ここでは大体マイノリティだが、こんなことではその状況になったことがなかった。

ストックテイク(棚卸)の作業をするために、
シザーリフトの免許の講習と受験に行った。
(倉庫の棚の高いところまでウィーンって伸びて上るやつ)

英語で何かの資格を取るのは初めてだからかなり緊張した。
運転免許は日本の免許を書き換えただけだから、オーストラリアで試験を受けたわけではない。

運転や操作自体はそんなに心配してはいなかったのだけれど、 ペーパーテストが英文だから、専門用語ばかりだとチンプンカンプンの恐れがある。

一緒に受ける同僚も「難しいぞ」「俺はこのためにひと月勉強してきたからな」なんて言っている。

おいおい、待て待て。
ストックテイクの話は予定が入っていたから知ってはいたが、そんな試験を俺が受けなきゃいけないなんて聞いたのは前日だ。試験対策だって試験範囲だって教えてもらっていない。

「免許がないと仕事にならないからな」
イギリス人の部長が低い声で言う。

知らんやん、知らんやん、知らんやん。
ベストは尽くすよ。でも辞書が使えないんだから知らない単語は知らんよ。

ランチの後にタクシーに分乗して倉庫に向かう。
何を勉強していいのか分からないから車内でもやることなし。

倉庫に着いて試験の説明を受ける。
何だかみんなリラックスしているような雰囲気があって、俺だけが不安な面持ちを崩せない。

「おい、お前マイノリティだぞ。」
隣から声がした。

えっ?何?
マイノリティって、そりゃ日本人は俺だけだ。えっ、違う?

「見てみろ、お前だけ右利きだ。」

え~~~~っ。
本当だ。俺だけ右利き。そんなことある?

確かに、説明を受けている男たちがみんな左手にペンを持っているではないか。なんと、説明をしている試験監督官まで左手にペンを持ってホワイトボードに向かっている。

俺が驚いてあまりに分かりやすくキョロキョロしたので試験監督官の説明が止まる。

「何?」
「いや、みんな左利きで、俺だけ右利きみたいで。」
「おお」
監督官が見まわす。みんなも見まわす。
怒っている感じはない。

そんな雰囲気につけ込んで、こんな席ではあるけれどもお願いして写真を撮ってもらった。さすがはオーストラリア。

その後、場の雰囲気に和やかさが増し、そのおかげで俺も無事試験に合格することができた。いや種明かしをすれば、実はヒントがどんどん出てきて間違えるほうが難しいくらいだったのだ。このことを俺以外のみんなは既に知っていて、「難しいぞ」なんて言って俺をからかっていたのである。

しかし安全第一はくどいほど言われた。遊びではないので当然だ。時には命に係わる問題にもなる。

「シザーリフトの免許、俺持ってるよ。」
このセリフを言う場面がいつ来てもいいように、不敵な笑いの練習をしておこうと思う。



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