新宿駅に向かうバス車内で―「ある朝のできごと」—
私はかすかな振動を感じて目を覚ました。目をうっすらと開けると、紺色の布がピンと張られた座席に、折り畳み式の小さなテーブルとドリンクホルダー、荷物をかけるフックが見える。
下方を見ると、「走行中はシートベルトを着用して下さい」と記載された紙が網ポケットに入っていた。ああそうだ、新宿駅に行くために高速バスに乗っていたんだっけ、と陽光が射さない曇り空のように、ぼんやりとした頭で考える。バスの車内には上品な老夫婦に、出張らしき会社員の3人しか乗車しておらず、大学生くらいの年代の