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映画『だれもが愛しいチャンピオン』感想

予告編
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  本文中で「今年ラスト~~」と述べてますが、例の如く公開当時(2019年)の話なので、ご容赦を。

 よければ読んでください―。


みんなちがって みんないい


 ゴヤ賞を受賞した時は原題通り『チャンピオンズ』だった本作。正直に言うと、邦題がほんのちょっぴりクサイのは確か笑。でも凄く素敵な物語なんです。「心温まる」「感動」「泣ける」といった、あまりにもありきたりなキャッチコピーや宣伝文句のためにキッチュな気配を疑ってしまう(僕にもそんな時期がありましたけど笑)かもしれませんが、本作で描かれている物語は本当に素敵だから大丈夫。


 プロバスケチームのコーチである主人公マルコ(ハビエル・グティエレス)が、交通違反の罰則として社会奉仕活動——知的障がい者たちのバスケチーム『アミーゴス』のコーチをすること——を言い渡されることから物語が始まる本作には、実際に障がいを抱えている人たちが出演しているんです。人それぞれに感じるでしょうけど、知的障がいに関して日本では割とタブー視というか、配慮し過ぎるあまりアンタッチャブルな存在になりがち。いや、むしろ「目を背けがち」という方が適当かも。

 障がいを抱えた彼らを主軸にしている本作は、多くの人にとって観易く、そして愛される仕上がりになっていたと思います。全編に亘って陽気なBGMが流れているので、とても明るい世界観になり、暗くなることが無い。ユーモアたっぷりのシーンが幾つもあるし、尚且つそれらが笑えるほど面白い。上手く言えないんですけど、ちょっと不毛なやり取りだとか、どうしても生まれてしまう不憫さ故の面白さが織り交ぜられた感じ、っていうのかな?

 更に言えば、だからこそ核心を突く、或いは胸に刺さるシンプルな言葉が紡ぎ出されていく物語に感動させられるんじゃないかな。個人的には、子供を持つことへの不安を吐露したマルコにマリン(ヘスス・ビダル)が掛けた言葉にはやられました。近年観た作品の中では指折りにグッと来ちゃいました。職無し、免停、妻と別居中のマルコと、チームメンバーたちのやり取りは本当に面白い。


 コーチを担うことになった本作の主人公マルコは、ある種の不安症みたいなものを抱えていた気がします。(スペイン語は微塵も聞き取れないから実際のところはわかりませんけど、日本語字幕を見る限りの話で→)マルコが妻のソニア(アテネア・マタ)と口論しているシーンで、ハンディキャップチームのコーチについて「父親役はゴメンだ」と口にしていたことも、“親になることへの不安” を観客に浮き彫りにさせるための台詞だったのかもしれません。

 さらに子供のこと以外にも彼は幾つも不安を抱えている。序盤に描かれている彼の言動や振る舞いを観ている限りだと想像出来ないぐらいだ。ソニアの元から離れた理由について「捨てられるかもしれないから」と口にしていた所なんか如実でしたけど、実の所、彼の不安は大概、彼自身が余計に考え過ぎているのが原因。「恥をかきたくない」という台詞から窺える自己防衛も、子供への不安も同様。そりゃ、「案ずるより産むが易し」だなんて無責任なことは言ってやれないですけど、にしても彼は見切るのが早過ぎる。そんな彼が自身とは対照的に、余計なことなど一切考えたりしない人々と出逢うことで変わっていく様も面白い。それぞれが個性的なメンバーとのやり取りに苦戦する様も、紅一点のメンバーが “天使じゃない” のも最高だ笑。


 マルコとフリオ(ホアン・マルガリョ)が話している時、後ろにあった金魚の水槽はこの物語のシンボル。一目瞭然で金魚だとわかる。なのに一目でそれぞれに違いがあり唯一無二だともわかる。人と違う部分は、あって当然。水への恐怖、エレベーターへの恐怖等、心の弱い部分も同様。物語序盤のマルコのように何もかも無理だと決めつけ否定せず、違いも弱さも肯定し受け入れていく人間賛歌の美しさが際立つのが本作の魅力。金子みすゞさんの詞やジョジョの台詞……、まんま受け売りの物言いしかできない僕の言葉足らずに関しては何卒ご容赦を笑。

 あとついでに言うなら水槽については「金魚(Goldfish)」→「金メダル」という軽い洒落もあると思いますけどね。


 気軽に楽しめるユーモアや人の愛情がいっぱい詰まったハートウォーミング映画だと思います。劇場で観るのはこれが今年ラスト(12月30日現在)かな? 一年の最後をこんな素敵な映画で締め括れて良かった笑。


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