マガジンのカバー画像

週刊売文

7
月ごとにテーマを決めてそれについて執筆者(高橋力也、八城友紀実)が文芸作品を毎週投稿していきます! 〜現在お休み中〜
運営しているクリエイター

記事一覧

生と死について

生と死について

 私は生と死について考える時、無意識のうちに仏教的な考え方に基づいて思考している。これは家のしきたりというか習慣で小学生の頃から中学生の間にかけて毎日お経を上げるという経験の影響だと思われる。自慢といえるかどうか分からないが、今でも般若心経は全文諳んじることができる。それほどお経が身体に馴染んているのだ。唱えていたお経は日本語のもののほかに、パーリ語のものを日本語のカタカナの音声に直したものを唱え

もっとみる
生きた 恋した 死んだ

生きた 恋した 死んだ

若き日の柳美里がインタビュアーに好きな言葉を聞かれたとき、「生きた 恋した 死んだ」と答えた。彼女の好きなフランスの詩人、スタンダールの墓石には「書いた 恋した 生きた」と刻まれている。
『JR上野駅公園口』が2020年に全米図書賞を受賞したことで柳美里の存在を知った人も多いのではないだろうか。最初は大学の現代演劇の講義で東由多加と切っても切り離せない人として彼女の名前を知った。2000年に刊行し

もっとみる
自由を求めて、どこまでも

自由を求めて、どこまでも

 私は自由という言葉が好きだ。自由の言葉の響きにはあらゆる不自由から解放された溌剌とした軽やかさがある。自由は私の行動原理とも言うことができる。私は自由のために生きている。この自由は誰かによって与えられるものでも、どこかで偶然拾得するものでもない。自分の意志で手に入れようとしなければ獲得することはできない。
 いまの時代の日本においては言論の自由、表現の自由、職業選択の自由などあらゆる自由が氾濫し

もっとみる
淫蕩の歌舞音曲

淫蕩の歌舞音曲

弦はフサを何度か見たと言った。「この上の小屋に来とったやろ?」フサが首を振ると「そうじゃ、そうじゃ」とわざとらしくその右手で頭をかく。フサは獣のひづめの形のようだと女が言った手そのものではなく、その手をみせびらかしている事が気に食わなかった。
中上健次『鳳仙花』

「男の人の、見るたんびに、罪つくりなこ

もっとみる
美即是醜 醜即是美

美即是醜 醜即是美

 「美」というとなんだか権威主義的な強迫感を感じてしまう。美しいと言われる側に居ることができれば嫌な気はしないが、醜い側になってしまうとたちまちそれが悪いことのように思えてしまう。美しくなくてはいけないという固定観念。「美」は良いもの、「醜」は悪いものというイメージが刻み付けられてしまっている。
 「美」について考えるときには、同時に「醜」についても考えなければならないだろう。どちらか一方を取り上

もっとみる
故郷への道筋

故郷への道筋

今夏の話。首の後ろの大きな筋の、左側がキンキンする。七月の終わりに眠れなかった夜から、いくら寝ても治らない。眼球が震えるように動いたり頭痛に似た症状がある。やられているのは神経だと確信している。目覚めて上体を起こす時や外に出た瞬間、神経を使う時に起こるからだ。八月はじめの一週間はニューヨークからはるばる講師の先生が来て七日間毎日演技のレッスンがあった。狂おしい猛暑と感情の揺れ動きだけを感じながら、

もっとみる
猫的生き方のすすめ

猫的生き方のすすめ

猫の生き方は自由だ。彼らは寝たいときに寝て、食べたいときに食べ、遊びたいときに遊ぶ。誰かに命じられて行動するのではない。常に自分が何をしたいかが行動基準となっている。
我が家では猫を一匹飼っている。名前は黒豆。ファミレスの裏でノミにまみれていたのを拾われたアングラ生まれの女の子である。黒豆は推定6歳で現在我が家のヒエラルキーの頂点に君臨している。家の中は猫中心的に動く。黒豆は一日に16時間~1

もっとみる