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映画『バイオレント・ナイト』感想

予告編
 ↓

R-15+指定


キッチュに唾を吐く


 本国とは異なり、日本での公開は季節外れの2月になってしまった本作。
冒頭、クリスマスイヴにバーで酒をかっくらうサンタクロース(デビッド・ハーバー)が描かれます。彼こそが本作の主人公。しかしながら、物欲にまみれた子供たちだらけの現代、もはやサンタでありながらも、クリスマスというものに辟易していることが窺い知れるシーン。彼自身、「なぜ始めたのかさえ忘れた」と愚痴を溢すほど、サンタクロースとしての存在意義を失いかけており、絶望していると言っても過言ではなさそうな様子。

 席を立ち、店の屋上へ向かうサンタ。そんな彼を、何事かと追い掛けた店主が屋上で目にしたのは、トナカイが引くソリに乗って飛び立っていく本物のサンタクロースの姿。さっきまでのサンタの話は、酔っ払いの妄言なんかではなかったんだ!本当にいたんだ!! と、まるで子供のように瞳を輝かせる……そこにブチかまされる豪快なゲ〇!!笑


 前置きが少し長かったかな? 本作のこの一連の冒頭シーンは、主人公であるサンタクロースの心境、延いてはこの映画のスタンスをも象徴したシーン。サンタを見て感激する奴には吐瀉物の雨、クリスマスに湧く街には上空から立ち小便などなど。「クリスマスなんてクソ喰らえ!」とでも言っているかのようです。クリスマスというイベント事に代表されるようなキッチュな展開や王道な流れ、或いは予定調和といった諸々に唾を吐く……。そんな世界観こそ、本作の大きな魅力。

 その後のシーンでも同様。本作で描かれる会話劇内のセリフも、アクションシーンも、ストーリーも何もかもがそう。クライマックスを迎えるまでずーっとです。そしてそんなアウトロー感を、サンタクロースという夢溢れる存在自身が、先陣を切って演じてくれているから余計に面白いんじゃないかな。

 例えばグランマ(ビヴァリー・ダンジェロ)の登場シーン。名前はガートルード。孫も居るおばあちゃんなのですが、大企業を率いるやり手の社長。本作の舞台となる大豪邸も、彼女の凄まじさを物語ります。そんな彼女を出迎えるため、大人の色んな思惑が入り乱れる瞬間。とはいえ、なんだかんだ言っても家族が顔を合わせる場面。孫も来ていて、何よりクリスマスイヴなわけですから、ちゃんとハッピーな雰囲気を用意する。……しかし現れた途端、そんなお祝いムードを台無しにする文言が連発される笑。

 こんな風に、いわゆるキッチュな展開を平然とブチ壊してくれるのが楽しくて仕方がない。会話の際にはド汚い言葉で、アクションの際にはスマートさの欠片も無いバイオレンスな方法で、しっかりと台無しにしてくれる。

 また、今回の騒動を引き起こした犯人一味の頭であるスクルージー(ジョン・レグイザモ)が「最悪のクリスマスに」と宣言していたのも面白い。そもそも現状のクリスマスを既に「最悪」かのように認識しているサンタクロースVSクリスマスに良い思い出の無い犯人という構図もまた、クリスマスを台無しにしてくれる素敵な要素。

 先ほどから「台無し」「ブチ壊し」等々、聞こえの良くない言葉ばかり並べ立ててしまっていますが、お察しの通り、全てが誉め言葉。配慮やデリカシーなんてゼロ、大振りで、剛腕なやり方で、予定調和なんてお行儀の良い流れを崩してくれる、そんな爽快感がたまらないのです。ある時は、爽快や痛快、またある時はコメディ、緊張と緩和のユーモア。様々な形で観客を最後まで楽しませてくれます。


 (今思えば、冒頭で述べた「本国とは異なり、日本での公開は季節外れの2月になってしまった」という件も、ある意味では本作を彩ってくれていたのかもしれません。そんな公開タイミングのズレ自体も、「わざわざクリスマスに合わせてられるか」とか「クリスマス時期を外して、台無しにしてやる」と言ってくれているようにも思えてきてしまいます。或いは、「クリスマス映画だから、折角ならクリスマス時期に観たかったなぁ」とか浮かれたことを言う輩に唾を吐いてしまいそうな主人公の性格を体現してくれた……なんて、流石に“こじ付け”ですけどね笑。)



 予告編にもあった通り、『ブレット・トレイン』(感想文リンク)や『Mr.ノーバディ』(感想文リンク)のプロダクションが制作している本作ですから、期待していた通り、アクションシーンも当然面白い。過激さばかりに目がいってしまいそうでしたが、人質に取られているシーンと、サンタが孤軍奮闘しているシーンの繋げ方が上手いので、物語としてのテンポが良い。「これから撃たれるんじゃないか?」とヒヤヒヤさせて、場面が変わり、背景(見えないところ)で銃声が聞こえるという流れであるとか、隔絶された場所同士を上手く繋げるトランシーバーであるとか、小さな工夫が見応えを良くしていたんだと思います。


 これら爽快で痛快なバイオレンスアクションについては、これ以上は字面だけでは伝え切れそうにないので、是非とも実際にご覧になって頂くのが一番なんじゃないかな。

 クリスマスイヴに強盗という設定を活かして『ホーム・アローン』のオマージュがあったり、他にも様々な遊び心も垣間見えたり、ずーっと楽しい映画でした。


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