連作短編|揺られて(前編)③|可奈子
結婚を前提として父から紹介された夫は、将来の銀行支店長の役が約束されている
夫は高学歴のエリートで外見も美しい男だ。
生まれてくる子の知能、外見までも考えて父が選んだ男を拒めるはずもなく、いや私は生まれた時から自ら生涯のパートナーを選択できる立場にはなかった。
苦労を知らない世間知らずのお嬢さんと言われても仕方がない。考えなくても全て両親が人生のレールを引いてくれたのだから。
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朝食はトーストにした。
体を重ねた翌朝は、味噌汁や焼き魚は相応しくないように思う。なぜだか分からないけれど…
半熟の目玉焼きが好きな夫の為に、焼き過ぎないようにフライパンの前に立つ。
昨夜の夫はいつもより激しかった。何かを打ち消すかのようにぶつかってきたといってもいい。仕事は順調なはずだし銀行の業績も悪くないから、きっと女のことだろう。
結婚して二十年以上になるが、常に女の影が見え隠れしているのは全てお見通しだ。世間知らずの女だから気づくまいと思っているようだが、夫という男については子どもの頃から母を見て学んでいるつもりだ。父の女遊びは酷かったが、母は黙って日々を過ごしていた。それは一般家庭では考えられないことだろう。
家庭なんてこんなもの…
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夫から連絡が来たのは昼過ぎだ。
─ 今夜は接待で遅くなる
月曜日から女に逢いたいなんて…
どうやら今回の女のことは相当気に入っているようだ。
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夜遅く帰ってきた夫を出迎えるため、ネグリジェの上にガウンを羽織る。
かなり酔っている夫の上着を脱がせる時に顔を近づけるとほんのり甘い匂いがした。
チョコレート…
安っぽいチョコレートの匂いは、夫が若い女と付き合っていることを意味していた。
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夫の逢瀬に気づいた翌日は、アキラを呼び出すことにしている。機械類には疎くビデオ録画も自分に頼む妻がまさかスマートフォンのマッチングアプリを使いこなしていると夫は思いもしないだろう。
アキラに逢いたい…
アキラは自称フリーターだが、連絡をするとすぐに逢う時間を作ってくれるので、まともに働いているようには到底思えない。
だけど、そんなことはどうでもいい。
夫より滑らかなアキラの手のひらで触れてほしかった。
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はじめて小説を一から書いてみました。
全六話です。
けそさんのイラストを使用させていただきました。
#けそさん
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