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映画『シャイニー・シュリンプス! 世界に羽ばたけ』感想

予告編
 ↓

PG-12指定


沈黙


 昨年公開の『シャイニー・シュリンプス! 愉快で楽しい仲間たち』(感想文リンク)の続編となる本作。 本作単体でも楽しめないことはない、と言いたいところですが、所々で、前作で描かれてい た内容に触れてくるので、出来ることなら前作を知っておいた方が良いと思います。もちろん、本作単体でも素晴らしいですけどね。



 本作は、実在するゲイの水球チームをモデルに作られた物語。前作以上に、セクシャルマイノリティについて考えさせられる描写が増えています。物語の中では、「”LGBT”はもう古い、(字幕を読み違えていなければ→)今はLGBTQQIP+だ」と語られていましたが、ネットで調べたところ、今はもうLGBTQQIAAPPO2S+なのだそう……。私自身も不勉強なので初耳でしたが、果たして何割の人がそれぞれの頭文字から始まるセクシャルマイノリティの呼称を全て知っているだろうか。

そして、まだまだ他にも多様な表現があるに違いないということも容易に想像がつく。



 とはいえ、実のところ重要なのは、どれだけ知っているかの知識自慢ではなく、人々に理解が広まったように見えて実はまだまだなのだということ。反LGBTの差別が根強いロシアが舞台というのもあるし、前作でチームメンバーとの絆を深めた主人公・マチアス(ニコラ・ゴブ)ですら、曖昧でなんとなくの理解や無理な同調しか出来ていないやるせなさも垣間見える本作だからこそ、そんなことをより強く思わされる。

社会の動きや人々の変化に対し、「ただのムーブメントにしていないか?」と突き付けられているような気持ちになってくるかもしれません。


 本作で描かれるのは、どれだけ時代や社会が進んでも、理解しない、もとい理解しようとすらしない者が数多くいるということ。そういった分断や差別のような人間性を、 “会話にならない” という形で描くのが非常に上手い。

例えば、シスでヘテロのマチアスの言葉には返事をするのに、ゲイの言葉は露骨に無視をするなど、まるで聞く耳を持たない、持とうとすらしない態度を見せてくる。

また、同性愛矯正施設(こんな施設が本当にあるのか……)の職員が聖書の一節を引用しつつ同性愛を否定してくるシーンでは、メンバーの一人が、これまた聖書の一節を引用しながら見事に反論しカウンターを喰らわせるのだが、その途端、職員は無視にも近い〈沈黙〉を決め込む。

都合が悪くなると黙りこくるという卑怯な姿勢も、これまた聞く耳を持とうとすらしない証の一つ。


 しかしながら、こういった態度が非常に不快というか、時には苛立ちにすら繋がるものの、以上のような〈沈黙〉というマイナスの側面が、逆にポジティブな気持ちにさせられるシーンへのフリになっているという、プラスの側面も持ち合わせていることが素晴らしい。

ネタバレ防止のために細かくは述べられませんが、「もし話を遮れば~~云々」という脅し文句を用いることで、相手を問答無用で黙らせる終盤のシーン。相手のその沈黙がこれまでに描かれてきた “聞く耳を持たない” という類の沈黙ではなく、 “耳を傾けてもらえない” という受け身の沈黙になっている。同じ〈沈黙〉でも、まるで意味が違う

〈沈黙〉という形で相手にギャフンと “言わせる” ってのも何か変だけどさ笑。非常に気持ちの良いシーン。

そして何よりも、「沈黙してはならない」という、本作でも最も重要なテーマの一つをより強く際立たせるための対比としても、〈沈黙〉はとても重要だったんじゃないかな。それらを象徴するかのようなクライマックスも素敵だったよ。



 前作に引き続き、本作は歌の使い方も素敵でした。場面転換などで上手く流すというのも然ることながら、これまでに述べてきた〈沈黙〉に対して声を上げるかの如く、歌唱シ ーンがより魅力的に描かれていたように思います。

施設内でのメンバーの言い合いから、 皆が不貞寝、しかも作戦も手詰まり等々。何もかもがモヤモヤしまくったところでフレッド(ロマン・ブロー)によるピアノの弾き語りが挟まれることによって、観客がじっくりと考えながら観られる間(ま)を生み出してくれていた印象です。

まぁ勿論、一番の見所はラストシーンに詰まっているわけですが、それは是非ともご覧になって頂くということで、ここでは割愛。にしても、デヴィッド・ボウイの楽曲は色んなところで用いられますよね。それだけ素晴らしいということだし、その輝きは本作でも然り。




 身体的性やSOGI(性自認や性的指向)、性表現など。自分自身に宿るそれらを認めたくないという気持ちも間違っていないのかもしれない。それらについて、他者の存在によって変えられる(=影響される)のも不思議じゃない。

しかしながら、それらは決して他人に強制されて良いものではないとも思う。自分自身の意思こそ大切。本作で描かれる変化の数々は、決して映画的なご都合主義じゃない。そう思えばこそ、あのラストに感動できる。

そしてそんな締めくくりからは、前向きな希望だけではなく、ロシアをはじめとした多くの地域にも、まだまだそういった〈沈黙〉が残っていること、本項の冒頭でも述べたように、”理解が広がったように見えても実はまだまだ” ということをも同時に示していたんじゃないかと思わされました。


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