映画『Mr.ノーバディ』感想
予告編
↓
PG-12指定
におわせ
痛快という言葉がよく似合う。過激な戦闘シーンとセンス抜群の音楽がマッチした超かっこいいアクション映画です。ポップス×過激アクションというと、僕なんかだと個人的には『キック・アス』『キングスマン』などマシュー・ヴォーン監督作品が想起されがちなんだけれど、正にそんな感じをイメージしてもらえれば良いんじゃないかと。それが好きなら本作もきっと好きになれること請け合いだ。
しかしながら本作は主人公の性質も相俟って、どこか落ち着いた雰囲気も垣間見えてくる。アッパー系というよりはダウナー系とでも言うべき、メロウな快感があるアクション映画。敵をぶっ飛ばす爽快感に対し、兎にも角にもテンションをブチ上げるような演出ばかりではなく、例えば、眉一つ動かさない主人公の落ち着いた表情を背景に飛び散る鮮血、それをスローで映しながら聞こえてくるムーディなバラード曲等々……。大人の成熟した、落ち着き放った感じというか、渋くてダンディでアダルティで……そんな形容の方がしっくりくるかもしれません。
まず『Mr.ノーバディ』というタイトルが素敵。ある意味ネタバレになっちゃうのかな……? 予告編から読み取れないこともないけど、「何者でもない」……要するに名乗るほどの者ではない、物語として語られるほどの者ではないという謙遜からくる言葉だと思っていたのに、物語が進むにつれ「一体、何者なんだ?!」という意味に変化していく。大したことないMr.ノーバディが、只者ではないMr.ノーバディになっていく、その過程、そう思わせる匂わせ方がキザでかっこいい。多くを語らないかっこよさって言うのかな。冒頭の「こいつは只者ではないかもしれない」という印象付けが、作品を常に支配してくれている。本作のタイトル『Mr.ノーバディ』は、主人公・ハッチ(ボブ・オデンカーク)の自称ではなく、ハッチに遭遇してしまった人々、 或いは見てしまった観客の気持ちを代弁した言葉なのかもしれません。
いきなり本性を表すようなことをしない展開もキザというか、ハッチの性分とリンクしているようで良い。例えばバスの戦闘シーン。まるで彼の中に眠っていた何かがとても静かに、しかし確実に沸々と沸き上がってきているかのような展開に、「いよいよ何かが始まるぞ!」という期待感が否応にも高まってくる。そして火蓋が切られる!
……と思いきや、いきなりぶん殴られるハッチ笑。とりあえず反撃するも、決してワンサイドというわけではなく、非常に泥臭く戦い続け、次第にハードな戦闘になっていく。
このシーンでの敵方らの、
「なんだコイツたいしたことねえぞw」
↓
「あれ、意外としぶといな」
↓
「なんか……全然倒れねえぞこのオッサン」
↓
「何かおかしいぞ…!」
↓
「一体コイツ何者なんだっ?!!」
と言わんばかりの表情や仕草の変遷が最高なんです。まさに本作を象徴するような絶妙な匂わせを孕んだ戦闘シーン。
匂わせるということで言えば、こういった戦闘シーン含め、狂人の片鱗がちょこちょこ見え隠れするのも面白い。ストローでの応急処置や、火薬の中に釘を仕込んで殺傷能力を上げるだとか、「なぜこんなこと知っている?」と言いたくなるような行為を淡々とこなしてきやがる。しかも “平凡なおじさんっぽさ” という羊の皮を絶対に脱ぎ捨てないまま。
これらは当然フィクションだし、それこそ『キック・アス』や『キングスマン』並みに有り得ない……なのに何故だろう、どこか有り得そうな戦いぶりに見えてくるのも魅力の一つ。これなんででしょうかね?笑。「何者でもない」雰囲気のせいなのかな?
あともう一つ、個人的に好きなハッチの魅力について、いわゆる勧善懲悪だとか世直しなんて大それたこと以上に、家族との幸せを優先するような優しい男であるというのがとても好きなんです。金に執着しないし、見知らぬ輩(当然、その気になれば簡単に倒せる相手)に襲われても、相手が弱っちぃ奴等だとわかれば、特に咎めたり制裁を加えることもない。激闘の末にボロボロになり、きっとアドレナリンも出まくりの状態でありながらも、ふと見かけた子猫を拾ってしまう優しさや、最近妻とイチャイチャできていないことへの不安を吐露する可愛らしさもある。表情のバリエーションこそ少ないのに、可愛げがある。”そんな男がブチ切れる” から面白いのだ。
序盤のシーンで、日付(本作では曜日)をテロップにしてドンッと画面に映す感じは、快晴が無く曇り空ばかりの日常も相俟って、“何か事件が起こるまでのカウントダウン”感がありますよね。その日常の繰り返しの中に、些細な不満やストレスによって積み上げられていくフラストレーションは、中盤~クライマックスにかけての爆発力への助走になっているし、その盛り上がりの瞬間が、前述の日常シーンの中で同時に描かれていた筋トレや走り込みに意味をもたらしてくれる。ジョークやユーモアも秀逸で、最初から最後まで余すことなく楽しめる一本です。
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