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#3-1 若手教師をどう育てるか:経験学習に注目した実証研究からのアプローチ【MAWARUリフレクション:町支先生#1】

みなさんこんにちは。MAWARUリフレクション事務局です。今回は、全10回の「リフレクションを対話的に再構成する~研究者と実践者でリフレクションを紡ぎなおす~」イベントの第3弾、2022年12月10日(土)に開催した第3回目イベントの様子をお伝えします。

第3回目は、帝京大学教職大学院の町支大祐先生にゲスト講師としてお越しいただきました。町支先生は、中学校の教員として勤められた後に研究の世界に入られ、教師の学びの分析を皮切りに、現在も教師教育、教育経営学を中心とした様々な研究に携わられる気鋭の教育研究者です。

今回から、参加者が事前に課題図書を読み、ディスカッションを重ねる「事前読書会」を行ったうえで、イベントを開催する形になりました。今回は、町支先生が執筆に携わられたご著書「教師の学びを科学するーデータから見える若手の育成と熟達のモデル」(北大路書房、2015)第4章「教師は経験からどのように学ぶのかー教師の経験学習」を課題図書としています。
ここからは、イベントのPartⅠとして、ご著書についての町支先生からのレクチャーをお届けします。なお、本シリーズはPodcastでも配信しています。ラジオのように音声でも聴くことができます!

それでは、町支先生のレクチャーパートです、どうぞ!

町支先生のご紹介、今回の課題本について

皆様おはようございます。最初にざっくりと論文(第4章)の内容とか、ご質問いただいたことに答えながら話させていただきます。私自身は、短いのですが中学校の教員をして、もともと学部が経済だったので、教育の勉強がしたいなと思って大学院に行って、大学院から現場に戻ろうというのが最初の意図だったのですが、研究が面白くなって研究の世界に残りました。今は、帝京で教職大学院の講師をしています。

今回テキストにした本ですが、ちょうど僕が大学院の頃に、中原淳先生という今は立教大学にいらっしゃる先生に出会いました。それまで僕は、研究って何?というのが全然わからなかったのですが、この本を通して研究のことを勉強しながら、教師の学びについて分析していました。

調査の背景と目的

この論文は、10年くらい前の横浜での調査を元にしています。この調査を行った背景というのは、今色々な自治体で起きていると思いますけれども、大量退職とセットで大量採用が横浜で行われて、若手が一気に増えた。そのボリューム層、これから学校の中で中心となっていくたくさん採用された層をどうやって育てていくのかということに、横浜市の教育委員会も悩んでいるというか、すごく関心を持っていたのですね。それで、どう育てていくのかを考えるために調査をしたという感じです。教育委員会とタッグを組んでいたので、豪華にデータを取れて、1年目、2年目、5年目、10年目、と4つの段階で調査させていただきました。今回対象の章は、5年目の先生たちを対象にした調査です。サンプル数は、5年目の方で349名です。教師をどう育てられるかを考えるには、やはりどう学んでいるのかを明らかにしたいということで着目したのが、今回の経験学習という概念です。経験学習そのものは、49ページ(※図4-1)にもありますけれど、4つの段階を踏んで学んでいく。

ぱっと読んで納得感が高い、まあそうだろうなと思うモデルかと思うのですが、今回の分析の一番の意味は、このモデルを実証的に示したということかなと思います。コルブKolbの経験学習自体は、もともとは教員向けじゃないので、他のビジネスパーソン対象だと、こういった実証的な研究もあったのですが、初めて教員を対象に、実証的、量的にアンケートをして分析して、やっぱりそうだというところを出したのが一番の特徴かなと思います。それまでは、振り返ることって大事だよねと学校現場ではたくさん言われながら、それが何となくであったのを数値で表したということかなと思います。

調査で実証した4つの内容

実証したことは、まず(経験学習の)サイクルが回っているということと、循環モデル・直線モデルというのがあったと思います。これを含めて、ポイントを大きく4つ言うと、

  • (①経験学習のモデルは)循環モデルなのか直線モデルなのか

  • どんな意識(②キャリア意識)を持っている人が経験学習をするのか

  • どんな環境(③協働性/④専門性)だと経験学習が促されやすいか

ざっくりいうと、この4つをやったということかと思います。直線モデルと循環モデルでいうと、要はシンプルに言うと、次につながるのかつながらないのか、ということです。問い続けているというか、こうしたら上手くいくかなという思いがあってやってみる。それが上手くいく時も上手くいかない時もあると思うのですが、じゃあこうしてみようとか、次はどうしたいかなというものが、つながっていく人とつながっていかない人がいると思うのです。それで、成長につながるということをセットにしてモデル化してみると、やはり循環モデルの方で適合度がよかった。適合度がいいというのはどこで見るかというと、モデルの下の5つの数字を見て適合度がいいと考えたという感じです。

