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半戯曲セミドキュメンタリー小説 「黒Gの悲劇」

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衛星歴21年(西暦2016年)2月29日発行の蓮行・平田オリザ共著「演劇コミュニケーション学」にまつわる悲劇を連載。
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記事一覧

黒Gの悲劇 エピロゴス

日本文教出版より2016年に発売された「演劇コミュニケーション学」(リンクは楽天ブックス・アマゾンはこちら・日本文教出版通販サイトはこちら)の出版にまつわる「黒Gの悲劇」が、ようやく完結した。どれだけの方の目に触れたかは甚だ疑問だが、たとえ数人にでも、黒Gの活躍が伝われば本望である。

なお、「ぶつ切りじゃなくて通した資料としてほしい」という人が居ないとも限らないので、通して使えるテキストをこちら

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黒Gの悲劇#11 シーン4:体育館ではっけん!

 シーン3は、回想のシーンなどもあって、観る側も大変なはずなのだが、1年生たちは集中力をより高めて、笑ったりツッコミを入れたり、舞台上の子ども達の動きに合わせて体を揺すったりしながら、実に楽しそうに鑑賞している。

 いよいよ、次のパクパクルームでの騒動で、ラストシーンである。

シーン4:パクパクルームではっけん!

(パクパクルーム。チョイチョイ星人Cチーム、小学生たち、先生たちもいる)

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黒Gの悲劇#10 上級生の威厳を示す!!

◇1年生たちを目の前にして

 すでに、衣装に着替えている黒GとN田を目の前にした1年生の子ども達は、かなりよそ行きの様相である。演劇というのは、観る側にも一定の緊張を強いるのが特徴であり、ましてや1年生からしてみれば、生まれてこの方こんな至近距離でこんな危険そうな大人を見たことが無い子が大半だろう。

 あいさつもそこそこに、まずはワークショップ初日と同じように、黒GとN田が廊下に控える。音楽

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黒Gの悲劇#9 あとちょっとで、本番!

黒G「おお〜、なかなか良いですね〜。みなさん拍手!」

 活き活きと自信を持って子ども達が演じているリハーサルを見ながら黒Gは、コミュニケーションティーチャーが来ない間にも、みんながI先生と共に何度か練習したのだと確信した。

 もちろん、そういう形で「演劇WSの発表のために、時間を割く」ことについては、賛否が分かれるところであろう。学校での時間の使い方が、シビアかつタイトになっていることは、重

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黒Gの悲劇#8 躍動のリハーサル!

◆3コマ目

◇いよいよ本番当日!

 もちろん教室は、言い知れぬ高揚感と緊張感に包まれている。小学校も高学年になると、「ふーん、いつもと変わらないさ」的なうそぶく空気も無くは無いのだが、2年生はその点は素直だ。もちろん個人差があるので、「うー、どうしよう…!」と緊張している子も、全く普段と変わらない子が、入り混じってはいる。しかし、やはり普段と違う空気が教室を包んでいる。本日は、本番なのだ…!

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黒Gの悲劇#7 子どもたちへのお願い事

◇再現ドキュメンタリー

 いよいよ、台本を元にした練習に入る。しかし、さあ覚えましょう、という流れにはならない。軽く読み合わせをするが、実は台本の中に、まだきちんとできていない部分があるのである。台本には、「(体育かんの、せつめいをしてください)」と、セリフではなく、子どもたちへのお願い事が書いてある。

黒G「黒ちゃんさぁ、こないだみんなにT小学校のことをいろいろ聞いて一生懸命台本書いたんやけ

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黒Gの悲劇#6 俳優として、伸びに伸びていくお子たち…!

◆2コマ目

◇おさらいトレーニングと発展トレーニング

黒G「みなさん!1週間ぶりのこんにちは!」

 再び黒GとN田が、T小学校2年1組の子ども達の前に帰ってきた。前回の内容をもとに、黒Gが作成した台本を子ども達に事前配布してある。しかし、それを覚えておくように、という注文はしていない。台本はあくまで中間生産物であり、それ自体がこれからまだまだ変わっていくからである。

黒G「今日も、ビシビシ

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黒Gの悲劇#5 演劇では、宇宙人という存在はヒジョーにありがたい

◇台本の材料作りのための、即興劇

 チャイムが鳴ると、子ども達はあらかじめ担任の先生と相談して決めた3つのグループに分かれて、体操座りの体制になった。

黒G「はい、皆さんちゃんと集合できて、素晴らしい!俳優は、時間を守れないといけませんからね。さて、ここまでは『ウソの練習』を一生懸命してきましたが、『ホントの練習』もしないといけません。このT小学校の中にある、本当の場所や部屋が、劇の場面になる

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黒Gの悲劇#4 嘘つきは俳優の始まり

黒G「今、エナジーのボールなんて、ほんまは無いのに、みんながあるみたいにして、動かしましたね。そう、演劇というのは、そういう『ウソ』を本当のように見せるのが大事なのです!次は、『ウソつき自己紹介』というトレーニングをします!」

 子どもたちは、また変なことが始まったぞ…、という顔で聞いている。

黒G「みなさん、自分の呼ばれたいニックネームと、嫌いな食べ物を順番に教えてください。例えば、『黒ちゃ

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黒Gの悲劇#3 俳優としてナメられないためのトレーニング

黒G「さあ、こんなちょっとマヌケなチョイチョイ星人が、みんなの小学校にやって来て、チョイボールを探すという劇を、みんなで作ります。来週の発表会には、なんと1年生の子たちが観に来ます!」

 子どもたちは、担任の先生から事前に聞いていたのだろう、驚いた様子はないものの、少し「え〜っ!?」という声を漏らす子、笑を噛み殺したような何とも言えない表情をしている子、それぞれの反応である。しかし、「今回の発表

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黒Gの悲劇#2 上演のデモンストレーション

◆1コマ目

◇デモンストレーション劇

黒G「はい皆さん!おはようございまーす!!」

子どもたち「おはようございまーす!!!!」

 黒Gが、目をキラッキラさせて、大きな声で挨拶すると、子どもたちはもっとキラッキラさせて、さらに大きな声で挨拶を返す。断定するが、黒Gのキラッキラの目は完全に演技であり、本当は眠いのである。だが、子どもたちのキラッキラの目は、もちろん本物である。今回、黒Gが担当す

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黒Gの悲劇#1 プロローグ

 演劇人の朝は遅い。

 劇団E星は、定時出社(出団、とはそういえば言わない)が10時だから、それでもすでに他の一般的な業種よりは遅いのだろうが、R行は朝10時に劇団員が出勤しているか知らないし、タイムカードも無いので確認のしようがない。

 2月の下旬のこの日は、京都市立T小学校の正門前に朝9時集合、とのことだったので、普段の時間感覚よりは早めである。R行にしてみれば、下の子をいつも通りの時間(

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黒Gの悲劇 プロロゴス

劇団E星所属俳優、黒G陽子(仮名)に起こった悲劇は、衛星歴15年(西暦2009年)9月にさかのぼる。この頃PHP研究所から発売された「コミュニケーション力を引き出す 〜演劇ワークショップのすすめ〜」では、半戯曲セミドキュメンタリー小説という手法が採用され、劇団E星の代表のR行を始めとするFJやK本(いずれも仮名)が、活き活きと活躍する様が描かれていた。黒Gが、「うちの代表が本を出さはったで!」って

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