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映画『ジョジョ・ラビット』感想

予告編
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本日、10月20日(金)よりアマプラにて配信開始予定の本作。

 本文冒頭で「今年のアカデミー賞は~」と述べていますが、公開当時(2020年)の話なので、気にしないでくださいな。


虚像の正体


 マジで今年のアカデミー賞はアタリだらけですよ。今のところ(1/25現在)日本では未公開の作品もあるからまだ全部は観られていないんですけど、現状で既に大混戦だ。まぁ僕一人が悩んだところでオスカーにゃ関係無いんですが……。


 第二次世界大戦時、空想のヒトラーに助けられながら立派な兵士を目指していく10歳の少年・ジョジョ(ローマン・グリフィン・デイビス)の物語。ここで言うヒトラーってのはイマジナリー・フレンド(?)とかいうやつで、要するに心の中で天使と悪魔が囁いて主人公がどちらにしようかと悩む、アニメ等でよく目にするアレみたいなことです。残念ながらこの物語においては悪魔の声一択なのですが……。


 それでもそんなことを忘れてしまう程に本作のオープニングシークエンスは明るい。ここでビートルズを流すあたりも憎い。当時の彼らにとっては、それ程あの男がスーパースターであったことを理解させてくれます。そんな名曲をバックにマンキンの笑顔で駆けるジョジョとエア・アドルフ(タイカ・ワイティティ)は親友にしか見えない。まるで『リトル・ランナー』(感想文リンク)のサンタのような存在として描かれている彼の姿を見ていると、ジョジョが正しくない道に行ってしまうんじゃないかと不安になってしまう程に。

というのも、ジョジョはとても優しい心の持ち主。母を想い、友を大事にし、ウサギの一羽すら手に掛けられない、素敵で優しくて普通で平凡な男の子。淡い恋心も抱き、強気に出ようにも罪悪感や気まずさのためにすぐ気を遣ってしまい、結局優しい側面が溢れ出る。そんな彼が、彼自身の心の支えとなっていたエア・アドルフとどう向き合うのかっていうのが見どころの一つ。


 本作には、本物のヒトラーは出てきません。全てジョジョの空想上のヒトラーのみ。そんな虚像と向き合い、隠された秘密に気付き、信じていたものへの違和感を覚え、辛く悲しい出来事を経て、「何が真実なのか」と10歳の子供ながらに思い巡らす彼を象徴するかのように、本作では至る所で、やたらと鏡に人物が写る。他にも窓ガラス等、光が反射しそうなものには大概、そんな描写がありました。鏡に写っている自分は本物ではないが、でもその姿を生み出しているのは自分自身以外の何者でもない。虚像と相対するというメタファーにも見えるようで、その実、自分自身と向き合うという意味合いも同時に含まれているんじゃないかな。


 色んな出来事を経て、“自我” という言葉すら認識できているか定かではない10歳の少年がエア・アドルフ——ある種、それまでの自分自身を模した偶像——と向き合い、衝突し、異なる解答を出そうと勇気を振り絞る姿はとても素敵だ。これが成長だ、一皮剥けるってことなんだと思わされる。

 それまでの自分の中の信念、正義、倫理などが文字通りぶっ壊されていく心情を表したかのような、スローモーションで映される戦争シーンも印象的。先述したマンキンの笑顔でエア・アドルフと駆けるシーンの話に戻りますが、そこで窺えたような、アドルフ・ヒトラーを崇め、彼に認められ、まるで自分が無敵になったかのように錯覚している程に元気で明るい感情をスローで表現していた序盤でのスローモーションがあったからこそ、あくまでスローという手法の反復だけなのにも関わらず、戦争シーンでのスローに意味——ジョジョの感情——を感じることが出来たのだと思います。

 そうやって心情の変化を経た彼が迎えるラストが、もぉ最っ高。「ちょっと大人になったじゃねぇか! いや、これから大人への階段を上っていくのか?!」だなんて余計なお世話でキュンキュンしてしまうエンディングにデヴィッド・ボウイの名曲が色気を添えてくれるんです。必見。




 各所に散りばめられたコメディシーンも魅力的。しっかりとフリが効いた笑いは、コメディ畑出身のタイカ・ワイティティ監督ならば当然なんでしょうけど、とても面白い。ブラックな要素が綺麗に収まっているのも然ることながら、あのヒトラーが素っ頓狂に見えていたり、それらブラックなユーモアの中枢に居るのがまだ10歳の子供だったり、見たことのない新鮮さが際立っているのもお勧めしたいところ。

 更にそんなユーモアたちが、その場の状況や登場人物たちの設定や関係性の妙によって表情を変えるのも素晴らしい。まったく同じフリ→オチという流れなのに、コメディにもシリアスにも化けさせられるのは、監督の手腕であり他の映画監督にはなかなか無い個性。

 時代や設定、ナチスを題材にする意味を考えると評価は逆転してしまいかねませんが、一映画としては素晴らしい仕上がりの一本だったんじゃないでしょうか。


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