば……。

「じゃあ訊きますが。逆にどうやったら首なんですか!」
 私がまだチームを

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