黒Gの悲劇#5 演劇では、宇宙人という存在はヒジョーにありがたい

◇台本の材料作りのための、即興劇

 チャイムが鳴ると、子ども達はあらかじめ担任の先生と相談して決めた3つのグループに分かれて、体操座りの体制になった。

黒G「はい、皆さんちゃんと集合できて、素晴らしい!俳優は、時間を守れないといけませんからね。さて、ここまでは『ウソの練習』を一生懸命してきましたが、『ホントの練習』もしないといけません。このT小学校の中にある、本当の場所や部屋が、劇の場面になるわけです。だから、本当の場所がどんな感じか、ちゃんとお客さんに伝わるように、演じないといけないんです。」

 演劇は、ウソとホントから出来る…。なかなか哲学的な命題だが、小2の子ども達も、わかったようなわからないような顔で聞き入っている。

黒G「チョイチョイ星人は、宇宙人だから、T小学校のこと何もわからへんよね?ほんで、黒ちゃん達も、T小学校のことほとんどわからへんから、今から黒ちゃん達がチョイチョイ星人役をやるので、皆さんでT小学校のこと、教えてください。そうやなぁ…、飛んで行ってしまったチョイボールが、学校のどこに紛れ込んでたら、面白いかなぁ?それぞれの班で、考えてみて」

 それぞれの班が、きゃっきゃと相談する。早くにまとまった班が当てられて、黒G扮するチョイチョイ星人との、即興のやり取りが始まった。

黒G「ちょっとすいません、ここ、どこですかチョイ?」

子ども1「え…?ここは、T小学校です」

黒G「T小学校…?それは、星ですかチョイ?ここはT小学校星?」

子ども2「ちがうちがう!学校!」

黒G「学校…?それは食べ物チョイか?」

子ども3「あはははは!」

 ついに、出演していた子が笑い出してしまったが…。わからない人に、説明する。これは演劇における、いわゆる「説明ゼリフ」の基本原理である。人は、知っていることは説明しないし、質問もしないからである。だから、例えば

登場人物A「ここは、俺が通っているT小学校だぁ!」

 などと独り言を言うのは、実にリアリティが無い。説明のための説明ゼリフである。とは言え、それを言ってもらわないと、今度は観客が、場面はどこなのか理解できない。そこへ行くと、宇宙人は何も知らないので、何でも質問してくれる。それに答えて行けば、観客はどこで何が行われているかがすぐに理解できるし、演劇としても面白い。

 小学校というものすら、チョイチョイ星人は知らないのか…、と子ども達は驚いたり戸惑ったりした様子である。次のグループは、もう少し具体的な場所に触れ始めた。

子ども4「ここは、体育館だよ」

黒G「ふーん、わかった!泳ぐところチョイね!」

子ども5「違う違う!それはプールやろ!」

子ども6「跳び箱したり、ダンスしたり、あと入学式したりするねん」

黒G「へえ〜、ずいぶん広いチョイね。こんなところにチョイボールが紛れ込んでたら、探すの大変チョイ…」

子ども7「だったら、舞台の下の、イスをしまってるところが怪しいんちゃう?」

黒G「イスをしまってるところ?」

子ども8「こうやって、ガーッって引っ張りだすねん!」

(そう言いながら、3人ぐらいの子どもが、大きな引き出し状のも

 のを引っ張り出す動きをする)

黒G「うわー!大きな引き出しチョイね〜!」

 この後、体育館の扉の位置や、舞台奥にピアノが置かれていることなど、子ども達が何もない教室空間を体いっぱいに使って、説明していった。それらは黒GやN田の知らない情報なので、リアクションも新鮮である。3つめのグループは、T小学校の固有の施設について説明してくれた。

子ども8「パクパクルームのカギ、開けてもらったでー」

黒G「パクパクルーム?」

子ども9「給食をな、いつもは教室で食べるけど、たまにこの部屋で食べるねん」

黒G「へえ〜。教室とは、どこが違うチョイか?」

子ども10「広いし、机がおっきいやろ!」

黒G「なるほどチョーイ。これでみんなで食べたら、楽しそうチョイね〜!」

 会食用の部屋を設置している学校も多いが、それぞれランチルーム、パクパクルーム、モグモグルームなど独自の名前を付けているし、仕様も様々である。それ以外にも、特徴のある遊具やビオトープなど、その学校特有のものを扱うのは、どちらかと言うと、そとからやってきたコミュニケーションティーチャーにとって、刺激的である。発表会を保護者や近隣住民にもオープンにする場合は、学校の独自性を出すトピックにもなり得る。

 3グループが、教室の空間に、学校の中のいろいろな場所を「立体化」するワークを行った。自分たちが表現するだけでなく、クラスメートの表現を見る、受け止めるという重要なプロセスである。黒GとN田は、ワイワイと一緒にワークをしながら、子ども達の取り組みの様子や、キャラクターを観察している。

黒G「はいっ…!皆さんが、いろいろ学校の中のことを教えてくれたので、今日初めてきた黒ちゃん達にも、T小学校のことがずいぶんわかって来ました。そして皆さん、なかなか俳優としての才能がありそうですね。安心しました。今から、皆さんがどんな役がやりたいか聞いて、今日のトレーニングを終わりたいと思います。ではまず(黒板に書きながら)チョイチョイ星人やってみたい、という子?!」

 数名が、手を挙げる。順次、学校の子ども役、先生役、近所の人役などの希望を聞いていく。たまに「博士の役がいい」とか「犬の役がやりたい」など、どういうストーリーになるかに関わらず、希望を出してくる子どもも居るが、差別的なものであったりしない限りは、基本的には希望を聞く。

 2校時90分を使った1コマ目、盛りだくさんだったはずだが、元気よくあっという間に終わった。

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