子どものイタズラを怒らないために
子育てをしているみなさん、子どもってかわいいですよね。
他人の子どもでもかわいいのに、自分の子どもだとなおさらかわいく思えます。
それなのに、イタズラする我が子に対して怒ってしまう、言う事を聞かない子どもにイライラして怒鳴ってしまう…
そんな経験のある方、それによって自己嫌悪に陥ったりしてしまう方は少なくないのではないでしょうか。
今回は、子どもがどんな世界を生きているのかを考えることで、少しでも感情的になってしまうのを減らせるのではないか、というお話です。
このnoteを書いた動機
先日、こんなnoteを読みました。
パパセラ〜子育て療法士〜さんのnoteで、『子供の世界』について現象学の観点から考察されていました。
このnoteがおもしろくて、自分なりにもう少し考えを深めたいと思ったのが今回のnoteを書くに至った動機です。
パパセラさんのnoteでは、『生活世界』と『能力性』という概念から子どもの世界を理解しようとしていました。
私のこのnoteではもう少し生物学的な観点から考えてみたいと思います。
生物が見る世界
子どもの話からは少しズレますが、人間とイヌの『環境世界』を比較した以下の文章を引用したいと思います。
人間の環境世界では、ある室内の対象物の作用のトーンは、イスは座席のトーン(オレンジ色)、机は食事のトーン(ばら色)、そしてコップや皿などは、さらにそれぞれに対応する作用のトーン(黄色)と赤=食物・飲食物のトーン)で表されている。床は歩行のトーンをもち、本棚(藤色)は読書のトーン、机は書くトーン(青)を示している。壁は障害物のトーン(緑)を、そしてランプは光のトーン(白)をもっている。イヌの環境世界の図では、(中略)わずかに食事、座席のトーンが存在するだけであって、残りはすべて障害物のトーンを示している。回転椅子もまた、あまりくるくるまわりすぎるので、イヌにとっては座席のトーンをもっていない。(ユクスキュル:生物から見た世界, p86)
少し長い引用になりましたが、人間とイヌが見ている世界の違いを言い表しています。
つまり、生物は自身が環境に対して行える作用を持っており、この可能な作用に基づいて環境世界に意味を与えます。
人間とイヌは基本的に同じ世界を見ていると考えられますが、それに対する意味付けが全く異なっているということです。
大人と子どもの見ている世界
このような視点に立つと、子どもと大人の環境世界が異なっているということがわかるのではないでしょうか。
7〜9ヶ月ごろにかけて、平面のものを立体ととらえる、単眼立体視が可能となり、空間と自分との位置関係がわかり始める。そして、この時期に、予測的な到達把持運動が可能となり、視覚と上肢運動のコントロールが可能となる。(大城・儀間編:子どもの感覚運動機能の発達と支援, p48)
このように、子どもは視覚の発達に伴って手を使った運動・行為が可能となります。
つまり、子どもは発達の中で長い時間をかけて視覚と行為を獲得していくわけです。
視覚に関しては1歳くらいまでに0.4程度の視力を獲得するとされていますが、目で見える世界が大人と近いものになったとしても、可能な行為が異なれば環境世界は大人とは違ったものになっているでしょう。
大人の世界を子どもに強要しても仕方がない
人間の大人の世界は、イヌや子どものような知覚と作用の関係によってのみ規定されるものではありません。
文化や社会的通念、常識などといった、多くの要素の影響を受け、我々の環境世界は構成されているはずです。
本来、積み木を投げて遊んでも、テーブルの上に座っても、それは全て可能な作用であって、そのような発想で『作用のトーン』を作り出すことは間違いではないはずです。
大人と子どもでは『環境世界』がそもそも異なるのですから。
もちろん、やってはいけないこと、他人に迷惑をかけてしまったり、子どもにとって危険なことを教えることは必要です。
ただ、子どもがそのような行動をとってしまうのは、自分なりの『環境世界』を作り上げた結果であり、大人と同じ『環境世界』を構築する過程で必要なことです。
そもそも、大人と同じ『環境世界』の構築を目指す必要もないのかもしれません。
子どもは子どもの『環境世界』において様々な運動・行為を経験し、環境との相互作用を通して新しい『環境世界』を構築していきます。
この過程で生じるのがイタズラなのではないでしょうか。
大人は自分の『環境世界』を子どもに押し付けるのではなく、子どもの『環境世界』を認め、子どもの『環境世界』を少しずつ変えていくという視点に立つと、イタズラを怒らなくても良くなるのではないかと考えます。
まとめ
子どものイタズラについて、ユクスキュルの生物学的な観点を軸に考察しました。
大人の『環境世界』は文化や常識などの影響を多いに受けており、子どもの見ている『環境世界』とは大きく異なっています。
そのような大人の『環境世界』を子どもに押し付けるのは意味がないばかりか、子どもの混乱を招いてしまう危険すらあるのではないでしょうか。
我々大人は子どもの『環境世界』があることを知り、その世界の中で子どもが様々な試行錯誤を行っていることを認めてあげることで、イタズラを怒っても仕方がないということを理解できるのではないでしょうか。
これを読んでくださった子育てを頑張るみなさんとそのお子さんにとって、何かの手助けになれば幸いです。
※今回参照・引用した『生物から見た世界』はハードカバー版(廃刊)です。現在出版されている文庫版とはページ等が異なる可能性があります。ご了承ください。
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