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私は怒りをもって王を与える(1)(第二説教集21章1部試訳1) #191

原題:An Homily against Disobedience and wilful Rebellion. (不服従と反乱を戒める説教)

※第1部の試訳は2回に分けてお届けします。その1回目です。
※タイトルと小見出しは訳者によります。
※原文の音声はこちら(Alastair Roberts氏の朗読です):
(12分56秒付近まで)


反乱は悪である~万物は神に従う

 万物の創造主である神は天使など天上にある者に、ご自身に仕え御稜威に誉れを向けるようにとされました。また神はみ心によって、この地上を統べる者である人間に、創造主であるご自身に従って生きるようにともされました。神は人間をお造りになってすぐに決まりごとを授けられました。楽園にある人間が無垢であるままでいて、神に服従する約束や徴であるこの決まりごとを守らなかったり破ったりさえしなければ死を免れるとされました。神は人間をご自身に従う者とされたと同じように、地にあるあらゆるものを人間に従うようになされました。人間が神に従い続ける限り、それらのものは人間に服従するものと定められました。もし人間がなおも神への服従の中にあったなら、一切の貧困も病や苦痛も、死などの悲惨もなかったことでしょう。人間はいまそういったものに絶え間なくまた大いに苦しめられています。天使を従える神の国はすべての上に不変のものとしてあります。人の国は神がお造りになられたままに地のものを従えており、したがって、天使と人間をはじめあらゆるものが住む幸福と祝福の国はそのすべてが王である神への服従に定められています。この第一の王国においては、王である神への服従のなかにあり続ける限りは、あらゆるものが神の愛と恩寵と恵みによって包まれて全き愛を享受することになります。服従はあらゆる美徳の中の美徳であり、あらゆる美徳の根源であり、あらゆる愛の源であることは明らかです。あらゆる愛や祝福は服従をし続けることによって続くものですので、もし服従が止まり反乱に陥れば、あらゆる悪徳や悲惨が蔓延ってこの世を覆うことになります。反乱を初めに引き起こした諸悪の根源にしてあらゆる過ちの母はルシファーでした。かつては神に愛でられた極めて忠実な僕でありながら、最も気高く栄光ある天使であられる神の御稜威に反旗を翻し、いまでは極めて暗く忌々しい敵である悪魔となり、天の高みから地獄の奈落の底に落ちた者です(マタ4・8~9、同25・41、ヨハ8・44、二ペト2・4、ユダ6、黙12・7~8)。

人の罪はキリストによって赦された

 ここでみなさんに、最初に反乱を犯し、それによる報いを受けた者のお話をしましょう。彼はあらゆる反乱のそもそもの父であり、創造主である神に反乱を起こすようにわたしたちの始祖であるアダムとイブを誘惑しました(創3・1、知2・24)。神の大いなるご不興を買い(創3・8~9、同3・17)、あらゆる愛と善の場である楽園からの追放という罰に値させ、あらゆる悲惨が住むこの不毛の地に至らせました(同3・23~24)。彼は二人を心の悲しみや惨めさや、苦痛や病や肉体の死に定めさせたばかりか、そのようなこの世の肉的な悲惨よりもはるかに恐ろしい永遠の死と破滅をもたらしました(ロマ5・12)。しかし神はこれをみ子イエス・キリストの服従によって回復されたのであり(同5・17)、人間は不服従と反乱によって破滅させられるべきところを神の慈悲によって赦されたのです(同5・19、ヘブ2・9)。この格別の思し召しを聖書はあまたのところで説いています。

神は人の世を治めるべく君主を置いた

 このように天も楽園も、その中で反乱が起こることをよしとしておらず、したがってそこにはどのような反乱もあるはずがないということになります。反乱はいわば他のあらゆる罪に勝って第一にして最も大きな根源であり、またこの世の肉的なものが持つあらゆる悲惨や悲嘆や、病や苦痛や死の第一にして主たる理由であるのですが、それ以上に、言うなれば永遠の死と破滅のまさに源であるのです。神への服従を破り、その御稜威に対して反乱を起こし、あらゆる過ちや悲惨がこの世に満ち溢れれば万物が混乱と完全な破滅に至ります。神は反乱を起こされてまもなく、人間にみ言葉を与えられ、服従の定めや秩序を取り戻されました(創3・17)。そして神はご自身の御稜威に向けるべき服従に加え、一族というものにかかわり、妻は夫に従い(同3・16、一ペト3・1)、子は両親に、召し使いは主人に従うべきと定められました。それだけではなく、人類が増えてこの世の果てまで広がることにかかわり、聖なるみ言葉によって街や国々それぞれに為政者や統治者を定めて置かれ、他の人々が服従するようにとされました(ヨブ34・30、同36・7)。

