【簡単あらすじ】沈黙のパレード(微ネタバレ)【東野圭吾/文春文庫】
都内にある商店街の食堂「なみきや」の看板娘が失踪してから丸3年、その死体が遠く離れた静岡県で発見されたところから物語がスタートします。
事件の容疑者として浮上した人物は、ある少女が行方不明になった23年前の事件とも関わりがあって…
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物語のあらすじだけでも魅力的な内容と分かりますが、今作の見どころは、主要登場人物の変化にあると思います。
今作は前作の「禁断の魔術」から四年程度の月日が経っています。四年の月日は長いもので、主要登場人物たちにも、外面・内面の変化があります。
◇外面の変化
①草薙は、捜査一課の係長に昇格
②湯川は、教授へ昇格
③内海は、「そんなに若くはない美人刑事」に。
このことから各自、出世をしたり経験を積んでいることが分かるのですが、内面的には、外面的な変化よりはるかに大きな変化が見られます。
◇内面の変化
①湯川の変化
これは、初期ガリレオシリーズを読んでいる方には衝撃的と言えるくらいの変化だと思います。
興味を惹かれない・必要が無いことであれば、例え親友からの本気の頼み事でも断ることが普通であった人物が、今作では、草薙から正式に本格的に捜査を依頼されていないにも関わらず、自ら「なみきや」の常連客となり、その家族や他の常連客とも話をし、仲良くなり、事件との関連性を聞きこんだり、トリックの考察や実験にも立ち会っています。
この変化は、
という本人の言葉で、ある程度推察出来ます。
恐らくですが、資金集めのために(嫌々ながらも)社交性を身に付けたのでしょう。
②内海の変化
対象者の性質や関係性によって雰囲気を変化させるなど、刑事としての腕が上達し、会議室で草薙と缶ビールを飲みながら捜査の話をしたり、湯川からの軽口も受け流すことが出来る、といった、刑事として・人間としての経験を積んだことが明らかに分かります。
シリーズ初期の「頭が良く優秀だが、まだ刑事になりきれていない」という雰囲気は消し飛んでいます。
正直なところ、犯人側のトリックの内容は、解明した際に、「容疑者Xの献身」や「聖女の救済」ほどの衝撃はありませんでした。
しかし、最終盤での怒涛の展開など、作品としてはガリレオシリーズの中でも傑作と言えると思います。
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私は、「鬼平犯科帳」もかなり好きで、若い頃に履歴書等の「尊敬する人物・なりたい人物」に、長谷川平蔵と書いた人間です。
鬼平犯科帳のレビューはこちら
長谷川平蔵(鬼平)は、若い頃は「とにかく犯罪を憎み自ら動いて悪を倒す」という感じだったのが、年を取るにしたがい「様々な人間に理解を示すようになり、犯罪を憎んで人を憎まず、といった態度を取るようになり、元犯罪者を自分の協力者にしたり、(決して出来の良い者だけでない)部下を成長させることも、犯罪取り締まりと同じくらい大事」という考えに変化しています。
この変化が、鬼平犯科帳の人気が未だに衰えない理由だと思います。2024年に、映画・ドラマの新作が公開される予定ですので、こちらもご期待ください!
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そして、今作の湯川は、この長谷川平蔵の変化に似ていると感じました。もちろん、今までの「ちょっと浮世離れしている・尖っている」物理学者の湯川が好きな方には戸惑いもあるでしょう。
しかし、上記のように湯川や内海が変化したことによって(もちろん、本人たちがこの変化を望んでいたかは別にして)、物語としての円熟味が増したと言えます。
今作の最後に、ある登場人物から、湯川はまるで「エルキュール・ポアロのような探偵だ」と言われています。
ここからどのように展開していくか分かりませんが、今作が、ガリレオシリーズ「第二部・探偵ガリレオ」のスタートのような気がします。
※最新作「透明な螺旋」を全く読んでいませんので、予想が外れたらと思うと冷や汗が出ます… その際は笑ってご容赦ください。
◇今までのガリレオシリーズが苦手だった方
◇「探偵」ガリレオを読みたい方
◇鬼平犯科帳が好きな方
に是非読んで頂きたい作品です。
また、今作にハマった方でしたら、今までの湯川がどんな人間だったかを知ることは「実に面白い」と思いますので、シリーズを一気読みするのも良いのではないでしょうか。
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