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初冬と忘れ物

 窓辺からみえる街路樹はいまや散り、寂しげに葉を揺らしている。 


 ある日、私が窓辺から目を凝らすと、通りを挟んで向かい側に、小さな託児所があることを発見した。

 それからというもの、私は、毎朝託児所に連れてこられている子どもたちを、少しだけ観察するようになった。

 「早く行こうよ」と、小さな弟の手をひっぱる女の子や、行くのを渋っている男の子、去り行くお母さんを、いつまでもじっと見つめている子ども。

 野に咲く小さな花々のように、その様子は点々ばらばらだ。

 私の子ども時代を思い起こすと、私は「いやだ」といって、母の手を離そうとしない子どもだったように思う。

 「幼稚園」と、「母と一緒にいる世界」が一続きにつながっているとは思わず、ぷつん、と途切れてしまうものだ、と考えていたのかもしれない。

 先日、生まれたばかりの赤ん坊を抱いた夫婦と、エレベーターにて出くわした。

 真綿のように純白なおくるみに包まれた赤ん坊はすやすやと眠っていて、ぎゅっとしたくなるような愛おしさをはらんでいた。

 手などもとても小さいのにかかわらず、爪もしっかりと生えていて、お人形のようなのに、ちゃんと生きているのが不思議だった。

 私たちはみな、赤ん坊、子どもだった頃を経験して大人になってゆく。

 それは至極当たり前ではあるのだが、子どもの持つ素直さがまぶしく思える。

 母が行ってしまうのを「イヤ」といえる素直さ。
 その素直さがあれば、言いたいことを内奥に閉じ込めてしまう私たちの人生は、より歩みやすくなるのだろう。

 初冬の木枯らしの毛布にくるまれて、無邪気に笑い声をあげる子どもたち。

 彼らの持つ素直さが、ちょっぴりと羨ましい。



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