黒Gの悲劇#3 俳優としてナメられないためのトレーニング

黒G「さあ、こんなちょっとマヌケなチョイチョイ星人が、みんなの小学校にやって来て、チョイボールを探すという劇を、みんなで作ります。来週の発表会には、なんと1年生の子たちが観に来ます!」

 子どもたちは、担任の先生から事前に聞いていたのだろう、驚いた様子はないものの、少し「え〜っ!?」という声を漏らす子、笑を噛み殺したような何とも言えない表情をしている子、それぞれの反応である。しかし、「今回の発表は一味違う」という言い知れぬ緊張感は、多かれ少なかれ皆が感じているようだ。

 子ども達は「年下に見せる」という時に、一種独特なモチベーションを発揮する、とR行は常々感じている。

黒G「1年生のちっちゃい子たちにねぇ、なーんや、2年生でも大したことないな、なんて思われたら恥ずかしいからね!みなさんを、ビシビシ俳優として、トレーニングしますよ!では皆さん立って、美しい円を作ってください!」

◇俳優になるためのコミュニケーションゲーム 

黒G「ダメ!ちっとも美しくない!美しくない円は、嫌いなの!」

 低学年の子どもたちは、綺麗な円を作るのが苦手で、すぐに乱れてしまう。そのたびに黒Gがヒステリックにお嬢様言葉で叫ぶと、子どもたちはケラケラ笑いながら、乱れた円を直す。

黒G「あなたたち、まだまだだけど、何とか合格よ。今から、舞台俳優になるための地獄のトレーニングその1、『エナジー回し』をするわよ。ふーん、むむっ!ぼわん」

 黒Gが気合をいれると、彼女の両手にソフトボール大のエネルギーのボールが浮かび上がった!ような動きと顔である。子どもたちは、笑ったりポカンとしたり、それぞれの表情だが、様子をじっと見ている。

黒G「今、私の手の中に、エナジーのボールがあります。これを、相手に渡して回して行きます。ロン毛、ちょっとこっちにいらっしゃい。渡し方は、こうです。ハッ!」

N田「ハッ!」

 ソフトボール大のエナジーのボールを、掛け声と共に黒Gが押し出すと、隣に立ったN田が、掛け声と共に受け取る。

N田「ハッ!」

黒G「ハッ!」

 もちろん、エナジーのボールなど見えないのだが、あたかもそこに光のボールが存在するかのように、数回のやり取りをする。

黒G「出すのも難しいけど、ちゃんと受け取るのが大切です。相手が出したのと同じくらいの大きさの声で、受け取ってください。では、黒ちゃんから時計回りで回しますよ。ハッ!」

子ども「ハッ!…。…。ハッ!」

 受け取ってから少し間が空いたが、うまく受け取り、隣の子に回すことができた。受け取る時に「ハッ!」と言い忘れてしまう子が数人、そのたびに黒Gから「ちゃんと受けとって!」と声がかかる。そして、他の子の様子やエナジーボールの周り具合が気になるので、円はどんどん乱れてしまう。その度に、

黒G「んもう!乱れた円は嫌いって言ってるでしょ!」

 と、貴婦人風の直しが入る。そうこうしているうちに、エナジーボールは何とか1周した。

黒G「じゃあ、次は、もっとスピーディに。ハッ!」

子ども「ハッ!(さらに隣の子へ)ハッ!」

 要領をつかんできているので、ずいぶんとスムーズになった。時折、早く回したいがために、受け取りがおろそかになるが、あまり細かいことは気にせず、どんどん進めていく。さっきよりかなり早く1周してエナジーボールが戻ってくると、今度は黒Gがいきなり、逆方向の子にエナジーボールを出した。

黒G「ハッ!」

反対の隣の子ども「…!ハッ!…。ハッ!」

黒G「うわ!戻ってきた!そうやね。今度は右と左、どっちの子にエナジーを渡してもいいです。ちゃっと受け取るのを忘れない!ハッ!」

 左右どちらに出してもいいルールにすると、一部でひたすら行ったり来たりして、なかなか回って来ない子が出てくる。「回ってきーひん!」と関西弁でヤジが飛び始めたころ、すかさず次の指示が飛ぶ。

黒G「ほな、もう隣の人以外に飛ばしてもええよ!誰に飛ばしてるか、よくわかるように!」

子ども「(キョロキョロしてから、数名間が空いている子どもに)ハッ!」

 隣の子以外に出してよいルールにすると、難易度がとたんに上がる。きちんと相手に対して「あなたに送りますよ!」という表現ができていないと、2〜3人の子が「え?わたし?」ということになってしまい、スムーズに受け取れなくなるからである。一方、この「自由に出して良い」ルールになると、がぜん盛り上がる。

黒G「ハッ!(と、エナジーボールを受け取ると)しゅ〜ん…(と、エナジーボールを霧散させてしまう)。いやぁ、素晴らしい!みなさんなかなかやるわね!しっかりと、エナジーを出して、受け取って、ということができました。拍手!」

 お互いを讃えあう拍手が響き、しかし休まずにトレーニングは続いていく。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?