そこから先もシンプルで、キャリア意識を持っている人ほど経験学習している、協働性のある環境にいる人ほど経験学習をしている、専門性のある環境にいる人ほど経験学習をしている。本当にシンプルな結果です。

また、調査を行った項目のことを少しお話しすると、共同研究なので自分だけの意思で勝手に公開することはできないのですが、例えばキャリア意識で聞いているのは、「教員生活の設計は自分にとって重要な問題なので、真剣に考えている」とか、「これからの教員生活について自分なりの見通しを持っている」、みたいな感じで、この研究自体では「教員生活」という漠とした言い方をしています。
それが例えば管理職に通じるものなのか、そうじゃないのかといった形では聞いてはいないのですよね。要は、その先の見通しを持っているか、こうありたいとか、こうなりたいという見通しを持っている人と、そうではなくてあまりそういう見通しを持っていない人、その有無を聞いています。
これは(※事前読書会の内容を聞いて)面白いと思ったのですが、キャリアのイメージをもう少し具体化して、違う聞き方をしたら違う結果になるということはあり得ると思いました。
※(編集注)事前読書会では、「教師のキャリア意識には、管理職を目指すだけではなく、色々な方向性があるのではないか」という話題が出ていました。

あと、協働性とか専門性については何を参考にしているかというと、愛媛大の露口先生が、組織についての量的調査をかなりやっていらっしゃるのですが、「信頼構築を志向した校長のリーダーシップ」(露口健司, 2003, 教育経営学研究紀要6, 21-37)の論文の最後にある資料3の尺度(学校改善の測定項目:4因子23項目)を見ていただけると、参考になると思います。
私たちの研究では、露口(2003)の学校改善尺度を参考にしつつ、実際の調査では教育委員会の意向でそのまま聞けない項目なども出てくるので、少し変えています。でも、この「同僚同士が支え合おうとする温かな雰囲気がある」という項目などが協働性です。協働性の因子の中に、「(教員同士で)情報交換をする」とか、「支え合う温かい雰囲気」とかが入っているのですが、この尺度の内容で聞いています。専門性は、「専門性が高いと思っている」とか、「高くありたいと思って行動している組織」という感じです。これを参考に、直接的に聞いた項目はこの尺度と少しずれますが、似た形で聞いています。

調査の意義と今後の展望:実証研究と個別の文脈/ストーリー

あとは、これは実証研究、量的な研究ということで、おおまかな傾向を出しています。この調査の意義としては、「こうじゃないかな?」と思っていたものを数値で表してくれたのが大事なところかなと思っていて、パーンとした切れ味の新しい知見が出てきたというよりは、そうだろうなということをエビデンスとして出したことかなと思います。それによって勇気づけられて、やっぱり協働性って大事なのだと思って動いてくれる人もいたり、この研究をベースにして、例えば先ほど出たキャリア意識のあり方次第でリフレクションは違うと思うので、そういう新しい研究につながったりとか、そういう土台になるという意味ではすごく大事なところかなと思っています。

僕も教職大学院に来て3年目で、3年間リフレクションの実践者としてリフレクションを促すということをやっているわけですけど、リフレクションには個別性がめちゃくちゃあるわけですよね。例えば、リフレクションを促されるのは学生なのか、どれくらいのキャリアの人なのかということでも当然変わるし、リフレクションの目的も、何かができるようになるとか、その場で求められる行動ができる、といった改善を目的とするのか、それとも変容というか、その人の核(コア)となる部分を大切にして磨いてあげるとか、あるいはそこが揺るがされるようなリフレクションを目指すのか、目的によっても全然違うわけですよね。でも、今回の研究で出しているのは大まかな傾向なので、そういう個別の文脈とかストーリーみたいなのはそこから抜け落ちるわけです。そういう意味でいうと、僕はここ3年間、教職大学院で、ストマス(学卒院生)っていう学部から教員になる途中の子たちのリフレクションを促したり、経験10年、15年の方々と一緒にリフレクションをしていたりするので、僕も悩みながらやっている感じです。その辺りを、みんなで話したらいいかなと思っています。

まとめ

以上、町支先生からのレクチャーをお伝えしました。今回ご紹介いただいた調査の背景や目的、意義についてわかりやすくご説明いただいただけでなく、研究のウラ話(!)や、実践あるあるの悩みまで盛り込まれたお話を伺えて、とても楽しいレクチャーでした。
次回からは、参加者から寄せられた質問や実践の問題意識に対する町支先生の回答や、参加者と講師のディスカッションの様子をお届けしていきます。どうぞお楽しみに!

【町支先生イベントの記事】
# 3 -1 若手教師をどう育てるか:経験学習に注目した実証研究からのアプローチ(本記事)
# 3 -2 質疑応答とディスカッション(1)
# 3 -3 質疑応答とディスカッション(2)
# 3 -4 質疑応答とディスカッション(3)

(MAWARUリフレクションメンバー 執筆:生井)

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