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映画『Girl/ガール』感想

予告編
 ↓

PG-12指定



 先日投稿した映画『MISS ミス・フランスになりたい!』感想文の中で、本作のことについて少しだけ触れていたので、本日は映画『Girl/ガール』の感想文を投稿することにしましたー。


 公開当時(4年ぐらい前?)の感想文なので、本文の中には今の時期・時節とはズレた話も混ざってしまっていますが、読んで頂けたら嬉しいです。


痛み


 「人によっては不快に感じることも……」
 「ですが決してそういった意図(差別、ヘイト等)は無く……」

なんていう言い草は便利だけど、今回は使わないことにします。たとえ公平・平等を謳い、心掛けていても「可哀そう」とか「気持ちを理解して “あげたい”」などと少しでも思ってしまった時点で、それは上から目線に他ならない気がするから。自分自身のそういった内面に気付かされた映画です。



 ついこの間、実写版『リトル・マーメイド』(感想文リンク)のアリエル役に黒人歌手がキャスティングされたことがニュースになっていましたが、実は本作でもキャスティングについて多少ニュースになっていたみたいなんですよね。トランスジェンダーである主人公をシスジェンダーが演じることについて、一部のトランスジェンダー俳優から批判が声が上がったらしいんです(ネット記事情報)。

この前も、女優のスカーレット・ヨハンソンが同様の批判のために作品を降板したことがニュー スになっていましたけど、数年前の『リリーのすべて』や『ダラス・バイヤーズクラブ』の時、エディ・レッドメインら俳優陣に対する批判は無かったと思うけどなぁ……。報道されていないから知らないだけ、気付いていないだけかもしれないけど。本当にここ数年だけで、世の中が大きく変わってきているということでしょうか。

 こういった騒動に関わらず、そもそも近年では、ディズニーをはじめハリウッド、オスカーなど各方面で多様性を重んじる動きは広がり続けていたけど、殊LGBTQ+のことに関しては、本当にここ数年で世界の潮流が大きく変わっている印象です。白人が黒人の役を演じれば批判されることとも近いというか、シスジェンダーがトランスジェンダーを演じるという事態を、多数派による支配のようにしてはいけないという動きなんだと思います。

とはいえ、少なくとも本作『Girl/ガール』が、そういった類のものではないこと、テーマに対して真摯に向き合って作られたものであることは、本作を観ればわかる。



 治療はどのような過程で進んでいくのか、周囲からどのように扱われるのか、男性の体で生まれた主人公ララ(ビクトール・ポルスター)がどうやってレオタードを着ているのか、学校でシャワーを浴びる時はどうしているのか、初めてできた気になる人をどう想うのか、どうアプローチするのか、家族は彼女とどう向き合っていくのか……。

挙げれば切りが無いし、あくまでもこの物語の主人公である彼女だけについてのことだけど、それらがちゃんと描かれています。時にははっきりと言葉にしたり、時にはボヤかすことなく映したり、本作には誤魔化そうとする素振りなどが一切無い。何も成熟した女性の体や男性の性器が映り込んでいるからPG指定が設けられている訳ではなくて……、いや勿論そういった理由もあるんでしょうけれど、ちゃんと客層を絞っているからこそだと思うんです。本来であれば、モザイク処理も無くはっきりと映り込んでいるのだから日本ではR指定になってもおかしくない中、作品の本質を考慮した上でPG-12指定になっているような気がします。これから思春期を迎える人々にも見て貰えるようにと。



 シャワー室のシーンはまさに本作が提示してくれたことの象徴のように感じます。隠れるようにシャワーを浴びるララの周りでは他の女生徒たちが開けっぴろげにシャワーを浴びている……。作中の子たちは理解ある子たちなのでしょう。“女性しか居ない空間” という認識だからこそできるその行為でも、観客にとっては、一糸まとわぬことによって露わになる胸部の膨らみを目にすることによって「あの子は “女性” である」という認識に繋がる。この見た目による認識がララを悩ませていると知っているはずの観客に対してのこの強気なシーンは、否が応にも作り手の意図を勘繰ってしまいます。しかし素直に「やられた」と思いました。



 予告編で「映画史上、最もエモーショナル」と紹介されていた本作のクライマックスは、簡単に言葉にできるものじゃない。まるで心の有り様のように震えることの多かったカメラがその瞬間だけは滑らかに、そしてゆっくりと動いていくのは、不穏なシーンなんかでもよく使われるような印象です。これから間違いなく、決して良くないことが起きると思わせる、ただただ不穏なだけのシーン。あまりに静かでシンプルな演出が、そのシーンの過激さを際立たせる。

体に貼ったテープ、血の滲む努力、周囲からの好奇な視線……。ずっとずっと痛みばかりが強かった印象の物語のクライマックスが、最も痛々しい。「バレリーナになりたい」という想いもある。でもそれ以上に、ララがずっと抱えてきた性自認と身体的性のギャップ。それが故にこのクライマックスだったのだと思います。


 鏡越し——直接お互いの顔を見合っていない状態——での親子の会話から始まり、手を取り合い向き合う親子のカットになる。そしてその後、一人で強く歩き進むララの姿を最期に終幕するのもとても印象深い。ララという1人の “Girl/ガール” の心を丁寧に描き、ラストカットまで息を呑む、おそらく暫くの間、忘れることのできない1本になりそうです。
 


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