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映画『リトル・マーメイド』感想

予告編
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舵を切る


 アンデルセン童話というよりディズニーアニメのイメージの方が強い気がする本作。僕自身、ディズニーアニメの『リトル・マーメイド』しか観たことはありません。本作は実写版ですが、同じくディズニーのアニメ版と比較しながら観るのも面白いのではないかと思います。……というより、何の気無しに観ていた子供時代とは、感性も注目するポイントもだいぶ異なっているのだと気付けることが、本作の面白さの理由だったのかもしれません。実写版の『アラジン』(感想文リンク)を観た際にも同様のことを感じた覚えがありますが、本作からは、アニメ版からの変わらぬ良さと、逆に変わった良さも同時に窺えます。そしてそれに加えて先述したような理由から、大きくは変わってはいないのに、自分自身の感性などが変わっていることで感じ方が違ってくることなどもありました。


 特にエリック(ジョナ・ハウアー=キング)の印象が大きく違う。変化を求めていたヒロインの前に現れた理想の王子様というイメージだったアニメ版とは異なり、序盤から、エリック自身も変化を求めていることがしっかり描かれています。先述した『アラジン』も含め、男性の存在、男性の力のみによって変化がもたらされる一方だったディズニーアニメ(主にプリンセスもの)において、近年の実写化作品では、とにかく「男性に依存していないこと」を強調するかのような変化が描かれている印象ですが、本作も同様なんじゃないかと。

 たとえば、舵を切る動き。序盤、船上で火災が起きるシーンでは、王族という身分にあぐらをかかずに率先して問題に対処しようとする姿勢を見せるエリックが描かれることで、彼が根本に持つ人柄と、ここぞという時に頼りになる人物であることを教えてくれる。一方、終盤でのアースラ(メリッサ・マッカーシー)との戦いのシーンでは、状況は異なれど、序盤の船上火災シーン同様にピンチに陥っていた中で、今度はエリックではなくアリエル(ハリー・ベイリー)が舵を切ることで窮地を脱していました。「大海の波や風の流れに任せて進む」はずの船舶を、舵を切ることで進行方向を変えようとするという動きが、まるで変化を求めていたアリエルとエリックが、自らの運命をも変えていこうとするような姿にも同時に見えてきます。また、アースラとの戦いの時もエリックが舵を切っていたアニメ版とは異なり、終盤ではアリエルが舵を切っていた、という変化も、先述の「男性に依存していないこと」を際立たせる、現代の潮流にマッチした変化だったと思います。


 「舵を切る」という行為に意味を感じてしまう(勘ぐってしまう?笑)のと同様、アースラに声を奪われてからその声を取り戻すまでの奮闘が「女性が声をあげられない世の中を変えようとする動き」に感じられたり、はたまた人魚から人間になるという変化が、海の中だけに縛られていたアリエルの世界が一気に広がる——足を手に入れたことで閉じ込められたままではなく遠くへ行けるようになる——という変化にも見えてきたり……。こういったこともまた、本項の冒頭で述べた「自分自身の感性などが変わっていることで感じ方が違ってくる」ということなのかもしれません。




 変化を求めるヒロイン(アリエル)に、力を持つ王子様(エリック)が手を差し伸べてくれるという構図ではなく、お互いに歩み寄る感じ。特にクライマックスシーンは、お互いの文化や歴史などへのリスペクトを持ちながら、調和へ向け、共に手を取り合えることを示してくれていたと思います。「これからが始まり」というセリフと共に手を取り合うような姿は、〈人間〉と〈人魚〉という異なる者同士の連帯を美しく見せていました。ここで述べる「異なる者」というのは、単に別の種族・生物ということではなく、環境や文化、今に至るまでの道程が人それぞれ違っているというだけの話。無理矢理な共感を美化するものではなく、エンパシーを持ってさえいれば、分断や争いは起きないとさえ訴えていたのかもしれません。海岸には人間たちがいて、海辺の方には人魚たちがいて、その中心には手を取り合うアリエルとエリックがいる……。アニメ版では描かれていなかったこのシーンをクライマックスにわざわざ入れ込んだということは、作り手のメッセージと捉えても相違無い気がします。

(公開前、それどころか制作前から、本作の主要キャストの人種について何かと話題になっていましたが、このクライマックスシーンの存在によって、そのキャスティングが意図的なものだったんじゃないかと訝しむような思考が、白状すると少しだけ過ってしまいました。こういった邪推は野暮だとわかっているはずなのに、鑑賞中にも関わらず浮かんできてしまうあたり、僕もまだまだ頭が固いのだと情けなくなります。大いに反省。)



 子供の頃に観ていた『リトル・マーメイド』とは異なり、どこか寓意性を感じ取ってしまうこともありましたが……、まぁそんな細かいことは二の次にして、みんな大好き(?)な『アンダー・ザ・シー』などのミュージカルシーンや、海中のCG映像を楽しむのが本当は一番の魅力なのかもしれません。また、そういった魅力を楽しむためにIMAXの大画面を選択するのも良いのですが、それだけに留まっていなかったのも良かったと思いました。海の中だけに縛られているアリエルの窮屈な心情を表すかのように、海中では従来のシネマスコープ、陸上ではIMAXの画角で描き分けられていることが多めだった印象があります。また、カットが変わる瞬間にスクリプト比がパッと切り替わるのではなく、徐々に画角が広がったり狭まったりしていたのは面白かったと思います。

 ちなみにですが、大きくて鮮明な映像を楽しめる劇場のスクリーンで、且つ実写版なので、アニメ版とは違って魚などが非常にリアルです。魚類のビジュアルが苦手な人は注意が必要かもしれません。


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