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「天下統一 信長と秀吉が成し遂げた『革命』」 △読書感想:歴史△(0018)

中世・戦国時代から、天下統一そして近世の創出に至るこれまでの一般的イメージを問い直すとともに、社会面・政治面・経済面を含めて総合的に新たに「天下統一」を再検証する一冊です。

天下統一 信長と秀吉が成し遂げた『革命』」
著 者: 藤田達生
出版社: 中央公論新社(中公新書)
出版年: 2014年

 

<趣意>
歴史に関する書籍の読書感想です。 対象は日本の歴史が中心になりますが世界史も範囲内です。 新刊・旧刊も含めて広く取上げております。

 

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模者不詳、原本:近衛前久賛『織田信長像(模本)』(東京国立博物館所蔵)
「ColBase」収録
(https://jpsearch.go.jp/item/cobas-46573)


※一部、本書本旨に触れている部分があるかもしれません。ご容赦ください

<構成>
全体は2部構成となっており、それを序章と終章で挟んでいます。 
序章ではこれまでの天下統一の一般的イメージをより精確に理解するための「天下統一」論の再解釈が述べられています。

前半部は3つの章に分けられています。
第1章では、織田信長による足利義昭を推戴しての上洛と室町幕府再興(?)までの動きと信長の思惑について。
第2章では、室町幕府の権威と信長の覇権が並立する二重政権構造について。
第3章では、信長が志向したであろうとみられるその新国家秩序の性質について。
それぞれ考察されています。

後半部も3つの章に分けられています。
第4章では、本能寺の変以降の織田政権の終焉とそれを引き継いだ(簒奪した?)豊臣秀吉への政権移行について。
第5章では、西国平定の進行とそれに伴う秀吉の各種政策について。
第6章では、東国平定による天下統一の完成と朝鮮出兵に起因する秀吉政権崩壊について。
それぞれ解説されています。

終章として、天下統一と近世の始まりの再解釈について総括されています。

 

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『紫糸素懸威烏帽子形桐紋兜』(東京国立博物館所蔵)
「ColBase」収録
(https://jpsearch.go.jp/item/cobas-77846)

 

<ポイント>
1つめに、これまで信長から始まり秀吉そして徳川家康に至るまでの、日本各地における戦国大名同士の合戦で語られることが多かった、天下統一のストーリーをその支配の構造や具体的統治政策から分析し直している点にあるかと思われます。

2つめに、後世から見える、結果論的にとらえられがちであった、日本の一元的な中央集権的国家秩序形成による平和(?)の成立と戦国騒乱の終結や天下統一を見つめ直しています。 

3つめとしては、信長から始まる日本の一元化支配への流れにおける「預治思想」に基づく新しい国家秩序について説明されています。
すでに再議論されている信長や秀吉の天下統一構想や彼らの革命性について、再議論を受容しつつ、やはり両雄の改革的または革新的なその思想や政策があったればこその日本の一元化的国家形成と近世化が述べられています。

本書の序章の章題になっているとおり、本書の最大のテーマは「天下統一を問い直す」ということになるのではないでしょうか。

流れとしては、信長の登場から始まり、秀吉の天下統一事業の完成になります。 この一般的イメージでいうところの「天下統一」までのプロセスについて、日本全国への支配権の伸張とその政策について、複眼的視点で捉え直しています。

著者は、信長や秀吉に対して従前の革命児的イメージを肯定しているわけではなく、二人の実像を冷静に捉えて二人の覇権の修整を踏まえて、あらためて二人の果たした中世から近世への橋渡し的役割について考察していると思われます。
戦国時代の進化や深化の先に近世が生まれたのではなく、やはり、そこに二人の存在とその施策が重要であったと考えているのではないでしょうか。

 

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『洛中洛外図屏風』(九州国立博物館所蔵)
「ColBase」収録
(https://jpsearch.go.jp/item/cobas-162565)


<補足>
織田信長 (Wikipedia)
豊臣秀吉 (Wikipedia)
戦国時代 (Wikipedia)
楽市楽座 (Wikipedia)
刀狩り (Wikipedia)
太閤検地 (Wikipedia)
惣無事令 (Wikipedia)