君主への服従は聖書で説かれている

 聖書を読めばわかるのですが、旧約聖書と新約聖書の極めて多くの至るところに書かれていることがあります。それは、王や君主は善良であるにしろそうでないにしろ神の定めによって世を治めており、人々はそれに服従するべきであるということです。神は君主に知恵と大いなる力と権威を授け(コへ8・2、同10・16~17)、人々を敵から守られ(同10・20)、敵を大いに滅ぼしてくださります。君主の怒りや不興は獅子の吠え猛りのように死の使者となるものであり、君主の権威と臣下としての義務の両方に照らせば、君主の喜びに適わない者は自身の魂に対して罪を犯しているということになります(詩18・50、同20・6、同21・2、箴8・15~16)。ここで新約聖書から際立って大切な二つの箇所を読み上げましょう。

ローマ書にみる権力への服従

一つ目は聖パウロの『ローマの信徒への手紙』の十三章であり、このように書かれています。「人は皆、上に立つ権力に従うべきです。神によらない権力はなく、今ある権力はすべて神によって建てられたものだからです。従って、権力に逆らう者は、神の定めに背くことになり、背く者は自分の身に裁きを招くことになります。実際、支配者が恐ろしいのは、人が善を行うときではなく悪を行うときです。権力を恐れずにいたいと願うなら、善を行いなさい。そうすれば、権力から褒められるでしょう。権力は、あなたに善を行わせるために、神に仕える者なのです。しかし、もし悪を行えば、恐れなければなりません。権力はいたずらに剣を帯びているわけではなく、神に仕える者として、悪を行う者に怒りをもって報いるからです。だから、怒りが恐ろしいからだけではなく、良心のためにも、これに従うべきです。あなたがたが税金を納めているのもそのためです。権力は神に仕える者であり、この務めに専心しているのです。すべての人々に対して自分の義務を果たしなさい。税金を納めるべき人には税金を納め、関税を納めるべき人には関税を納め、恐れるべき人は恐れ、敬うべき人は敬いなさい(ロマ13・1~7)。」

ペトロの手紙にみる権力への服従

二つ目は『ペトロの手紙一』の第二章であり、次のように書かれています。「すべての人間の立てた制度に、主のゆえに服従しなさい。それが、統治者としての王であろうと、あるいは、悪を行う者を罰し、善を行う者を褒めるために、王が派遣した総督であろうと、服従しなさい。善を行って、愚かな人々の無知な発言を封じることが、神の御心だからです。自由人として行動しなさい。しかし、その自由を、悪を行う口実とせず、神の僕として行動しなさい。すべての人を敬い、きょうだいを愛し、神を畏れ、王を敬いなさい。召し使いたち、心から畏れ敬って主人に従いなさい。善良で寛大な主人にだけでなく、気難しい主人にも従いなさい(一ペト2・13~18)。」聖ペトロはこのように述べています。

神は君主への服従を定めている

 聖書のこの二つの箇所で明らかであるのは、男性であれ女性であれ、その権威と権力について言えば、王や女王などの君主は臣下から服従され誉れを向けられるべく神に定められているということです。したがって君主に不服従で反抗的である臣下は神に従っておらず破滅を招くことになります。君主の治世とは神からの大いなる祝福です。これはみ心に適った信仰深い人々の国々に与えられ、神が君主を遣わされた国々の人々に慰めと安らぎを与えるものであり、したがって反対に、邪な悪しき者たちにとっての恐ろしい罰になるものです。また、召し使いは寛大な主人にだけではなく気難しい主人にも従うべきであとありますから、当然のことながら、臣下は善良で寛容な君主にだけではなく、残忍で頑迷な君主にも服従するべきです。王や女王などの君主や統治者が臣下たる者の上にあるというのは、俗に言われる運や偶然から生まれるものではありません。統治の調和にある階梯を登る死すべき人間の願望から生まれるのではなく、あらゆる王や女王などの統治者は、神の定めによって特別にその座にあります。神ご自身は無限の大きさと力と知恵を持っておられ、天と地にある万物を支配し治められます。神は普遍の君主であり万物の上にある唯一の王であり皇帝であって、万物から服従を受けることのできる唯一の存在です(詩10・16、同45・7、同47・2)。神はこの世のそれぞれの王国を統治するために肉的な君主を定め、それを設けて置かれたのですが、これは為政者がいないことによってこの世に起こりうる混乱を避けるためでした。また同時にその臣下である肉的な人々の大いなる平安と利益のためであって、かつその平安と利益は、権威と権力と知恵と摂理と正義を持って国や人々を治めることを託されたその君主自身が得るものでもあります。これは天なるものの御稜威が地にあるものの邪さによって暗くされて同じようなものになることなどなく神が天を治められていることになぞらえられます。

