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映画『Away』感想

予告編
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 もう3年前でしたか……。たしか観に行ったのは新宿武蔵野館だったかと。劇場特典でポストカードを貰ったのを覚えています。


 先日投稿した映画『EO イーオー』感想文の中で、本作について触れていたので、今日は『Away』というアニメ映画の感想文ですー。オススメはしづらいですけど、かなり好きな作品でした。


そういえば、二か月くらい前に投稿した映画『窓辺にて』感想文の中でも、本項とも共通する話を述べていました。こういう話をするのが好きなのかもしれません。


贅沢な映画体験


 ——影のように真っ黒な巨人がのそのそと主人公の後を追う。飛行機事故から唯一生き残った彼の心にある恐怖とか、主に内面の負の部分のメタファーなのかな、と思っていた序盤。ちょっとした希望が見えた気がして、ふと巨人の方に目線を向けると、少し小さくなっていたり、逆に「あ、うまくいかないかも……」なんて匂わす描写があった直後はまた大きくなっていたりする。でも次のチャプターになったら、巨人の役割が変わっていたりして……。どういうことなんだろう。——


 ——後半、墜落した飛行機の中から彼を覗く影たち、もっと言えば落下する影たちの目線がずっと主人公に向けられていたのも気になる。「一人だけ生き残ってしまった」という主人公の罪悪感なのかな?っていうかあの影は死人たちの無念が集まった怨念みたいなものなのかな? だからこそ負の感情の起伏にリンクしているように大きくなったり小さくなったりしたのかな?——


 ——禁断の森で出逢った一羽の小鳥。まだ幼いためか自力で空を飛べず、木に生る果実を獲ることもできない。広い森でたった一羽、自力で何もできないという存在は、主人公の映し鏡のように見えてくる。中盤辺りだったかな? 今まで主人公の庇護のもとで旅を続けてきた小鳥が、自力で空へと羽ばたく。あれ……? 映し鏡かと思ったらイイ感じのバディになっている?——



 ……とまぁ、それとなく思ったことを幾つか述べてはみましたけど、実を言うと考察の中身それ自体はどうでもよくて笑。

本作はラトビアのクリエイターがたった一人で作り上げたアニメーション映画。……先に述べておきましょうか。本作を劇場公開まで漕ぎ着けてくれた配給の人、ありがとうっ!


 さて、どんどんと中身に触れていきますが、ネタバレはしていないのでご安心を。というかネタバレも何もあったもんじゃないのですが……。それどころか本作にはセリフがありません。旅の行き着く先に何が待っているかも描かれない。答え合わせなど一切ない寓意に満ちた仕上がりになっています。

結局のところ映画は娯楽の一つ。故にジャンルごとに好き嫌いがあるのは仕方がないし、ハッキリしない作品が苦手な人もいるかもしれませんけど、個人的には、ここまで贅沢な映画体験は他に無いと思う。セリフという言葉、状況を理解するリアクションの表情や仕草……etc.  説明の無い余白は、否が応にも想像力を掻き立てる。言い方が難しいけど、含蓄ある風で薄っぺらい物語ってのは偶に見かけます。ただ本作に関しては、物語それ自体が何かを語るようなものじゃないからこそ、観客のイマジネーションが最大限に引き出され、そしてその感覚に酔い痴れられる。それが一番の魅力だと思います。

映像に陰影や色の濃淡が無い感じは、もはや敢えてなのかもしれません。もしくはそういった絵面(えづら)に合わせた内容にしたのかな? けれどしっかりと凹凸や奥行きが伝わるアニメーションになっているというのも見事です。平たいアニメーションだからこそビジュアル上の歪みやノイズが全く無く、まっさらなキャンパスにイマジネーションという絵の具を塗りたくれるようです。


 もっと言えば『ゼルダの伝説』とか(←上手い例えが浮かばなくてごめんなさい)、いわゆるオープンワールド形式のゲーム世界に迷い込んだようなビジュアルとの相性も好かったのかも。物語の世界観を模索するように観ていた序盤、都合よく落ちているバイクや地図、そしてそれを手にしても特段急ぎ出すことも無く、ゆっくりとした時間の中、川(池?)に浮かんでみたり空を眺めたりする。この時点で既に「おや、この映画、特別な感じがする」と思わされた方も多いんじゃないでしょうか。



 この贅沢な映画体験を「何も起きない」「何も分からない」で片付けてしまうのは非常にもったいない。「何だろう」という想像が観ている者の心を豊かにする。それを言葉に頼らず映像だけで誘い、言語化できない感覚・魅力へと昇華させてくれる。

歩みの遅い亀。チャプター分け。道中にある謎のアーチ。食物連鎖。空の中を走っているような錯覚さえ起こすエアー湖やウユニ塩湖を彷彿とさせる鏡の湖。秩序ある平穏を繰り返す眠りの井戸……。切りが無い「何だろう」が溢れてくる。けれど洪水のように感情が押し寄せるのではなく、一つ一つをじっくり噛み締めるようなスローペース。大きなスクリーンで、上等の音響で、背もたれに体を預け、映像世界に浸る。ああ、なんて贅沢な時間だろうか。劇場で観ているからこそ、時間だのスマホだの仕事だの、そういった忙しない現実の喧騒から解き放たれる本作は、DVDや配信じゃ、その真価を知ることはできない……言い過ぎかな? でも言い過ぎくらいでちょうど良いのかもしれません。


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