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#8 「継続は力なり」 比べる相手は過去の自分

去年の12月にJLPT(日本語能力試験)が行われたのですが、以前、#3で書いたディスレクシアの学生も、N4(初級文法を一通り勉強した人が受けるレベル)を受けました。

彼女は試験前の約1ヶ月、週に2時間のプライベートレッスンを取り、苦手な文法と語彙問題に絞って、時間内で解いていく練習をひたすら繰り返しました。

その時、彼女はまだ初級後半のグループレッスンを受けている途中で、N4レベルの文法は網羅できていませんでした。

その上、初級前半の文法も曖昧なところが多かったので、私が用意した模擬問題の正解率は毎回10〜30%くらい。しかも、正解した問題はほぼまぐれ当たり。

正直なところ、私は彼女が一回で合格するのは難しいだろうなあと思いました。

ただ、これは日本に住んでいるからこそのアドバンテージなのですが、彼女の場合、たとえ意味が分からない文法でも、なんか聞いたことあるかも!彼氏がこうやって言ってたかも!と、耳で覚えていることも結構あります。

JLPTはマークシート方式の試験なので、耳で聞いて覚えていることが、かなり有利になることもあるんです。

それなのに、彼女は、はじめは正解を選んでいたのに、後から自信がなくなって間違った答えに変えてしまうことがよくありました。

なので、毎回私は、「迷ったときは自分の直感を信じたほうがいい」と、しつこくアドバイスしていました。

しかし、1ヶ月はあっという間に過ぎ、彼女が合格できるという確信を持てないまま、12月の本番を迎えてしまいました。

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試験の翌週、私は(内心恐る恐るでしたが)「JLPT、どうだった?」と彼女に聞いてみました。すると、意外にも彼女は笑顔で「ちょっと自信がある」と言うのです。

どうやら、レッスンでやった模擬問題と似た問題がたくさん出たようでした。そして、問題を解いている間に何度も、「それじゃない!最初に選んだのが合ってる!」と言う私の声が頭の中で聞こえたと、ニコニコしながら話してくれました。

おお、特訓した甲斐があったかも?!

と思ったものの、逆にこんなに自信満々だと、もしも不合格だった時のショックが激しいかもしれない…と、私は余計に不安になってしまいました。

そして時が過ぎて、2月の後半。いよいよJLPTの結果発表の日が来ました。

結果が出た週は、JLPTの結果報告でスタッフも講師の私たちも一喜一憂。学校のラウンジでは、学生たちが結果を報告し合ったりして盛り上がります。

そして、その週の金曜日の朝のグループクラスで、私は彼女に会いました。クラスが終わって、他の学生が教室から出た後、彼女が私に、

「先生、N4、パスしました!」

と報告したのです。

「ええ!本当に?!」

私は思わず、「やったー!」と叫んで、彼女をハグしてしまいました。(ソーシャルディスタンス……)

ちなみに、その時の私の叫び声は、3つくらい隣のクラスまで聞こえてしまうくらい大きかったそうで、何か緊急事態でもあったのかと思って、学生がザワザワしていたと、後で他の先生に笑われました。

でも、本当にびっくりしたし、すごく嬉しかったんです。学生の成功がこんなに嬉しいことなのかと、自分でも驚きました。

継続は力なり

語学教育の現場にいると、本当にこの言葉の通りだなと思えることがよくあります。

何があっても、とにかく続けることが一番大切で、続けてきたことは、必ずその人の力になっていくのを目の当たりにします。

他のクラスメートと比べたらあまりできない学生でも、やめずに半年、1年…とがんばって続けている人は、ペースはゆっくりでも、確実に上達しています。

「他の人と比べないで、過去の自分と比べることが大切、と思いました」

合格を報告してくれた日、負けず嫌いで、他のクラスメートの日本語レベルを気にしてばかりだった彼女が、私にこう言っていました。本当に、その通りだなと思います。

人と比べてくよくよしている間に、黙々と努力したほうが勝ちですよね。

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さて、N4に一回でパスした彼女は、かなり自信がついたようで、今は初級文法をおさらいしながら、たくさん話すレッスンで頑張っています。

そして、早速、次のN3合格を目指してプライベートレッスンをしたいとリクエストが入りました。

N3か……。

高い壁ではあるけれど、コツコツ続けていけば、きっとなんとかなるはず……!

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