<著者紹介> 
藤田 達生 (ふじた たつお)
三重大学教授 日本史学者 専門は日本近世国家成立史。
三重大学教員紹介
そのほかの著作:
「藩とは何か」 (中央公論新社)
「本能寺の変」 (講談社)
「秀吉神話をくつがえす」 (講談社)
など多数。


私的雑感_読書感想

<私的な雑感>
20年くらい前からでしょうか、一般の間でも、織田信長の実像や彼の天下統一構想についての再解釈が明らかになってきたように記憶しています。
それは、30年くらい前までに強かった信長の革命児的イメージやそもそもの「天下統一」論の修正であったかと思われます。

具体的には、大雑把ですが、信長が施行した様々な政策はすでに他でもみられたものであったとか、当時は「天下」とは「日本全国」を意味するのではなく、京都を中心とした畿内周辺を意味していたので、信長は「日本統一」を目指していたわけではない、というものではなかったでしょうか。

それらの意見はたしかにその通りではないかと思われます。
しかし、信長が起こして秀吉が進めた彼らの施策が、それまでの中世的な価値観、制度や慣例とはやはり一線を画すことになり、それが結果的に中世を終わらせて近世に至ることになったのではないでしょうか。 具体的には、地方分権的な比較的緩い繋がりになっていた日本を一元的な中央集権的国家へ形作ったということもまた事実なる一面かと思われます。

思考実験として、信長や秀吉が登場(彼らではなくても同様の人物でいいのですが)しなければ、日本はもっと長い間、戦国時代を続けていたかもしれません。
その結果、スケールは少々異なりますが、ヨーロッパ諸国のようにそれぞれの地域が分離独立化していった可能性もあるのではないかなと個人的にはちらりと考えることもあります。

個人的には、信長と秀吉に、「一元的な中央集権的国家という新しい日本をつくる!」という具体的で明確な理念や哲学のようなものがあったわけではなく、二人の置かれた政治情勢とその状況下で政治的・軍事的覇権を確立しようとする生存戦略の選択の結果、「日本の統一」という「天下統一」が生み出されたのではないかなと思われます。 
もちろん、それは単なる結果論ではなく(たまたまそうなったということではなく)、それまでの中世封建制度的な仕組みとは性質や方向性を異にする、二人の強烈なキャラクターと具体的な政治的・軍事的施策の志向性ゆえであったのではないでしょうか。

本能寺の変の原因はいろいろあったのでしょうが、信長の近世的な志向に対する中世的な志向の揺れ戻し、反動という歴史的事象であったのではなかろうかとふと感じました。

読んで良かったです!

 

<本書詳細>
「天下統一 信長と秀吉が成し遂げた『革命』」 
(中央公論新社)

<参考リンク>
「信長の天下布武への道」 (吉川弘文館)
「秀吉の天下統一戦争」 (吉川弘文館)
「天下統一 秀吉から家康へ」 (講談社)
「分裂から天下統一へ」 (岩波書店)
「現代語訳 信長公記」 (KADOKAWA)
「川角太閤記」 (勉誠出版)※現代語訳
「刀狩り」 (岩波書店)
「太閤検地」 (中央公論新社)
「楽市楽座はあったのか」 (平凡社)
「秀吉の武威、信長の武威」 (平凡社)

敬称略
情報は2022年1月時点のものです。
内容は2014年初版に基づいています。

 

<バックナンバー>
バックナンバーはnote内のマガジン「読書感想文(歴史)」にまとめています。

0001 「室町の覇者 足利義満」
0002 「ナチスの財宝」
0003 「執権」
0004 「幕末単身赴任 下級武士の食日記」
0005 「織田信忠」
0006 「流浪の戦国貴族 近衛前久」
0007 「江戸の妖怪事件簿」
0008 「被差別の食卓」
0009 「宮本武蔵 謎多き生涯を解く」
0010 「戦国、まずい飯!」
0011 「江戸近郊道しるべ 現代語訳」
0012 「土葬の村」
0013 「アレクサンドロスの征服と神話」(興亡の世界史)
0014 「天正伊賀の乱 信長を本気にさせた伊賀衆の意地」
0015 「警察庁長官狙撃事件 真犯人"老スナイパー"の告白」 
0016 「三好一族 戦国最初の『天下人』」
0017 「独ソ戦 絶滅戦争の惨禍」

 

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(2022/04/06 上町嵩広)


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