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成功体験と失敗体験、どちらが大切か/燻り准教授

こんにちは、放送作家&ライター集団リーゼントです。
各界のプロがその世界の気になるアレコレをつづる「いろいろコラム」。
今回は某理系国立大学の准教授が、勉強や研究に励む学生に向けてちょっとしたメッセージを寄せてくれました。かけがえのない学生生活を充実させるためには何が大事なのか? 指導する立場にあるセンセイの本音が少し見え隠れします。では、どうぞ!

【燻り准教授 プロフィール】
ただ面白い研究をしたい某理系国立大学准教授の男。パソコンが苦手。オートバイが趣味。妻、娘、息子の4人家族。

成功体験は“自信”を深めるが、失敗は…?

体験の中身やその期間、タイミングによってとらえ方が様々に変わってくるので、一般化して議論するのはあまりに無意味ではありますが――大学生活の中で卒業論文、修士論文の提出とその発表会が一段落し、卒業式を迎える時期、ふとこの問いが頭をよぎります。

「成功体験と失敗体験、どちらが大切か?」

僕は理系、中でも実験系の研究室を運営しているので、年度末、研究室に所属する学生さんは卒論生であれば1年間、修論生であれば2年間やってきた実験内容を卒論、修論としてまとめ、学科内の論文発表会に臨みます。

当然審査があり、不合格であれば卒業が出来なくなってしまいます。とはいえ、論文を提出し発表会で発表さえすれば、まず不合格になることはなく、晴れて卒業です。僕も審査に参加しますが、これ、いいのか? と思われる論文や発表がないわけではありません。

が、専門分野が少しでも違うと学問的な評価がなかなか難しいですし、指導教員が提出・発表させているからオッケーなんだろうとなります。それでも特に優れた論文や発表は、たとえ分野が違っても明らかにわかります。

これはいいぞ! となるのです。

発表会終わりに、審査教員の投票で決まる優秀賞なんかもやはり順当ですし、中には学会で発表して賞をとるものや有名学術誌に掲載されるものもあります。そういった成果を出せた学生さんにとっては、卒論、修論が、まさに“成功体験”として今後の人生を送る上での1つの自信となるのだろうなと想像します。

研究者からすると若き日の失敗はうらやましい

一方で、実験が思うように進まず、たいした結果が得られないまま時間切れになってしまい、その内容で発表せざるを得ないといったようなものあります。もちろん、実験結果が出なくても、ちゃんとした成果に結びつかなくても、やったことをまとめて発表すればいいわけですが、1年間あるいは2年間をかけてきたことなので、本人にとっては不甲斐なく思ったり、悔しかったりで、“失敗体験”として記憶に残るのかもしれません。

でも、そうした結果が出なくても、成果に結びつかなくても問題ないという環境で研究ができるのは、教員になって研究を続けている僕からすると、実はうらやましくもあります。

研究する以上、成果を求められる弊害も…

研究をするためにはそれなりの資金が必要で、たとえば国や企業が行う研究費助成事業等に申請します。運よく採択されれば、期限付きで研究費がもらえます。その期限は1年や2年といった、まさに卒論や修論と同じようものが多くあります。ただ卒論や修論と違って、やってはみたけど結果が出ませんでした、時間切れになってしまいました、というのはなかなか受け入れられません。

そもそも、期限内に結果が出せるかわからないけど単に面白そうなのでとにかくやらせてくれ、といった申請ははじめから採択されることはないのです。

そうすると、それなりの成果が出せるように、ある程度の見込みや、うまくいかなかったとしても何らかの成果へ繋げる戦略がある研究を申請し、採択されればそれを実施することになります。

もちろんそれは正しいやり方で、高いレベルで研究を続けている優秀な研究者は、挑戦的なテーマを申請しつつ、しっかりとした成果を出していくわけです。

しかし、僕のような平々凡々とした研究者は、成果を出すことに意識がいってしまい、縮こまった申請をして、なんとか結果をひねり出すといった、結果的に失敗ではないけれど、納得のいく成功でもない、なんとも中途半端な研究で終わってしまうことがあります。実は、そういった研究者が増えつつあるのが現状と言っていいでしょう。

お金を出す以上、成果を求めるあまりに、ダイナミックな研究がしづらくなっているのかもしれません。なんとも歯がゆいですね。

そんな時、失敗しても構わない学生に戻れるなら、成果を気にせず、やりたいと思ったことをやるのになぁと、かなわないことを思ったりします。

失敗体験こそ“考え”を深めるものになっていく!

そんな自分の勝手な思いから、僕の研究室の学生さんには、結果が出なくて、成果にならなくても構わないので、とにかくやりたいこと、面白いと思えることに挑戦してもらうようにしています。

失敗の中にヒントが詰まっていると思うからです。

卒論研究や修論研究に限っては、結果が出ないといった失敗もありで、やりたいことを思いっきりやることの方がずっと大切なことなんだと思います。それが許される時期でもあると思います。

ときどき成果がだせず暗い顔つきで発表会に臨む学生さんがいて、こちらの指導不足を痛感してしまいますが、「けど思いっきりやって面白かったろ? まだ次があるぜ!」と心でエールを送っています。

4月、新しく学生さんが研究室に入ってきました。やりたいことを思いっきりやって、運が良ければ、良い結果をだして、成功体験になれば尚いいですね!

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