黒Gの悲劇#7 子どもたちへのお願い事

◇再現ドキュメンタリー

 いよいよ、台本を元にした練習に入る。しかし、さあ覚えましょう、という流れにはならない。軽く読み合わせをするが、実は台本の中に、まだきちんとできていない部分があるのである。台本には、「(体育かんの、せつめいをしてください)」と、セリフではなく、子どもたちへのお願い事が書いてある。

黒G「黒ちゃんさぁ、こないだみんなにT小学校のことをいろいろ聞いて一生懸命台本書いたんやけど、やっぱりみんなの方が学校のことよく知ってるから、みんなと一緒に考えた方が、面白くなると思うねんな。そういう訳で、協力してください!」

 創作における、大きな権限と責任を、子どもに委ねる。コミュニケーションティーチャーは、よそからやってきた「変な大人」なので、前のコマのように突然お嬢様言葉で怒り出しても、今回のように子どもたちに大きく作業を投げても、子どもたちは「何でそんなことしなきゃいけないの?」というような違和感を感じずに、ある程度の納得感をともなって、スムーズに作業に入ることができる。

黒G「そしたら、チョイボールが発見されたら面白いと思うところをいくつか挙げて、チョイチョイ星人に教えてあげる形で、ここでやってみよう!」

 子ども達には、すでに役が振られているので、チョイチョイ星人役の子が2人、小学生役の子が2人、前に出た。

チョイ1「ここは、どこ?(と言うと、見ていた子どもから「チョイチョイ星人はチョイが口癖やで〜」、と指摘を受ける)あ、どこチョイ?」

 わははは、と笑いが起こる。まさに、子どもが「チョイチョイ星人」に返信した瞬間である。

チョイ2「なんか広くて、怖いチョイ…」

子ども1「ぜんぜん怖くないよ。ここは体育館だよ」

子ども2「跳び箱したり、体操したりするところやで」

 標準語と関西弁が入り混じるが、それはそれでリアリティがある。

チョイ1「跳び箱って、何だ?…。チョイ?」

子ども1「えーっと、何か、こうやって、跳ぶやつ…」

 と、身振りで説明する。

チョイ2「跳び箱、どこにあるチョイ?」

子ども2「入り口の、横のところに…、あれ、どっち側やっけ?」

 見ている子ども達も一緒に、そういえば、体育館の入り口はどちら側にどう開いていて、その脇に置いてあるはずの跳び箱が、どういう配置であったか、などということをワイワイ相談している。

 この「再現ドキュメンタリー」とも呼ぶべきプロセスは、子ども達が日常で何気なく使っている場所を意識化し、体を通して表現できるようにするためのものである。大がかりな舞台装置を使わない場合の演劇表現は、この「意識の強度」が重要で、演じる本人が強くイメージできていないものは、全く観客に伝わらない。熟練の舞台俳優は、この「強くイメージ」したものを、最終的には無意識に見えるほど「自然な演技」に消化していくわけだが、プロの子役というわけでもない小学生の演技は、「強くイメージ」して「観客に伝わる」ことを重視すれば良いのである。

 黒Gに促され、さらに2人くらいの子どもが、演者として登場した。この子達は、先生の役をやるらしい。

先生1「こらー!誰だや?」

先生2「勝手に入ったらあかんやろ!」

子ども1「うわー!先生や!」

チョイ1「怒られるチョイ!

子ども2「跳び箱の中に隠れよう!」

(子どもたち、跳び箱の1段の部分を、よいしょとどかすと)

チョイ2「あ!チョイボールや!」

 見ていた子どもたちからも「おお〜!」と歓声が上がる。

黒G「その跳び箱の中からチョイボール見つかるってアイデア、いいやーん!面白いなあ。それ採用。じゃあ、他の場所でも、どんなところにチョイボールが見つかったら面白いか、いろいろやってみよう」

 この後、T小学校の名物遊具である「ドリームワールド」と、会食用の部屋である「パクパクルーム」を舞台に、再現ドキュメンタリーを各グループで行い、N田がその成果をメモしていった。一応、刷りなおした台本を、子どもたちに再配布はするが、「とりあえず暗記させる」ということはしない。作るプロセスに関わった台本は、相当覚えがいいし、子どもたちは自発的に「覚えたくなる」のである。

 2コマ目の90分も、あっと言う間に終わった。

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