オーバーオール?の君vol.1
これは、私と清水君とのある夏の日の思い出である。
高校デビューをした私はいきっていた。
ヤンキー仲間とゲーセン・ラウンドワンで夜な夜な遊び呆ける日々。
その日も友達の尾形とゲーセンで遊ぶ予定で帰路についていた。
当時の携帯電話の機能にLINEやSNSは無く、電話帳に登録されている人数=神ってる陽キャとして崇められていた時代。
早々にクラスメイトのメアドと電話番号を手にしていた私の携帯にL'Arc〜en〜CielのDriver’s Highの着信メロディーが鳴る。
相手は陰キャの清水君だった。
清水は勉強を教えてほしいという名目で私と尾形を家に招待する。
陰キャの家に行くのは少し気が引けたが、面白い雰囲気は漂っていた。
待ち合わせの駅に尾形と到着した私は、清水を探した。
外は熱波が襲う夏の日、立ってるだけで暑さが襲ってくる中、蜃気楼に包まれながら清水は歩いて我々の方にやってきた。
…ん?清水の野郎、オーバーオールを着てるぞ。
コンタクトで2.0に補正した尾形の目が彼を捉える。
目を凝らす私にも真っ青な彼のオーバーオール姿は、若干つなぎ服にも見え、クラスで体をちっちゃくしている清水では無かった。
一歩、そして一歩、確実に彼は我々の方にやってくる。
ゴジラが海から陸へあがってくる位の、いや…今だったら鬼滅の刃で鬼舞辻無惨が産屋敷邸に入ってくる位のゆっくりな余韻が彼のオーバーオール姿をより輝かせていた。
しかし、彼の服装には何か違和感があった。
その違和感は我々から20mの地点で確信に変わる。
清水は真新しい長袖ジージャンのボタンを全て閉じ、裾をジーパンの中に突っ込む形で我々に近づいてきていたのだ。
※ここではあえてデニムでなくジーパンと言わせて頂きます。
もし当時からSDGsが巷を賑わせていたら、その衣装も個性になったであろう。
ただ20年前…。
彼の衣装には破壊力しかなかった。
生まれる時代で、人の目は変わるのだろうか…。
笑いを堪えながら、彼の家へ招待される私と尾形。
清水の母はキッチンで何やら料理をしていた。
勉強を教えるという名の相談会。
好きな人の話をする清水、胡座をかいた彼の社会の窓からは、ジージャンの裾がひょっこりはんしていた。
恐らく私も尾形も彼の恋愛話なんて頭に入っていなかった。
…何故なら、彼はジージャンの裾をしっかりジーパンに入れられていないのだから…。
そうこうしている内に、彼の母が手作りだというおやつを持ってきてくれた。
ロール状になっている食パンが狐色に揚げてあり、我々は熱々のそれを口に含んだ。
…ねちょ……くちゃねば……
サクの後に口に響く鈍音。……正体は納豆だった。
、、、しかも刻んだネギ入りで…
数時間後、我々は交互に清水家のトイレに行き来していた。
「正露丸は…ありますか…」
我々の言葉に出てきた清水家の対腹痛薬…
それは″ミトコンドリア″のサプリメントだった。
本当であれば商品を紹介する司会者の隣で「あのミトコンドリアですかー?」と騒ぎ立てるのがリアクションの理想族なのかもしれないが、そんな余裕は無かった…。
何故、そんなサプリメントを藁を掴む思いで飲んだのか。今になってもその答えは出てこない。
ただ、答えとして出せたのは、服用してからトイレの間隔が短くなった事だけだった。
…細胞活発…起こる場所が違うよ…
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