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映画『ノマドランド』感想

予告編
 



 今の時勢・時節とはズレた文章も混ざってはいますが、もしよければどうぞー。


体感


 恥ずかしながら、クロエ・ジャオ監督の作品を観るのは本作が初めて。今年公開予定のMCU作品『エターナルズ』(感想文リンク)で監督やるって聞いた(ネット情報)から、めっちゃくちゃ気にはなっていたんです。白状すると、「ノマド」、そして「ノマドワーカー」(遊牧民や放浪者を意味する英語nomadが語源。近年では「時間や場所にとらわれずに働く人、もしくはそういった働き方」を指す語)という言葉は、本作に出逢うまで知りもしませんでした……。とはいえ、そういう働き方があるのは知っていました。でもやっぱりその実情までは全くわからない。ましてや日本以外のこととなると僕はからっきし。この『ノマドランド』が描くノマドたちは、少なくとも僕が知っているそれとは大きく違っていた。本作は、出演者の多くが実際にノマドとして生活している人々で制作された映画。各メディアでも言われているけれど、ある種、セミドキュメントと言っても過言ではない作品。



 小見出しに「体感」と書きましたけど、3Dとか4DXとかそんな話をしたいわけじゃなくて。本作の上映方法は全くもって通常。本作には激しいカメラアクションや、高度なCGがあるわけじゃありません。ただシンプルに人と自然の風景が映し出される。だからこそ劇場で観る価値がある。劇場の大きなスクリーンで観ることで、視界いっぱいに広がる大自然の風景。全体的にBGMが少なく、風の音や土を踏みしめる音がはっきりと聞こえてくることで、まるで風景の中に入り込んだような感覚になれます。これは自宅での鑑賞では到底追いつかない、味わえない、“体感” と呼ぶに相応しい映画体験なのだと思います。

 作中でも、フランシス・マクドーマンド演じる主人公・ファーンが大自然を感じているかのような描写がたくさんありました。長い年月を掛けて自然が作り上げた雄大な景色に独り飛び込み、普段歩く大地とは異なる足音に耳を傾けたり……。崖の上を歩く彼女の服が風になびくことで聞こえる布がはためく音。そこからより一層に風を感じようとしたかの如く帽子を外してみたり……。衣服を脱ぎ捨て、裸で池に浮かんでみたり……。大自然を味わっていること、そしてそんな大自然の時間経過の大きさまでをも教えてくれるような瞬間が多かったために、「体感」だなんて言い出しちゃったのかな? 彼女らノマドの人々がどういう場所で生活しているのかを、ほんのちょっとだけかもしれないけれど感じることができる気がします。



 言い方が難しいんですけど、何かが起きるような物語ではないんです。痛ましい凄惨な事件が……とか、感動のドラマが……とかね。雄大な自然の風景と、その中で暮らすノマドの人々を映し出しているだけのロードムービー。観る人によっては退屈に感じてしまうかもしれません。でも、だからこその魅力があるというか……、うーむ。前述した通り、本作の魅力の一つでもある雄大な自然の風景からは、人間の感覚では測り切れないような時間経過を想像させ、たとえいくら金を積もうとも太刀打ちできない価値を感じさせる。それらは「人にとっての家とは」、「お金では測れない価値は」等々、作品の中で描かれている(考えさせる?)事との相性が非常に好い。『ノマドランド』を鑑賞している2時間弱という時間は、イマジネーションに酔い痴れられる贅沢な時間をもたらしてくれる。これもまた一つの “体感” と呼べるやもしれません。また、だからこそ作中に出てくる様々なものに対し、自明ではないながらも何かしらの意味を感じずにはいられなくなるのかもしれません。(そういった点だけで言えば昨年公開の『Away』(感想文リンク)に少し似てるかも。)



 BGMが少ないと先述したものの、その数少ない音楽もまた美しい。CDこそ持っていないけれど、ルドヴィコ・エウナウディの音楽ってのは毎度のことながら本当に素敵。あんま専門的な見解なんて述べられない、一素人のなんとなくの感想でしかないけど、贅沢な時間を阻害しないシンプルで美しい音色が本作にピッタリだと思います。フランシス・マクドーマンドのやつれっぷりというか、渇いた感じも良かったです。相変わらず素晴らしい。自然にノマドの人々の中に溶け込んでいるというか、途中で何度となく「フランシス・マクドーマンドである」ということを忘れてしまいそうになるほど。なんか本作の撮影にあたって、実際にノマドの人々に混ざって車上生活をしてみたんだとか……。いやもうホントすごい。

 どこまでリアルなのか、本作で描かれるノマドの生き方、暮らし方にどこまで幻想が含まれているのかは知る由もありませんが、少なくとも僕の想像していたものとはだいぶ違っていました。なんかもっとこう、自由で、好きなように生きている……そんな働き方をする人たちのことをノマドと呼んでいるのかと勘違いしていた。もちろん、そういう事ができる人達も居るんでしょうけどね。

 実情こそわからないし、綺麗事のような甘い幻想も混ざっているのかもしれないけれど、フィクション性とドキュメント性が両立していたような印象でした。仮に幻想だらけでも、興味・関心を生むきっかけになる。
 ——「あなたの人生を変えるかもしれない、特別な作品」——本作のキャッチコピー、なかなか侮れません。


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