世の統治は天の統治に倣うべきである

 天の王国とよく統治されている地の国との類似について、救い主キリストは多くのところで、天の王国を人である王の国になぞらえられて喩え話を述べられています(マタ18・23、同22・2)。また王という名は聖書においてしばしば神を指しており、神ご自身は聖書において、ときにその王の名を肉的な君主に授け(同22・13、同25・32~34)、彼らを地の神々とされてもいます(詩82・6)。もちろん彼らが行っている、あるいは行いうる統治は、彼らの王である神のものとは違うものです。ただし天の統治とのなぞらえについて言えば、この世の君主が自身の統治を天の統治に似せて行えば行うほど、自分が治める国と民に対して神のご慈悲からますます大きい祝福を得ます。反対に君主が天の統治のかたちから遠く離れていけばいくほど、ますます彼は大きな災厄を神の怒りによって受け、神がその罪のためにそのような君主や為政者を置かれた国と民には、神の正義による罰がもたらされます。聖書によって、またわたしたちの経験によっても極めて明らかなことがあります。あらゆる美徳や信仰深さと、その結果としての国と民の富や繁栄がもたらされるのは、たくさんいる臣下がどうであるかよりも、賢明で善良な君主がひとりいることにかかっています。

暗愚で邪な君主は国を亡ぼす

反対に、やはりたくさんいる臣下がどうであろうと、暗愚で邪な為政者がひとりいることによって、あらゆる美徳や善性が打ち捨てられ、結果的に国と民が完全に廃れさせられてしまうことになります(コへ10・5~7)。聖書ではかの説教者が「王が高貴な生まれで、高官たちがふさわしい時に飲むためにではなく、力を得るために食事をする国よ、あなたは幸いだ(同10・17)」と言っています。また「見よ、正義によって一人の王が統治し、公正によって高官たちが治める。彼らはそれぞれ、風の時の逃げ場、嵐の時の隠れ場のように、また、乾いた地にある水路のように、荒れ果てた地にある大きな岩陰のようになる(イザ32・1~2、詩16・1、同29・1)」とも言っています。
 暗愚で邪な為政者について、聖書には「王が若者で、高官たちが朝から食事をする国よ、あなたに災いあれ。王が高貴な生まれで、高官たちがふさわしい時に飲むためにではなく、力を得るために食事をする国よ、あなたは幸いだ(コへ10・16)」とあります。さらに、「悪しき者が支配すると民は嘆く(箴29・2)」とも、「英知の欠けた指導者は虐げを加え、搾取を憎む人は長寿を得る(同28・16)」ともあります。聖書はこのように、善悪両方の為政者について証ししています。

しかし臣民は君主に忠実であるべし

 臣下は何をするべきなのでしょうか。勇敢で剛健で賢明な善き君主には従うべきであっても、君主がまだ幼かったり暗愚で邪であったりすれば、非難して服従せず、反抗してもよいというのでしょうか。ああ、神がそのようなことを禁じられますように。君主が善にして信仰深くその治世が健やかであるのに、あたかも足が頭を裁くかのように、臣下が悪辣な企てをもって反乱を起こし、それによって裁きが行われるとしたら、なんと恐ろしいことでしょう。傲慢な魂のほかに大きく反乱に傾くのは誰であるというのでしょうか。国土の荒廃は誰が引き起こすものであるのでしょうか。反乱はあらゆる過ちの中で最も大きなものではないでしょうか。極めて悪である者のほかに、誰がその極めて大きな過ちを犯すのでしょうか。臣下の中で最も悪である者が反逆者であり、そのような者があらゆる悪徳の中の最たる悪であり、善良な臣下の義務からは遠く離れた反乱を引き起こします。最も善である臣下とは固く服従を守り、善良な臣下としての格別の美徳の中にあります。悪辣な臣下が反乱などのあらゆる悪に傾き、君主や重臣の治世についてどこが善で許容されるものであり、どこが悪で許容されないものかを裁くなど、どれほど正しくない事柄であることでしょうか。悪辣な臣下は反乱によって君主をその座から追おうと考え始めるや否や、善良な君主に反乱を起こします。特に君主が若かったり女性であったり心優しく穏やかであったりしたら、本来ならば臣下の犯す過ちを赦すこともできる君主の心を畏れるべきであるのに、邪悪な大胆さによって良心の呵責もなくそのような君主の弱みとなるところを攻めるのです。



今回は第二説教集第21章第1部「私は怒りをもって王を与える」の試訳1でした。次回は試訳2をお届けします。最後までお読みいただきありがとうございました。

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