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うた

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気ままに書いた散文詩や、短編小説たち。 一話完結のものを集めました。気軽に読んでやってください。
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2024年6月の記事一覧

【エッセイ】懐しい夏に

【エッセイ】懐しい夏に

ラムネの音が、夏でした。
この胸をきゅうと掴む夏の切なさは何なのでしょう。

これからお話するのは、社会人になって初めての1人旅行、出雲に行ったときのことです。
9月の出雲はまだまだ30℃を超える真夏日で、立っているだけでも全身から汗が滲んでくる暑さでした。歩いていたら言うまでもありません。

私はこの日、日御碕神社から日御碕灯台へと向かっていました。
左手には広々と海があり、浜辺に打ちよせる波の

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Monday in blue

Monday in blue

「《月曜日の博物館》?」
 最寄り駅から自宅までの寂れた道中、仕事帰りの遅い時間でもぽつりぽつりとしか電灯がない中で、その看板はまっさらで眩しく見えた。ついこの間まで工事のために白い仮囲いで覆われていたこの場所に、博物館が出来たらしい。
「どうしようかな。気になるけど……」
 目覚めるようなブルーの《月曜日の博物館》という凸文字と睨み合っていると、不意に博物館の扉が開いて中から女性が出て来た。背は

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雨彩

雨彩

「紫陽花をドライフラワーにしちゃいけないよ。そのまあるい花は、雨でできているから」
 雨傘を避けると、おじいさんがわたしを見下ろしていた。
「ドライフラワーってなに?」
 わたしが尋ねると、おじいさんは目を細めた。
「お花をミイラにしてしまうことさ、お嬢さん」
 ミイラってなに、と聞いたけれど、わたしの声は雷に打たれて流れていった。

 梅雨の頃になるといつも思い出すこの秘密の記憶は、セピア色に乾

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